13話:神の啓示《アップデート》

 “神の啓示アップデート”とは?


 一言で表すと、この異世界に時たま起きる『天変地異』。

 文字面こそ違うものの、ゲームの更新で使われる「アップデート」と同じ発音であり、実際に起きる事象的にも非常に似ている稀な現象だ。


 よって、東京から来た俺の中では、この異世界は「ゲームの世界」――という可能性は少々現実離れしており、正直言って“その線”はあまり考えていない。

 いくら何でも、今の地球にそこまでの超技術は無いだろう。


 ただ、地球の技術力がどうであれ。

 地球ではないこの世界に俺が来たのは事実であり、“異世界転移に巻き込まれてしまった”という現実は、どうやっても受け入れる他ない。

 そして地球に――元の世界に戻る為に、俺は国王と約束して『魔王』と『七匹の怪物』を討伐した訳だが……いや、コレは話が逸れ過ぎた。


 そろそろ本題に戻ろう。

 コユキと共に訪れた土産物屋で、突如として降り注いだ「黄金の光」の話に。



 ■



 ~ 大通りの土産物屋にて ~


 “神々しい”とは、正にこの光のことを指す。

 天井を貫通して降り注いだ「黄金の光」の輝きは、何もこの土産物屋だけに留まらない。


 窓の外に目を向ければ、これまた眩い光が『国境の町:ラクヴェル』に降り注ぐ光景が――否、この町に留まらず、この異世界全てに降り注ぐ光景が確認出来る。


 同時に。

 店の中に居る者、外に居る者関係無く、俺以外の全員が“静止していた”。


 店の中で雑貨に手を伸ばす者は、手を伸ばしたそのままの姿勢で。

 外を無邪気に走る子供は、片足を地面から浮かしたまま、普通ならどうやっても静止出来ないその状態のままに固まっている。



 まるで、時が止まったみたいに。



 それは人だけでなく、舞い散る桜の花びらも、川の水面すら動きを止めていた。

 動いているのは「黄金の光」が作る“揺らめき”と、生き物に限れば「俺」くらいなもの。

 自分以外が止まった空間の中で、俺はただただ揺らめく「黄金の光」を浴び続けている。


「さて、今回の“神の啓示アップデート”は何秒だ?」


 近くにあった商品の椅子に座り、俺は「ふぅ~」と心を落ち着ける。

 何も慌てることはない。

 これは異世界に来て何度も経験した出来事であり、“世界に何かしらの変化が起きている時間”だと知っている。


 停止している時間が長ければ長い程、世界に起きる変化の規模は大きくなる傾向にあり、時には地形すらも変わってしまう天変地異の出来事となるが――無論、その逆も然り。

 停止した時間が短ければ世界に大した変化は起きず、しかしだからと言って無視していいとも限らない。


(8時間も燃え続けるブラックオークの薪は、5分程の“神の啓示アップデート”で追加された。まだまだ知名度は低いが、これからその価値が広まって値上がりしていくことは想像に難くない)


 そして、今回の“神の啓示アップデート”は、時が止まっていた時間は――172秒。

 3分弱の停止を経て、止まっていた全てが一斉に動き出す。



 人々の雑踏ガヤガヤ



「おっと、雷か」

「一瞬だけ光ったな」

「音が聞こえなかったから、相当遠くの雷だろう」

「ねぇお母さん、ぼくアレが欲しい~」

「駄目よ、先月も買ってあげたじゃない」


 あっという間に元通りの日常。

 一瞬の「雷」は人々の興味からすぐに消え去り、皆が何事も無かったかのように「3分前」と変わらぬ時間を過ごし始める。


(ふむ、今回は約3分の“神の啓示アップデート”か。そこまで大きな変化は無かったとみえるが……如何せん、今の時点では判断がつかんな)


 コレが“神の啓示アップデート”の厄介なところ。

 どんな変化が起きたのかは、止まった時間の中で唯一動くことが出来た俺にもわからない。


 見える範囲で地形が変わるとか、そういうレベルの“神の啓示アップデート”でないかぎり、何が変わったかの情報を得るのも一苦労。

 現時点では何も気づいていない一般市民と同じと言ってもいいだろう。


 なお、何も気づいていないのはコユキも同じ。

 俺の“すぐ目の前で”で、彼女はジ~っと棚の小物を見つめている。


「――その髪飾りが欲しいのか?」


「ひゃッ!? え? あっ……キリサメ様、いつの間にわたくしの隣に?」


 余ほど吃驚したらしい。

 満月の様に瞳を丸くしてこちらを見返すが、その質問には答えない。


「コユキ、金は持っているのか?」


「え、お金ですか? 一応、わたくしの全財産を持って参りましたが……」


「いくらだ?」


「えっと、金貨3枚と銀貨が15枚、それに銅貨をいくつか」


「なるほど……(大金、とは言えない額だな)」


 1週間分の食料や消耗品(二人分)を買えば、あっという間に娘の懐はすっからかんとなる。

 無論、元より買い出しに使う金は俺の財布から出すつもりだが、それでも全財産が「金貨3枚と銀貨15枚」というのは如何なものか。

 辺境の地にある「魔王の城」に来た以上、その金を増やす手段が無ければ「無一文」と大差ないだろう。


「よし、ならばこうしよう。これから毎月、俺からキミに小遣いを渡す」


「え、お小遣いですか?」


「あぁ。城の掃除や飯を作る、その為の賃金だとでも思ってくれ。たまにこういう町に来た時、その金で自分の好きな物を買うといい」


 これでコユキが不満を抱き、作る飯が不味くなる事態は避けられる。

 勇者時代に稼いだ金はたんまりとあるし、小遣い程度の出費で飯が美味くなるなら安いものだと、そう納得したのは自分だけ。

 俺の提案を受け、コユキがギュッと唇を紡ぐ。


「お言葉ですが、わたくしは仕事ではなく“とつぎ”に来たのです。賃金など要りません」


 ――それは、彼女が初めて見せた“不満げな顔”だった。


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)」も是非。

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