第13話 吸えー!

「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」


 小針浜さんが言った。


「突然なんにゃ?」

「ラテン語でいうなら、Si vis pacem, para bellum.パラベラム弾の語源よ」

「はあ?」

「猫は頭が悪いわね。私が戦うのは平和のためって意味」


 そう言って小針浜さんはミャロに向かって射撃した。

 タタタン! タタタン!

 三点バースト機構がついたサブマシンガンのようで、一定のリズムで弾丸を打ち出す。

 だが、ミャロもさすが自称ダンジョン最強のモンスター。

 とんでもないスピードでそれをかわしていく。

 っていうかさ。


 俺が。

 俺が、死にそうなんですけど……。

 俺の身体から噴き出した血が床を濡らしている。

 頭蓋骨は粉砕されて、これもしかしたら外から見たら俺の脳みそ見えてるんじゃね?

 さすがにそろそろ意識が……。

 死ぬ……。


「コーキ! 死ぬなですにゃ!」


 死ぬなと言われて死なないでいられるなら、そんな簡単なことはないわけで。


「コーキは回復術師なのにゃ! ヒーラーならヒールの魔法をつかうのですにゃ!」


 あほ言うな。

 魔法っていうのはな、ダンジョン内じゃなきゃ使えないんだ。

 どういう理屈なのかはわからん。

 研究によるとダンジョンの空気に含まれる微量ななにか――マナと呼ばれる――の要素を呼吸によって体内に取り込むことで不思議な力が備わるとかなんとか……。

 しかもその要素は保管不能らしく、ダンジョンの空気を地上に持ってきても効果はなくなる。

 ここはダンジョンじゃないし、ダンジョンの空気もない。

 だから、俺は治癒魔法を使えない。

 そして俺は現代医学をもってしても救えないほどの重症を負っている。

 つまり、待っているのは確実な死なのだ。

 ミャロ、すまない、お前を俺が助けたばっかりにその首輪はめられちまって……。

 俺が死ぬと首輪がしまってミャロも死ぬ。


 すまない、俺はもう……。


 意識がもうろうとしてきた。

 ミャロが弾丸をかいくぐり、小針浜さんをぶんなぐる。

 バンギャファッションに身を包んだ小針浜さんの身体がもんどりううって壁に叩きつけられた。


 勝ったか、でもすまん、終わりだ死ぬ……。


 と、そこにミャロが駆け寄ってきて、着ていたトレーナーを胸までまくりあげた。

 すべすべのおなかとかわいらしいおへそが見えた。

 そしてミャロは……。

 そのおなかを俺の顔に押し付けて叫んだ。


「吸えー! 吸えなのにゃです! 私を吸うのにゃです!」



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