第19話 ほめてやりたい


 俺たちの後方に、もうひとつパーティがいたのだ。

 そいつらが、コボルドたちに炎の魔法をかけたのだった。

 振り返るとそこにいたのは……。


「西村………………さん……」


 そう、俺をパーティから追放した、あの西村だったのだ。

 前衛の戦士職である西村、モンク職の大原、そしてスペラーの多香子にナイト職のひまり、その後ろに俺の知らない女性が一人。きっと俺の代わりに加入させたヒーラーだろう。


「ああン!? てめえ、三崎じゃねえか!? なんだ、まだ探索者やってんのかぁ? そりゃそうだよなあ、やらなきゃ借金返せねえもんなあ、ぎゃはははっ」


 いつものように下卑た笑い方で俺を嘲笑する西村。

 あいかわらず爬虫類みたいな顔をしている。

 くそ、なんでだ、なんでこいつらがここにいる?

 四角い顔をした大原大二郎が、チッ、と舌打ちをしていった。


「西村さん、やっぱり草津温泉旅行行っておいたほうがよかったんじゃないですか? なんで旅行とりやめてこのダンジョンに? こんなしけたやつとも会っちまうしよぉ……」


 さげすんだ目で俺を見る大原。

 なんだってんだいったい?


「俺んとこに情報がはいったんだよぉ。市役所とかに知り合いがたくさんいるからなぁ。あのな、まだ発表されてないが、このダンジョンでかなりでけえ懸賞金がかかった案件があるらしい」


 その言葉に多香子がぴくっと反応した。

 くそむかつく、あの動画の中で西村のをしゃぶっていた女だ。

 ってか俺がこないだまで惚れてた……くそ、見た目がかわいいのがほんとむかつく。


「ねーリーダー、懸賞金っていくらぁ?」

 多香子が西村に聞く。

「ああ、五千万円はくだらねえって話だ。それがな、このじゅんさい池ダンジョンでの案件らしい。今のうち潜っておくと有利になるっていうから、あわてて旅行を中止したわけだ」

「ちょ、ちょっと待ってよリーダー、それなら納得だけど、そんな話こいつの……」


 多香子は俺をちらっと見て、


「こいつの前でしたら……こいつにもチャンスが生まれちゃうじゃん」


 西村はニヤリと笑って言った。


「大丈夫だよ、ここで『事故』にあってもらえば……」

「そ、そうか、ここで『事故』にあって三崎が死んじゃえばいいんだね?」


 西村たち五人が俺をジロリとにらんだ。

 え、待ってくれ、こいつらまさかここで俺を始末する気か?


「西村さん、いったいなにを……?」

「そろそろ案件の内容が発表の時間だ。五千万円かかってるんだから、ライバルは少ない方がいいよなあ? よし、お前ら……」

「ま、待て! これを見ろ! 今俺は配信中だぞ!」


 俺はボディカメラを指で指し示す。


〈お、なんだこいつら〉

〈仲間割れか?〉

〈ダンジョン内での殺人はばれにくいけど〉

〈いやいやいままさに配信中だと無理だろ、警察が動く〉


「配信だとぉ? 三崎、てめぇそんなもん始めてたのか……。チッ、クソが……」


 やばかった、さすがにミャロを入れても二人じゃ、西村達熟練パーティ五人を相手に戦闘するのは分が悪い。

 配信していてよかったぜ。

 五千万円か、そりゃほしいけど内容もわからんし今日はいったん帰宅しよう、そう思った時だった。

 地面が、揺れた。

 いや、地面だけではない。

 天井も揺れ、壁にはヒビがはいって石の破片がちらばった。

 そして次の瞬間。

 ドォォォーーーーーーーーーーーーンッ! 

 とんでもない轟音とともに空気が震え、そしてなにがなんだかわからないうちに床が粉々になって崩れ、それと同時に俺とミャロは一緒に地下深くへと落ちていくことになった。


「ビュハイナラカス、カパンギヤリハンニャルパ、ルムカニャイサン、タンカパンナマグリリグタスサアキン! 防護障壁バリアー!!」


 その間0.5秒。

 とっさに呪文の詠唱ができた自分を、ほめてやりたい。

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