7話:お籠り日和
青天の空。
昨夜の吹雪が嘘のように、この雪山では貴重な晴れ晴れとした青空が広がっていたのは、ほんの10分程前の話。
山の天気が変わり易いというのは本当で、城を出て間もなくチラチラと雪が降り始め、どんよりとした雲が爽やかな青空を早々に塗り替えた。
「せっかくのお出かけ
冬に夏を懐かしむ様に。
後ろを歩く娘が残念そうに気持ちを吐露するが、俺としては「はて?」と心の中で首を捻る。
「キミの育った村では、雪の天気をそう言うのか?」
「あ、いえ。思いついたから言ってみただけです。外に出たくなる晴れた日がお出掛け日和なら、家に籠りたくなる雪の日はお籠り日和かなぁと」
「なるほど……キミは変なことを考えるのだな」
「すみません。お気に障ったのであれば、今後は口に出さない様にします」
何故か娘が謝る。
この子は何かと謝る癖があるようだが、そんなに俺が怒っている様に見えるのだろうか?
「別に怒っている訳ではない。俺はそんな考えを持ったことも無かったから、少し面白いなと思っただけだ」
「え……面白い、ですか?」
「………………。まぁその、面白いというか興味深い考えだな。――それより、寒くはないか?」
「はい。勇者様に貸していただいたこのマント、凄く温かいです。ありがとうございます」
フードを被り、漆黒のマントに包まれる彼女が頭を下げる。
その姿はまるで「妖怪:雪わらし」だが、恐らくこの世界に「妖怪」の概念は無いので、この例えが彼女に伝わることは無いだろう。
――今更だが、結局は今回の買い出しに娘を連れて行くことにした。
この流れになった経緯と言うか、螺旋階段の下で娘が出した“言い訳”はこうだ。
『確かに
要らぬ、荷物持ちなど必要無い。
と断ることも出来たが、よくよく考えるとそれも“危険”だと判断した。
(俺が居ない間に、娘が城を物色するかもしれない。部屋に鍵は掛けているが、万が一侵入されて中を見られる事態は避けた方がいいだろう)
そういう訳での前言撤回。
体力的に問題無いなら娘を連れて行った方が余計な心配も無くなると、一緒に買い出しへ出掛けた次第となる。
なお、目的の町までは山を2つ越える必要があり、ほとんど雪で埋もれている山道を歩いて、俺の脚で往路は4時間。
復路は背中の
これなら朝の9時出発でも19時過ぎには城に戻って来れる計算だが、娘が一緒となると話は別。
歩幅的に、どうやっても俺よりも歩くペースは遅く、往路も復路も更に時間がかかることを踏まえると、城に到着するのは相当遅い時間帯となってしまう。
(いくら体力に自信があるとは言え、娘は昨晩も雪山を歩いて城まで来たのだ。流石に今日丸一日歩かせるのは無理があるだろう)
朝食の準備の為、俺よりも早く起きて動いていた小さな身体。
藁の雪靴を履き、俺の歩いた道を一所懸命に付いて来る小さな身体。
無理すればあっという間に壊れてしまいそうで、流石にそれは俺も望んだ展開ではない。
今日は買い出し先の町に泊まり、城に戻るのは明日に先送りするのがベスト。
――そんなことを考えながら、ただひたすらに雪の山道を歩くこと3時間。
既に中間地点は過ぎ、このペースならあと2時間程で町に着くだろうと思った矢先に、景色が一変。
“
横殴りの暴風雪により、視界の全てが真っ白に染まった。
森林限界付近を歩いていた為に風を遮る高い木も無く、もろに直撃を受ける俺の視界は限りなくゼロ。
それに加えて、常にジェットコースターの先端に居る様な強風が襲って来る為、まともに先へ進むことが出来ない。
「これは……無理して進むのは危険だな。先ほど通り過ぎた大岩まで戻り、そこで風が収まるのを待とう」
――――――――
――――
――
―
~ 大岩の岩陰にて ~
暴風雪を凌ぐ為、
洞窟の中とまでは言わないまでも、少し抉れた岩場に身を潜めれば、多少は風の影響を弱めることが出来る。
「風が落ち着くまで、しばらくここで休憩としよう。――キミ、体力の方は大丈夫か?」
「はい。多少の疲れはありますが、まだ全然大丈夫です。ただ……いえ、やっぱり何でもありません」
「何だ、言いたいことがあるなら言いなさい。途中で引っ込められると気になるだろう。それとも、何か後ろめたいことでも?」
「いえ、そういう訳ではないのですが……その、やっぱりこの高さまで上ると、少し寒いなぁと。――あ、でも勇者様に貸していただいたマントもありますし、別に全然我慢出来る程度なので気になさらないで下さい。本当に、全然大丈夫なので」
「……ふむ」
繰り返し「大丈夫」を強調されると、大丈夫でない気がするのは俺だけか?
まぁ今すぐ凍えて動けなくなりそうな雰囲気は無いし、本当に大丈夫なのだとは思うが、とは言え途中で倒れられても困る。
「キミ、
「あ、はい」
娘を横に座らせ、その肩を抱き寄せる。
「ひゃッ!?」
「驚くな。身を寄せた方が温かいだろう」
「え? あ、そう……ですね」
念の為に持って来た薄手の毛布で二人の身体を包めば、これで多少は寒さもマシになった筈だ。
「まだ寒いか?」
「いえ、十分温かい……です。ありがとうございます」
「気にするな、おかげで俺も暖を取れる。人の温もりを感じることなど、いつ振りだったか……」
娘の頬が赤く染まり、何故か益々以って
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