第22話 常人の魔法力
「ガフゥ~……」
俺の眼の前には、ライオンがいた。
いや、正確にはライオンのモンスターだ。
五頭、隊列を組むようにして俺たちを囲み始める。
そいつらが呼吸するたび口から火を吐き出しながら俺達を睨んでいる。
「キシャーーーーッ!」
ミャロも応じて威嚇の叫びをあげた。
〈フレイムライオンか〉
〈それなりに強力なモンスターだぞ?〉
〈おい、ニュース聞いてたか? 今そこのダンジョンのマナ吸い取られてるからスキルが弱くなってるぞ〉
〈グロを見に来た〉
〈酒飲みながら若者が苦労して戦うのを見るのがいいんだよなあ。せいぜい頑張れよ〉
頑張るさ、命がかかっているからな。
「全方位からいっぺんに襲い掛かってくるにゃですよ。私が防げるのは一頭か二頭。コーキ、あとは自分でなんとかしてくださいにゃ」
「ああわかった、その前に一回吸わせろ」
コメントで教えてもらった通り、なぜかダンジョン内のマナがだんだんと少なくなっていくのが体感でわかった。
マナに依存している特殊スキル、俺の場合は回復術師としての能力が落ちてきているのをなんとなくだけど感じていた。
俺はミャロを抱き寄せる。
「わひゃっ!?」
短く叫ぶミャロ。
ちっちゃな少女の身体、さらしを巻いただけでぷにぷにの肌が露出している、そこに手を触れるとあったかい。
俺はミャロの黒髪に顔をうずめると、
「すーーーーっ」
と息を吸った。
とたんに俺の全身に力がみなぎる。
「お前を吸うと魔力が戻るな……。これどういう理屈だ?」
「知らないにゃです。私もお姉ちゃんからちらっと聞いただけにゃですよ」
今はさしあたって戦闘前だからそんなことはあとで考えればいいか。
「さあ、こいつらくるにゃですよ!」
まるでミャロの言葉に反応したかのように、フレイムライオンと呼ばれるモンスターが俺たちに向かって同時に襲い掛かってきた。
猛獣が獲物を前にしてとびかかる、あの低い体勢から、猛獣どころではないほどのとんでもないスピード。
俺は瞬時に呪文を唱える。
「ビュハイナラカス、カパンギヤリハンニャルパ、ルムカニャイサン、タンカパンナマグリリグタスサアキン!
長い呪文だが、ローンを組んで三百万円もかけて彫った特殊なタトゥーのおかげで詠唱時間は0.5秒にも満たない。ほとんど無詠唱と言っていいほどのスピードだ。
さすが三百万円、すばらしい。むしろ値段以上の効果があるぜ。
俺の作り出した防護障壁は透明な壁のようなものを作り出す。
向こうからは攻撃できないが、こちらからは攻撃できるという一方通行の透明な壁だ。
フレイムライオンどもは爪をたてて俺たちに襲い掛かろうとしてくるが、その壁に阻まれて身体ごと衝突する。
「ぐぁう!」
叫んで爪で壁を破壊しようとするフレイムライオン。
防護障壁の呪文は万能ではないので、フレイムライオンほどのモンスターなら数分もしないうちに破ってしまうだろう。
だが、その数分が戦闘中には永遠にも感じられるほど長いのだ。
「ハンギン、マギン クツィリョ カ ウパン プトゥリン アング アキング マガ カアウェイ、ドゥルギン アット パタイン シラ!」
俺は超高速で詠唱を終えると、フレイムライオンに向けて魔法を放った。
「
回転する空気の刃が空間を切り裂いて進んでいく。
そのスピードはフレイムライオンの動きをはるかに凌駕していて、
ズバンッ!
という肉と骨が切断する音が鳴り響き、そして立派なタテガミのフレイムライオンの首が、噴き出す大量の血液とともに床に落ちた。
別のフレイムライオンが俺に向けて、
「ゴァァァァッ!」
特大の炎を吹いた。
フレイムライオンの得意技、炎のブレスだ。
だが。
「
俺はとっさにもう一つ防護障壁を作り出す。
二重の障壁はフレイムライオンのブレスごとき、完全に防ぎ切った。
俺はダメージを受けるどころか、炎の熱すら感じなかったほどだ。
「
俺は魔法を連発する。
フレイムライオンどもは俺の魔法の刃になすすべもなく、切り刻まれては血を吹き出し、倒れていった。
〈あれ? すげえ、お前強いじゃん〉
〈正直回復術師のつかう攻撃魔法としてはトップレベルだぞ?〉
〈いや待て、ダンジョン内のマナは装置のせいで少なくなってるんだろ? なんでこんなすげえ魔法を打てるんだ?〉
〈すごすぎんだろ、回復術師の攻撃魔法って微妙なものばっかりなのに〉
〈攻撃魔術師の魔法より強力まであるぞ、ほんとどうなってんだ?〉
そんなの俺も知らんよ。
ミャロの匂いを嗅ぐとなぜか全身にマナがみなぎるんだ。
そのミャロはというと、最後の一頭を前に、その持ち味であるスピードを十分に生かして戦闘していた。
はっきりいって俺にも見えないほどのスピードのヒットアンドアウェイ、ミャロが攻撃するたびにフレイムライオンの身体に爪による傷が増えていく。
フレイムライオンはミャロの動きにまったくついていけず、右往左往するだけ。
「とどめにゃですよ!」
最後にフレイムライオンの背後をとったミャロは、その鋭い爪で背中から心臓までひと突き。
「がふぅぅう~」
フレイムライオンは断末魔の声とともに床に倒れた。
これで終わりだ。
〈つええええ!〉
〈二人しかいないパーティだから極上のグロが見れると思ったのに……〉
〈ミャロちゃんのケツがエロい!〉
〈尻尾の生えているケツがまじでエロい!〉
〈っていうかまじで強すぎだろ〉
〈回復術師の魔法、強すぎね? 障壁の魔法ってある程度の防御力はあってもここまでだっけ?〉
〈世界の有名トップ探索者なみなで草 なんでこんなやつが今まで無名だったんだ?〉
〈どう考えても常人の魔法力じゃないんだけど〉
そう、それは俺も感じていた。
ミャロを吸ったあと、俺の魔法力は普段の何倍にも膨れあがっている体感があったのだ。
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