第18話 毒

「ぜはー、ぜはー、ぜはー、うぷっおええええげろろろろろー」


 スライムの粘液を少し飲み込んでしまったのか、ミャロは床に四つん這いになって嘔吐している。

 ドッグゾンビを倒した手際を見るに、スライムごときに負ける要素はなかったと思うんだが……。


 おっと、まだ数匹のスライムがいた。

 俺は持っていた短剣でスライムを一匹ずつ切り潰していく。

 このスライムってやつ、粘液でできているけど、そこそこの粘度はあるので剣で切りつけてやれば真っ二つになるし、ある程度切り刻めばすぐに死ぬ。

 最弱のモンスターだ。


 顔に張り付かれたりして窒息させられたり、あとは身体にはりついて肉を溶かしたりするので危険っちゃあ危険だけど。

 最強クラスモンスター、レッドドラゴンとやりあったと自称するモンスターが苦戦していい相手ではまったくない。


「おい、なにをどうやったらあんなスライムごときにそんなことになるんだよ……」


 せっかく買ってやったミャロの服は溶けかけていて、かろうじて身体にひっかかっている。

 女子中学生くらいの女の子が無駄にエロい格好してるみたいになっちゃっているぞ。


「ぜはー、ぜはー、油断したのにゃですよ……。毒の選択を間違えたのにゃです」

「毒?」

「はい、私は爪の先から毒を出す能力をもっているのにゃ……。その種類は十種類……肉を腐らせる毒、血液を凝固させる毒、神経に回って脳を侵す毒、そして今私は血液をサラサラにして出血が止まらなくなる毒を使ったにゃ……」

「なぜスライム相手に……?」


「いや、粘液だし、溶かしてやっつけられるかなーと思って。そしたらあいつ、粘度が低くなっていくら切っても切っても切れなくなってバチャバチャの水みたいになって、気がついたらあんなことに……」

「……なんとなくわかっていたが、お前アホだな? ……まあいい、もう少し探索するか……」


「待つのです。私、半裸になっちゃったので……仕切り直しというわけには……?」


 俺はちらっとタブレットを見る。

 投げ銭:ゼロ円


「いいや、服を買う金がねえ! このまま進むぞ!」

「そんにゃあ~~~」

「お、今度はコボルドが来たぞ。あいつくらいはやっつけられるだろ?」

「ううー……べとべとにゃ……スライムの粘液で気持ち悪いにゃです……」

「おい、はやくやっつけるぞ」

「はいにゃ!」


 コボルド。

 身長130cmくらいの人型をしたモンスターだ。

 でかくて吊り上がった目、緑色の皮膚、その見た目以上の筋力、そして武器を使える程度の知能。

 今回はでかいこん棒を右手にもっている。

 そいつが六匹ほど、こちらにむかってきているのだ。

 まあ、スライムの次くらいの弱さのモンスターではある。


〈今度こそ瞬殺してくれよ〉

〈コボルド相手に苦戦すんなよー〉

〈もういいや、負けて猫の子やられちゃってもいいぞ、おれそれオカズにする〉

〈コボルドはゴブリンほどじゃないけど性欲つええからなー〉


 勝手なことをぬかしているコメントを無視して、俺とミャロがコボルドを相手にしようとしたときだった。

 とつぜん、コボルドの集団が燃えさかる炎に包まれて、あっというまに黒い炭になった。

 ……俺がやったんじゃないぞ?

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