第8話 猫になりそう
俺のテイマーとしての登録も終わり、小針浜さんたちが帰った後。
ミャロの首には赤い首輪がはめてある。
「うにゃ、なんか違和感があるです。コーキ、お願いだから死なないでくださいね。コーキが死ぬと私も死ぬ……死にたくにゃい……」
「俺も死にたくないから死なないように最大限気をつけるよ」
「あとコーキ……おなかすいた……」
時計を見るともう昼の十二時を回っている。
朝飯も食ってないから俺も腹が減っているな。
なんか食いに行くか……、いやみだりにモンスターは連れ歩かないようにとは釘をさされたしな。
そもそも、今俺は無職だから外食なんて贅沢は許されないんだった。
「んー。お前、食えないものとかあるか?」
「んにゃ。ない、と思うですにゃ。でも猫化しているときは玉ねぎとかチョコレートとか猫にあげちゃいけないものはあげないで欲しいにゃ。体調崩すかもにゃ。でもこの姿になっているときは何でも食べられるですにゃ」
「そういやお前子猫になったり人型になったりしてるけどどういう時に猫になるんだ?」
「疲労しているときとかに猫になっちゃうのですにゃ。基本的にダンジョン内にはマナが充満しているから私も常に人型でいられる……にゃけど、地上だと自分でもコントロールできないタイミングで猫になっちゃうみたいなのにゃ……」
「自分でもわかんないのか」
「だって私はまだ生まれたばかりでワーキャットとしては未熟なのにゃ」
ふーん。
まあそのうちいろいろわかってくるだろう。
激安スーパーで買ってきた納豆とインスタント味噌汁で昼飯にする。
「うま、うま、うまいです!」
正座して納豆ご飯を箸で胃袋にかきこむ猫少女。
猫が納豆食うのかわからんかったけど、おいしいならよかった。
今度、猫の姿の時用にカリカリでも買ってこようかな。
「しかしまーどうすっかなあ」
「なにがですにゃ?」
「ああ、俺は昨日パーティ追放されたからな。無職なんだ。ほら、ダンジョンが生成されて以来、いろんな影響があって世界的な不況だろ?」
そうなのだ、現代社会の有効求人倍率は0.35。
大不況の真っただ中といってもよかった。
ろくな就職先もないし、結局命を賭けてダンジョン探索をするしかなさそうだ。
ダンジョン内でモンスターを倒せば貴重なアイテムを手に入れることができたりもするし、ダンジョンの深層階で採掘・採取できる鉱石や植物は持って帰れば高値で売れるものもある。
パーティを追放されたといっても探索者登録まで抹消されたわけじゃないし……。
「んにゃー? ダンジョンなんてニンゲンにとっては危険なものじゃないですかにゃ? なんで一般人に開放してるのかにゃあ? グンタイとか送り込めばいいのに」
「最初はそうしてたらしいんだ。だけどさ、ダンジョン内では火薬とか電気を使う銃火器はなぜか無効化されるだろ? で、結局スキルを手に入れないとダンジョン探索はできないんだけど、スキルを手に入れられる才能の持ち主は百人に一人の確率なんだ」
俺にその才能があったのはラッキーだった。おかげで探索者になれたのだ。
「んでさ、日本だけでダンジョンは50以上も生成されてとてもじゃないけど自衛隊の人員だけでは探索できない。でもダンジョンで採掘採取されるアイテムは国家の重要な資源だ。ダンジョンを放っておくとモンスターが湧いて出てきて民家を荒らしたりするし。さらにいうと、この大不況……」
そう、若者の失業率が上がると国の治安は一気に悪くなるし、経済も回らなくなる。少子化もさらに加速するし。
「だから、苦肉の策として探索者という職業で若者の就業率をあげるとともにダンジョン資源も確保できる施策として一般にもダンジョンが開放されてるんだ。いくつもの法律でいろいろと規制があるけどな。さっき来た市役所の人も法律に従ってここに来たってわけだな」
「へー、いろいろあるんですにゃ……」
「今度は俺が聞く番だ、いろいろ聞きたいことがある」
「私、あんまりモノを知らないですけどにゃ……? あ、お代わりください」
「納豆は一食一個までだ、あとはふりかけで食えふりかけで。……で、お前はどこで生まれたんだ?」
「わかんないですにゃ」
「でも自分の名前は憶えていたじゃないか」
「そりゃお母さんが名付けてくれた名前くらいは憶えていますにゃ。でも気が付いたらお姉ちゃんと一緒にあのダンジョンにいて……」
「お姉ちゃん?」
「はいにゃ。私はダンジョンで最強を誇る強さがあったけどお姉ちゃんは病弱で……。ダンジョン内でレッドドラゴンと戦闘になってさすがの私もお姉ちゃんを守りながらだったからうまく戦えなくて……。それで、やっとのことでお姉ちゃんを逃がして私もダンジョンからなんとか脱出して……そしたらあの空を飛ぶ黒い悪魔が……」
あのカラスのことか。
「そこにコーキが現れて私を助けてくれたのですにゃ。だから、コーキは命の恩人なのですにゃ」
まあ本当のところを言うと、池に放り込んで動画を撮ろうとしてたんだけどな……。
「お姉ちゃん、今頃どうしているか……。私、お姉ちゃんを助けに行きたいにゃ。どうか、私もダンジョンに連れて行ってくださいにゃ」
「話を聞く限り戦力になりそうだし、もちろん連れていくぞ。ダンジョン探索しなきゃ俺たち飢え死にだしな」
レッドドラゴンと渡り合えるなんてとんでもない実力だぞ。
「明日、早朝からダンジョン探索しよう。お前の姉ちゃんも助けに行くぞ」
「はいですにゃ! ……あ、安心したら眠気が……猫になりそう……猫になると知能が猫なみになっちゃうのです……変なこと、しないでください、にゃ……」
次の瞬間、ポム! という軽い音とともに人間の姿からちっちゃな子猫に変化《へんげ》するミャロ。
「なーお」
と鳴いて、そのままあぐらをかいている俺の股の上にあがると、そこで居眠りを始めた。
やべえかわいいじゃねえか。
こんなかわいい子猫に、変なことするなと言われてもするわけがないぞ。
俺はミャロを股の上に乗せたままノートパソコンを引き寄せると、動画の編集を始めた。
一応、ミャロをカラスから助けるところをスマホで撮影はしてるので、編集してyootubeに投稿してやろうと思ったのだ。
万が一バズったら大金持ちだしなっ!
…………ワーキャットの救出動画って需要あるかなあ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます