🌏異世界アップデート/糞みたいな世界で「国外追放」になった俺だけど、嫁ぎに来た娘が健気過ぎて良い子な上に、何故かアプデの度に可愛くなるので否が応でも愛でてしまう偏愛スローライフ

ぞいや@4作品(■🦊🍓🌏挿絵あり)執筆中

1話:吹雪の夜に嫁が来た

 2年前、東京で一人暮らしをしていた俺は、ひょんな事から異世界へと渡った。

 そして2年間の紆余曲折を経て、異世界に混沌をもたらしていた『魔王』と『七匹の怪物』を討ち滅ぼした訳だが……。



 ■



 ~ 『魔王』討伐から1か月後 ~


 扉を叩く音ドンドンッ


「ごめんください。夜分遅くにすみません」


(……ん? こんな夜中に誰だ)


 パチパチと、蛍にも似た火の粉が踊る暖炉の前。

 ロビーの椅子に座って転寝うたたねをしていた俺は、静かな時間を邪魔する来訪者によって目が覚めた。


 人里離れた雪山の小さな城に――元々は『魔王』が暮らしていたこの古城に、人が訊ねて来ただけでも珍しいというのに、それも陽が落ちてから随分と経った時間帯。

 年季の入った柱時計は22時半を指しており、訪ねて来るには少々常識が足りていない様に思える。


 扉を叩く音ドンドンッ


「ごめんください。何方かいらっしゃいませんか?」


 扉を叩く音ドンドンッ


「ごめんください」


 扉を叩く音ドンドンッ


(……はぁ~)


 仕方がない。

 やれやれと溜息を吐き、椅子から立ち上がって玄関に向かう。


 大して広い城でもなく、暖炉の前から玄関までは10歩もあれば足りる距離だ。

 だからこそノックの音に気付けた訳で、だからこそ眠りを邪魔されたのだと、内心でいきどおりを覚えながら扉を開けると――“吹雪”。


 ビューと音を立てて舞い込む雪風が、早くも暖炉の熱を恋しく思わせる。

 このまま何事も無く扉を閉めてやろうかとも思ったが、目の前に居る“小柄な娘”を無視する訳にもいかないだろう。

 色褪せたコートを羽織る娘がフードを脱ぎ、雪女の様に青白い肌でこちらを見上げていた。


「……何の用だ?」


「わ、わたくし、勇者様の妻となる為に参りました。名を『コユキ』と申します。夜分に大変申し訳ないのですが、勇者様へのお目通しをお願い出来ますでしょうか?」


 勇者――その呼び名も既に懐かしく感じる。

 確か初めてそう呼ばれたのは、今から2年前の事だったか。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



「聖剣に選ばれし勇者よ、世界に混沌をもたらす『魔王』と『七匹の怪物』を打ち滅ぼすのだ。さすれば其方そなたを元いた世界に戻してやろう」



 2年前、異世界に渡った俺は、目の前にあった聖剣を何となく抜いた。

 すると「勇者だ、勇者だ」と持て囃され、あれよあれよという間に国王に謁見。

 アレコレ事情を話した後、先の使命を受けた次第となる。


 そんな国王の言葉を信じて。

 俺は2年の歳月を費やし、激闘の末に『七匹の怪物』を倒し、遂には『魔王』への引導を渡した。

 これで元の世界に――東京に戻れると、そうやって浮かれていたのは最初だけ。


「大儀であった。褒美として、其方そなたには『魔王』の城を与えよう。その代わり、“金輪際この国への立ち入りを禁ずる”」


「は? いや、ちょっと待ってくれ国王、一体何を言ってるんだ? というか、元の世界に戻る約束はどうなったんだ?」


「……はて、そんな約束を交わした覚えは無いな」


「はぁッ!? まさかアンタッ、俺を騙して――ぐッ!?」


 近衛兵に押さえつけられ、顔を上げた先には“切っ先”。

 騎士団長の剣が目の前に迫り、更には全方位から「百の剣」が俺の身体に向けられていた。


 今ここで暴れても、良い方向に事態が転がる未来は見えない。

 膝を着き、ただ唇を噛みしめる俺の背中から騎士団長が「聖剣」を引き抜き、国王に渡す。

 それを受け取った国王は、変わらぬ声で淡々と告げる。


「平和になったこの世界に、もう其方そなたの力は必用無い。このまま大人しく出ていくか、聖剣も無しに抵抗して死ぬか。其方そなたに選べる未来は二つに一つだ」


(ッ~~!!)


