第18話 1:56

 ………………………………あれ?


「エ、エレンさん! だ、大丈夫ですか? ルースヴェンさん! エレンさん起きた! 起きました!」


 あれ? 私、倒れた?


 目の前には目をまん丸くしたフランソワと、心配そうな顔(マスクでよく見えないけどきっとそう)のルースヴェンさんの姿。

 どうやら医院長室からは移動してなさそうです。


「もうビックリしましたよ! 私が部屋を出てったら、すぐにルースヴェンさんが目の前に現れて『エレンさんが倒れたから介抱してあげれないか?』って言ってきたもんだから~っっ」


 え? そうなんだ……


「あまり無理しない方がいい。今は立たないでください」


 ルースヴェンさんは優しく話してくれました。

 うん。ルースヴェンさんの言う通り、しばらく横になって……だって今日はいろいろあり過ぎたから……婚約して不倫されて嘘つかれてブチ切れて……後は離婚して結婚すればいいだけ……夜明けまでに……

 夜明けまでに?


「わあ! 今何時です?」


 私は慌てて飛び起きました。


「二時前くらいです。でも大丈夫。気にしないで」


 ルースヴェンさんは優しく教えてくれました。


「二時前……じゃあ一時間半くらい倒れちゃってたんだ。そっか~……」


 私は身体を起こすと、ソファに寝ていた事に気がつきました。


「フランソワ。ごめんっっ、ありがとねっっ。私たち、またマンションに戻らないと……」


 ぐるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる~……っっ。


「あ」

「あ」


 そうだった。私、お昼から、な~んにも食べてなかったんでした。それであれだけいろいろな事を数時間でやって精神も肉体もギリギリだったところで血まで抜いたから倒れちゃったんだわ……バカだなあ~……


「エレンさん。お腹ペコペコなんですね♪ 私、食べ物取ってきます。何かあるはずですから」


 こう言ってフランソワは部屋を出て行きました。


 部屋には私とルースヴェンさんの二人きり。


「ごめんなさいっっ。今、倒れてる場合じゃないのに……」


「いいんです。エレンさんの身体の方が大事です」


 優しいなあ。こんな人と本当に結婚できるなんて、私、すんごい幸せ者なんじゃないのかなあ……


 ついこんなノロけた事を考えちゃうんですが、まだ離婚も成立していない現実があります。


「あの……あれから何か変化へありましたか?」


「いえ何も。それよりも先程の話だと、もう離婚届はベリアルによって燃やされているかもしれません。それにそのうちあの二人はやって来るでしょう」


 そ、そうでした~……。火の中にいる、あの悪魔ベリアルでした~……


「あの……ベリアルを倒す方法とか、あったりするんですか?」


「……いや、私の知る限り、彼は不死身です。なのでベリアルに勝つとすれば……何かに閉じ込める……とか……でしょうか?」


 閉じ込める……魔法のランプ的な? そんなの現実にある訳ないか……吸血鬼も魔王も魔界も半日前までは信じてなかったけど。


 ガチャ。

 あ、フランソワが何か持ってきて……


「ここまでだ。エレン、吸血鬼!」

「ごめんなさい~~~~っっ。捕まっちゃいました~~~~~~~~っっ」


 目の前に現れたのは、くわえタバコをしたグスタフにセブリーヌ、そしてキリスト教の神父様が数人、そして捕まっているフランソワでした。

 神父様はみな手に十字架を持っています。


 この部屋の出入口は今塞がれたドアのみ。

 あ、部屋の奥側には大きな窓がありました♪♪


 でもやっばいっっ!

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