第6話 20:34

 病院の上空で回っていた馬車は、ルースヴェンさんの指示で病院の屋上に着陸しました。

 この場所なら安心です。なぜなら関係者以外立ち入り禁止だから。それにこんな夜に屋上に上がる人なんて、一人もいません。


 私とルースヴェンさんは馬車から降りて、ホテルの方角を眺めました。

 やはり警察が来ているようで、パトカーのクルクル回るネオンが光っているのが確認できます。


 そして時間はすでに二十時三十四分。

 パーティー終了まで後三十分切りました。


「エレンさん。先程話した通りに、ご主人をこの病院に呼ぶ事はできますか?」


「ええ、もちろん。メールしてみます」


 私は夫、グスタフにメールを入れてみました。


【緊急の用事、病院まで来れますか?】


 しかし、これを夫が見てくれるかどうか……。

 そんな訳で信用できるセブリーヌにDM。


【ごめん! 連絡できなかった! 今病院にいるからグスタフを病院に来てもらえるように言ってもらえる?】


 よし! これなら完璧っっ!

 するとすぐにセブリーヌからの返信がきました。


【あ、よかった~! もう心配させないでよね! 緊急って何? 今パーティー会場は警察でいっぱいだし、エレンも一回警察に何してたか言わないとダメよ!】


 ゲゲっっ! そうか! そうですよねっっ! 事情聴取ってのを受けないといけないんですよねっっ! ど、どうしよう……たぶん警察がこっちに向かって来ちゃう~っっ!


「ルースヴェンさん! 連絡入れたけど、警察もたぶん来ちゃう!」


「え? 警察ですか?」


 ルースヴェンさんは左手を口もとに持っていき、しばらく考えました。


「分かりました。私は姿を消す事ができますし、催眠も使えます。どうとでもなるでしょう」


 ルースヴェンさん余裕~!


 この落ち着き様を見て、私も何だか妙に安心してしまいました。しかしグスタフが病院に来てくれるかどうかはまた話が別です。

 私はもう一度グスタフとセブリーヌにメールとDMを送りました。


【もう一度書きます。緊急の用事! 病院まで来て下さい!】


【分かった! 警察に会うから、今は病院に来れない?】


 グスタフからは返信なし。

 セブリーヌからは返信あり。


【分かったわ。何とかグスタフを病院に連れてく。待ってて】


 この返信に私は胸を撫で下ろしました。


「ルースヴェンさん! 夫とセブリーヌが、病院に来るって!」


「え? セブリーヌさんもですか?」


 ルースヴェンさんはまた動揺しまくりです。


「そ、そうですかっっ。では……え~~、エレンさん。私達はどこで二人を待てばよろしいのでしょう?」


「あ~……、と、とりあえず医院長室でいいかと思います」


 ルースヴェンさんはまだ動揺しているようです。これはこれで、見ていて少し痛々しく思えてきました。


「あの~……ルースヴェンさん。こんな機会二度とないかもですから、セブリーヌと直接会ってみたらどうでしょう? 夫には私の方から話をしてみますから」


 私は出来たらセブリーヌとルースヴェンさんがくっつく方が正しい。そんな気がしていたのです。

 だって二人とも独身ですし、私は在婚で今晩中に離婚して結婚してなんて、すごく面倒な事になってるし……そもそもめっちゃ不自然っっ!


 ルースヴェンさんは私の意見にまたまた動揺をしましたが、少し上を向いた後、覚悟を決めたようでした。


「分かりました。一度、セブリーヌさんに直接会ってみます。エレンさん。あなたは何て思いやりのある方なんだ……。ありがとう。あなたに勇気をもらいました」


 おお~! ルースヴェンさん、男になった~~~~!


 そんな訳で、医院長室へ向かおうとした時でした。


 ガチャ。


 立ち入り禁止のはずの屋上のドアが開き、警察の方が二人現れたのです。

 私はいきなりの出来事に驚いたのですが、気がつくとルースヴェンさんが二人の前に立ちはだかったのです。

 そして左手の人差し指を立ててこう言いました。


「ここには何もなかった。いいですね。ここには何もなかった」


 これを聞いた二人の警察官は、


「ここには何もなかった」

「ここには何もなかった」


 と、同じ言葉を繰り返し始め、そのまま振り返ってドアを閉めたのでした。

 ルースヴェンさんは一息つくと、私の方に振り返りました。


「これで大丈夫。ここにはもう警官は来ないでしょう」


 カ、カッコいいいいいいいいいいいい~っっ!

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