 俺はようやく理解した。

 この世界に来て、たまたま聖剣を上手く扱えただけの人間を「勇者」と呼び、おだてて木に登らせたのだと。

 都合よく利用されただけなのだと、今更それに気づいたところで意味は無い。


「国王……アンタ本当は、俺が元の世界に戻る方法なんて知らないんだろ?」


「ふん。異世界などという戯言ざれごとを何処の誰が信じるモノか。大方、其方そなたは頭でも打っていたのだろう。国を出る前に診療を受けるくらいなら認めてやらんこともない」


 歯ぎしりギリリ……

 頭を押さえつけられ、それでも収まらぬ怒りで俺は国王を睨む。


「“怖い”んだろう? 聖剣を持った俺が。反乱でも起こされたら困るから、だから聖剣を奪って俺を国から追い出すんだ」


「――あぁ、その通りだ」


 意外な程に呆気なく認め、国王は聖剣を床に突き刺す。

 すると聖剣は床に沈み、そのまま跡形もなく姿を消した。


「過ぎたる力は、必ず争いの火種となる。ならばこそ、大きく燃え広がる前に鎮火するのが国王たる我の務め。民を守る為、平和の為に最善を尽くした結果だ」


「その守るべき民の一人を、こうして追い出すことも王の務めか?」


「何を言っている。其方そなたは異世界から来た人間なのだろう? この国の民ではないなら守る必要も無い」


「………………」


 あまりの屁理屈に絶句。

 収まらぬ怒りが一周して静まり、冷えた分だけ虚無感へと変わる。


 そんな俺の虚無を悟ったか、国王は「ふぅ~」と大きな溜息を吐いた。


「このまま静かに国を出て、なるべく人目に付かず暮らすこと――それが互いの為だ。生活に不自由しないよう、身の回りの世話をする娘くらいは送ってやる」


「……必要ない。どうせ俺を監視する為の駒だろう?」


「理解しているなら受け入れろ。それも込みでの追放処分だ」



 “処刑せぬだけ寛大だと思え”。



 そんな偉そうな言葉を最後に、俺は「国外追放」となった。



 ―

 ――

 ――――

 ――――――――



 それから1ヶ月。

 俺は雪深い山奥の城で、ひとりぼっちの隠居生活を送っていた。


 東京に戻る希望は断たれ、この人目につかぬ異世界の雪深い城で、死ぬまでひっそりと生きるだけの人生だと思っていたが、そこに現れたのが“この娘だ”。


 俺の胸程しかない小柄な身体で、雪女の様に青白い肌でこちらを見上げている。

 つい先程は「勇者様の妻となる為に参りました」と述べていたが、実態は全くの別だろう。


(恐らくこの娘は、国王の言っていた“監視役”。邪魔なだけだから追い返したいところだが……)


 身震いブルルッ

 日も落ちた夜の雪山で、風も相まって余程凍えるのだろう。

 娘が小刻みに身体を振るわせ、我慢の表情で立っているのを見たら、流石に無下に扱う気も失せる。


「……とりあえず、中に入りなさい。そのまま凍死でもされたら夢見が悪い」


 勝手に入り込む吹雪よりは、まだこの娘の方が聞き分けもいいだろう。

 そう自分に言い聞かせ、俺は吹雪を追い出す代わりに娘を城に招き入れた。

 

 ――これが、吹雪の夜に現れた娘:コユキとの初邂逅。

 この“異世界がアップデート”される度に可愛くなる、後に「俺の嫁」となる少女との出逢いだった。


 ――――――――――――――――

*あとがき

本作の更新はスローペースとなる予定です。

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