第23話 西村視点①
くそが。
西村勝彦は、心の中で毒づいた。
どうしてこんなことになったんだ?
突然床が崩れて、知らない場所に落とされた。
とは言っても三崎たちの立っていたところと違って、西村たちの立っていた床は大規模には崩れず、せいぜい一階分落とされただけだった。
ということは、ここは今地下二階か?
三崎は助からなかったかもしれん、西村の目の前には大きな穴が開いており、やつはさらに深層位階へと落ちていった。
「ちっ、あんなやつどうでもいい。それよりも脱出するぞ」
西村がそう言うと、多香子も、
「そうね、今ネットニュースで見たけど、ダンジョン内のマナが薄くなってきているって」
「ふん、まあいい、地下二階なら地上まですぐだ」
そして西村達は地上への階段へと向かう。
そこで下級モンスターであるゴブリンに出会ったのだ。
いつもならば。
ゴブリンごとき、口笛吹きながらでも一撃で殺せる。
西村は熟練の戦士職で、もっと深層階の強力なモンスターともわたりあってきたのだ。
だが、今回はなにかが違った。
西村の全身は重く、振るう剣のスピードもにぶい。どんな硬いモンスターの皮膚も切り裂いてきた西村の剣が、ゴブリンに対して致命傷を与えられないのだ。
「リーダー、ゴブリンどもが次から次へと襲ってきます!」
モンク職の大原が大声を出す。
モンクとは徒手格闘でモンスターと闘う職だ。
本来の実力でいえば、ゴブリンごとき一瞬で肉塊に変えてしまえるはずだ。
だが。
「くそ、西村さん、おかしいですよ! 今俺にデバフ魔法どこかからかかってます? それともゴブリンどもにバフ魔法か? 俺のこぶしが……全然効かない!」
見ると、大原のこぶしは血まみれのボロボロになっていて骨が見えるほどだ。
「やばいっ! ……やばいっっ!」
大原は逃げ出すことを決心したようだった。
ゴブリンどもに背中を向けて走りだそうとして――。
その後頭部にゴブリンのこん棒の一撃を食らった。
「くぅぅぅ~~~~ん」
情けない声をだして昏倒する大原、無数のゴブリンが大原に襲い掛かり、倒れた大原の頭部を順番にこん棒でぶっ叩き始めた。
餅つき大会でも見ているのか? と勘違いするほどリズミカルに数匹のゴブリンがガッ! ガッ! ガッ! と大原の頭部を順繰りに叩いていく。
ほんの一分ほどで、大原の四角かった顔はせんべいのようにひらたくなって床と一体かしていた。
「………………! に、逃げよう、リーダー! 私の魔法も全然効かないよ!」
「そ、そうだな、逃げるぞ!」
多香子の言葉に西村もうなずく。
「全員撤退だ! 戦うな!」
だけどその言葉をいいおわるかどうかのうちに、新しく加入させたヒーラーの典子が陰に潜んでいたゴブリンどもにとびかかられ、地面に打ち倒された。
「た、助けに……」
多香子がおろおろした声で言う。
西村は冷静に周囲を見回す。
とんでもない数のゴブリン、三十はいるか?
ナイト職のひまりも今は数匹のゴブリンに囲まれている。
……助けている余裕はなさそうだった。
「いや、今のうちに逃げろ!!!」
西村は多香子の手をとって走り出した。
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