第17話 0:32

「誰? 誰ですか?」


 ゲゲゲっっ! 見つかったっっ!


 私はゆっくりと手を上げて体を相手側に向けました。

 そこにいたのは元同僚のフランソワ!


「え? エレンさん? 何? え? 何で、何でここにいるんですか?」

「あ~……フランソワでよかった~~~~~~っっ。でも何でここにいるの? パーティーは?」

「あ、パーティーは夜勤前に顔を出しただけですっっ。っていうか、すごい騒ぎになってたんですよっっ! エレンさん何してたんですか?」


 フランソワは私を見て混乱中。しかし私は内心ホッとしました。

 フランソワならこの状況をたぶん許してくれるっっ。そう思ったんです。

 だって私が在籍中、一番可愛がっていた後輩だから。


「お願いフランソワ! 一生のお願い! 今ここに来た事は内緒にして! それでここから道具を持ってくのも見なかった事にしてっっ!」


「ええええ! 無理ですよそんな……訳を話してくださいよ~~っっ」


「だって言っても信じてくれないから……」


「ええ? そんなの聞かなきゃ分かんないじゃないですか! エレンさん! 教えてください!」


 え~~~~~~~~~~~。どうしよう~~。この子こうなったら絶対引かない~~~~っっ。ええ~~い! もうこうなったら~~~~っっ!


「わ、分かった! じゃあ一緒に着いてきていいから、ここの採血の道具、持ってくわよ」


「はい! 分かりました!」


「でもこれ内緒だからね! 絶対だからねっっ!」


 こうして私は道具一式を手に入れて、ルースを連れて医院長室へ。


「ええ? 医院長! 倒れちゃったんですか?」


 そんな訳ないじゃんっっ。


「いいから、一緒に中に入って」


 ガチャ。


 そこにはソファに横になっているルースヴェンさんの姿。しかし微動だにしません。意識を失ってるかも?


「え? 誰?」


「え~~~~っと~~……知り合い?」


「ああ~~~~、訳ありだあ~~~~! そうなんでしょ~~! エレンさん、いけないんだあ~~~~っっ」


 明らかに楽しんでるなこの子っっ。


「もういいじゃない! 私から採血するから道具かして!」


「え? 採血? ここで?」


「ほら、このコップに血を入れるから」


 こうして私はフランソワが見守る中、自分の左腕にゴムを巻いて、自分で血管を見つけて注射針を刺し、そこから管を使ってコップに血を流し込みました。


 よかった……一人でできるかどうか心配だったけど、何とかできた……


 私はホッと胸を撫で下ろしました。

 その時、私の血の匂いを感じたルースヴェンさんが動き出しました。


「ルースヴェンさん。起きた? 血!」


 私がゆっくりと血の入ったコップをルースヴェンさんの元へ持っていくと、ルースヴェンさんは身体を起こしてガッチリと両手でコップを掴み、ゴクゴクと一気にその血を飲み干したのです。


「よかった~~~~……」


 私はホッとしました。すると何かクラ~……と目が回ってきて……するとルースヴェンさんが両肩を掴んで優しく支えてくれました。


 そんな一部始終を見たフランソワは、案の定ドン引きしています。


「え? え? 今、血を飲んだんですか? だ、大丈夫なんですか? え? どういう……」


 フランソワは少しずつ後退して、ドアの所まで行くと、


「な、内緒にしときます~~~~っっ!」


 そう言って走り去っていきました。

 私とルースヴェンさんは、ポカンとフランソワを見届けたんですが、私は元気になったルースヴェンさんの顔を見るととても安心して……

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