第12話 22:37
マンション前を出発した馬車でしたが、行き先も何も決まっていません。
私はただただ打ちひしがれて、言葉も出ず、涙も出てきませんでした。しばらくハロウィンのネオンにキラキラしている街を、私とルースヴェンさんは馬車に揺られながら眺めていました。
ルースヴェンさんが静かに口を開きました。
「……すいませんでした。途中で私も二人の関係を知ったのですが、エレンさんに話せませんでした……」
「え……」
ルースヴェンさんは分かってたんだ……。そうか! 病院に一人で偵察に行って帰って来た時、妙な感じになってたのは、二人の何かを聞いたか見たんだわ! ああ~……そうか~……。教えてほしかったなあ~……。でも何て話したらいいか、きっと分かんなかったよねえ~……。やっぱり知りたくなかったなあ~……。あれ? ひょっとしてマンション前でこの馬車が待ってた理由も、そういう事? ああ~……ウソでしょ~~っっ。
私はハロウィンのネオンを眺めながら、悲しみや友人に裏切られた辛さ、無念さなどで頭の中はグチャグチャです。
しかしその中にほのかに怒りの感情が芽生え始めてきました。
あれ~? よくよく考えてみたら、あの二人私に内緒でコソコソと不倫してたのよねえ? で、あのマンションで二人で何回も会ってたのよねえ? 部屋借りてるの? あんなに私に「無駄金を使うな!」って言ってたグスタフは、そこにはお金を使ったの? それとも自宅のベッドで……あ~……それを考えるのはやめよっっ! でもよく考えてみたら、何でも「お前はダメ女だから」って私のスケジュールを管理して、自分の都合のいい時間でセブリーヌと不倫してたなんて思ってきたら、めちゃくちゃ腹が立ってきたわっっ! セブリーヌも、あんな涼しい顔をして、ずっと、きっとずっと私を騙してたんだわっっ! 不倫に気づかない鈍い女って、絶対笑ったんだわっっ! もおおおおおおおおお~~~~~~っっ!
「頭きたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!」
私の心の叫びがしっかり声に出ました。
「っっ!」
ルースヴェンさんは馬車のドアまでのけぞり、一瞬ですが、馬車も動きを止めた気がしました。
「エ、エレンさん?」
「ルースヴェンさん! 私、悔しい! 悔しいんですっっ! あの二人が私を弄んでたって思ったらだんだん腹が立ってきて……、もう修羅場になっていいから、あの二人の現場を押さえましょ!」
「エ、エレンさん? 本気ですか?」
「本気ですっっ! それでもうこっちからあんな男、願い下げです! 離婚します!」
あまりの私の変わりように、ルースヴェンさんは口をポカーンと開けたままでしたが、すぐに気を取り直したようで、
「分かりました。戻りましょう」
そうおっしゃってくれました。
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