15話:マニの仕事と秘密文書

「おーい、こっちこっち~」


 目当ての酒場に行くと、ジョッキを片手にした女性から声を掛けられた。

 スラっとした細い身体に、長い赤毛を後ろで結んだ快活そうな少女で、キャンドルライトの淡い光に包まれた壁際の席で俺を手招きしている。


「悪いなマニ、待たせたか?」


「まぁね。10時間くらい待ったかも」


 軽い口調で告げた彼女の前には、空のジョッキが2つ。

 10時間は嘘だとしても、少し前から飲み始めていたらしい。

 多少の申し訳なさを覚えつつ、それよりも気になるのは、やけに“他の客からの視線を浴びている”ことか。


「何だ? 無駄に注目を浴びている気がするが……」


「あはははッ、そりゃそうだよ。ここに居る全員、キリサメが来る前に皆アタシに“フラれた”からね。それでどんなイイ男が来るのか興味津々だったんじゃない?」


「なるほど、そういうことか。相変わらずモテるみたいだな」


「そりゃそうでしょ。こんな美少女が一人で飲んでたら、男は普通放っておかないよ。アンタ以外はね」


「それで、昼間の件だが――」


「おい、スルーすんなし!!」


 チョップべしッ


 席に着いたら額を叩かれた。

 別に痛くもないので怒ることはせず、ビールを頼んでマニと向かい合う。


「それで、昼間の件だが――」


「あー、待った待った。せっかく久しぶりに会ったんだからさー、ちょっとは近況を話したりしようよ。昔話にも花を咲かせたいし」


「俺は別に、昼間の件を聞ければそれでいいのだが」


「はぁ~、キリサメは相変わらずだねぇ。アンタ顔は良いのに、そんなんじゃあモテないよ? アタシくらいしか引き取り手が居ないんじゃない?」


「かもな。……いや、そう言えば昨日“俺の嫁”を自称する娘が来たな」


「は? 何その面白そうな話。ちょっと詳しく聞きたいんだけど」


 身を乗り出し、爛々と瞳を輝かせる興味津々なマニ。

 隠す話でもないので、ビールが届いてから彼女に「嫁ぎに来た娘(自称):コユキ」のことを話すと、乗り出した身を一旦引いて、彼女はジョッキに残っていたビールをグイっと飲み干す。

 それからテーブルに頬杖をつき、3杯飲み干しても全く変わらぬ顔色でこちらを見つめてくる。


「まさか魔王を倒した後に、そんな事があったとは……キリサメも大変だねぇ。でも良かったじゃん」


「良かったというのは、何がだ?」


「無理やりでも何でも、アンタに“女が出来た”ことだよ。キリサメってマジで女っけが無かったし、アタシも心配で男の1つも作れなかったからね」


「何だそれは? 俺のことなど気にせず男を作ればいいだろう。マニなら引く手あまただし、選び放題だと思うのだが」


「………………。キリサメさぁ~、アンタってマジで……いや、もういいや。その変わらなさを確認出来て、むしろホッとしたよ」


「?」


 何やら一人で納得したマニだが、彼女が何を言いたかったのかはサッパリだ。

 理解出来ないモヤモヤとした気持ちは残るものの、俺としては自分の話よりも彼女の話を聞きたい。


「そういうマニはどうなんだ? 盗賊業からは脚を洗って、今は商会で働いているとか言っていたが」


「そうだね。キリサメと別れていくつか街を見て回った後に、資金が底を尽きそうになって商会で働き始めたんだ。アタシは身体動かす方が好きだから、それで“荷運び”の手伝いを始めたんだよ」


「荷運び……なるほど、それでこの町に来ていたのか」


 魔王の城がある“雪山を迂回すれば”、ここ『国境の町:ラクヴィル』から隣の『トト王国』までは馬車でも行けるルートが開拓されている。

 地政学的にも『国境の町:ラクヴィル』が「貿易」で栄えるのは必然だろう。


 昼間は観光名所の「桜」と「土産物屋」に目を奪われていたが、そこから少し目線をズラすと、荷物を積み替えて各々の行路へ旅立つ業者の姿がアチコチで見掛けられた筈だ。


「仕事を見つけたのは何よりだが、その荷運びの仕事がどうして“神の啓示アップデート”の件に繋がる? それに昼間は“情報屋”がどうとも言っていたが……」


「もう、キリサメは気が早いなー。アンタって実は〇漏だったり?」


「マニ、女の子がそういうことを口にするのはどうかと思うぞ。酒を飲んで気分が上がっているのかも知れないが、なるべく気を付けた方がいい」


「……はぁ~、キリサメって本当にキリサメだね。笑って適当に済ませてくれりゃあいいのに」


 先ほどニヤついた表情を浮かべたマニが、一気に冷めた顔で深い溜息を吐いた。

 まるで俺が悪いかのような言い草だが、これに関してはこちらに落ち度など無い、と思う。


 それからマニは不満げに膨らませ。

 膨らんだ頬を速攻で萎ませ、再びテーブルにグイっと身を乗り出す。


「まぁいいや、話の流れ的に丁度いいから教えてあげる。その荷物運びの仕事でね、最初は馬車で穀物とか香辛料を運んでたんだけど、ある時“盗賊”に襲われてさ。最低だよね、人のモノを力づくで奪うなんて」


「どの口が言ってるんだか……それで? 盗賊に負けるお前じゃないだろう?」


「勿論。魔王を倒した勇者様に鍛えられたこのアタシが、当然の様に盗賊を撃退したって訳。――で、そこまでは普通の話なんだけど」


 いや、若い女が盗賊を撃退するのは普通の話ではない。

 が、そこを突っ込んだら話が進まないので、俺は彼女の話に耳を傾けた。


「それでさ、上の人達で何か話し合ったみたいで。それからちょっと経って、アタシに“重要な荷物”が任せられたんだ」


「重要な荷物?」


「何だと思う? もし一発で当てられたら、ここはアタシが驕ったげるよ」


「ふむ、重要な荷物となると……やはり金か? “送金”は護衛に金がかかるが、お前一人で済めば商会としても安上がりだからな」


「ブッブ~ッ、残念外れ。それじゃあここはキリサメの驕りね」


 そんな条件は聞いていないが、最初から俺が払うつもりだったので問題は無い。

 重要なのは「答え」の方で、それからマニは鼻先がくっつきそうな程に顔を近づけ、告げる。


「正解は“啓示秘文パッチノート”」


「……パッチノート?」


「そう。アタシが運んでいるのは、“神の啓示アップデート”の情報が記された秘密文書だよ」


「ッ!?」


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)」も是非。

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