第17話 個体差

 さて俺が一番良く知るダンジョンといえば、ミャロを拾った場所でもあるじゅんさい池ダンジョンだ。

 俺を追放した西村のパーティとはかちあいたくなかったから調べてみたら、どうやらあいつらは今は隣県に遠征しにいっているらしい。

 遠征というか、旅行というか、そんな感じみたいだな。

 なぜそれを知ったかと言うと、多香子のインサタグラムを俺はフォローして毎日見ているからであった。

 ……かなしい男の習性である。

 まあそんなことはどうでもいい、探索だ。

 じゅんさい池ダンジョンは、ダンジョンとしてのランクは暫定S。

 暫定っていうのは最深部まで潜れたパーティがいまだいないので、このくらいだと類推されているのだ。

 ランクはSSSからDまであるので、Sっていうのはまあまあ難易度が高い方ではある。


「でも今回は地下二階までいったらすぐ帰るぞ、配信のテストも兼ねているし、ミャロ、お前の実力も見ておくからな」

「わかりましたにゃです。私の爪はマジヤバ強力ですからにゃ!」


 Sランクダンジョンといっても、浅い階層なんてはっきりいって弱いモンスターしか出てこない。

 スライムとか、スケルトンとか。あとは野生化した野良犬とか。

 ……いや、強いんだぞ犬って。

 想像してみてくれ、こっちに猛然とダッシュしてくる大型犬、シェパードとかが牙むき出しで十頭くらいに襲われたら、剣一本持っている程度の人間じゃたちうちできんからな!?

 ファンタジー世界とは違うんだぞここは。

 しかも野良犬もダンジョン内の空気に触れて狂暴化しているし。

 

〈さあはじまったな、ワクワク〉

〈トコトコ動画でダンジョン配信しているパーティのうち、半分は一年以内にグロ動画残して死ぬらしいからな〉

〈浅い階層だと視聴者稼げないから、ダンジョン配信者はどんどんエスカレートして実力以上の階層に潜っちゃうからそうなるらしいぞ〉

〈がんばれ、死ぬなよ〉


 そうやってコメント欄に応援(?)されながら俺たちはダンジョンを進む。

 ここのダンジョンはごく普通の一般的なつくりをしている。つまり直線的に切り出された石を綺麗に積み上げられて迷宮となっているタイプだ。

 もちろん明かりなんてなくて真っ暗闇、だったのだが、探索者たちが壁にダンジョン内に充満する不思議な力――マナと呼ばれている――を燃料とするマジックランタンをあちこちに設置しているので、誰かが足を踏み入れたことのある場所であれば目視で戦闘するのに不自由はないくらいには明るい。

 ミャロが話していた通り、Wi-Fiが通っているので配信はラクラクだ。

 まあ地下一階を特に緊張もせずに進んでいると。

 お。

 きたぞ。


「野良犬かな……いやちがう、ちゃんとモンスターもいるぞ、あれはドッグゾンビだな」


 犬の死体になんらかの低級な悪霊がとりついて身体をあやつり、探索者に襲い掛かってくるのだ。

 そいつが五頭ほど、こっちにむかって歩いてくる。

 動きはのろいが痛覚がないので、戦うときは要注意だ。

 とは言ってもしょせんは地下一階のドッグゾンビ、本来であれば俺一人で攻撃魔法でも打てば瞬殺だ。

 俺はわりと高レベルのヒーラーだから、そこそこの攻撃魔法も使えないわけじゃないのだ、小針浜さんの太ももをぶっちぎった空刃の魔法とかな。

 だけど、今日の探索はミャロの実力を測るのも目的なのだ。


「よし、ミャロ、あいつらをやっつけられるか?」

「かんたんにゃーですよ!」


 ミャロはそう叫んで、指から長さ十センチはあろうかという巨大な猫爪をだした。

 そして、人間にはまったく不可能な速さでドッグゾンビをあっという間に切り裂いていく。


「おー。すごいじゃないか、見直したぞ」

「へへーん。私はお強いのにゃですよ!」


〈さすがワーキャット〉

〈ワーキャットってそんなに強いモンスターだっけ?〉

〈うーん、モンスターって個体差で強さが違うからな〉

〈強い個体なのかも〉

〈あれ、カメラの向きがずれてる〉


 コメントで指摘されてきづいた。

 確かに、ボディカメラの位置がわるいかもしれん。

 タブレット端末で確認しながら調整するか。

 えーと。

 もう少し上の方がいいか?


〈いやそれだと天井しか見えない〉

〈もっと下……下……いきすぎ! 股間しか見えなくなった〉

〈股間だけにいきすぎってか〉

〈寒すぎ晋作。そいつNGしといてくれ〉

〈おめーもだよ〉


 しかしまー、配信しながら探索なんて、初めてのことだからいろいろ機材の調整とか難しいなあ。


「音の大きさとか大丈夫か?」


〈まーこんなもんじゃない〉

〈あれ、今助けてーって聞こえたけど?〉


 ん?

 そうか?

 振り向くと。

 そこには、ネバネバの巨大スライムの中に完全に取り込まれているミャロの姿があった。


〈このスライムでっけぇぇぇぇ! あ、こいつ服溶かすタイプのスライムだ〉

〈でかい個体だけど、最弱の種類のスライムじゃん〉


 とはいえ、ミャロは半透明のスライムの中でモガモガともがいている。

 呼吸もできそうにないし、やられちゃいそう。

 ……レッドドラゴンと渡り合ったって自称してたけど、スライムに負けてるんですけどこいつ?


 うーん。

 だんだん溶けていくミャロの服。


「それ、ウニクロで2980円もしたんだけどな……」


〈草 早く助けてやれよ〉

〈いやもう少し溶けてからでいいんじゃないか……?〉

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