第24話 西村視点② 美しいお姫様
西村と多香子は並んで全速力で走る。
「やだーーーっ! やだーーーっ! たすけてぇぇぇっ!!」
典子の断末魔がだんだんと遠くなっていく。
「やめっ! そんなのっ! 入らなっ…………! ゲブゥゥッ!」
ひまりの悲鳴も聞こえてきた。
もはや、助けられない。
ゴブリンは性欲の塊みたいなモンスターである。
やつらに襲われた人間は、男女関係なく襲われ、内臓を巨大な肉の棒でかき回されて死ぬ。
不幸にも生き個残ってしまった場合、やつらの子供をみごもることになる。
典子やひまりが幸福にも死ねるのか、それとも不幸にもゴブリンの母親となってしまうのか。
そんなことを考える余裕もなく西村と多香子は逃走した。
「なんだってんだ! 俺のスキルも多香子の魔法も使えない……。これがマナを吸い取られたダンジョンだってのか!」
ダンジョン内限定でつかえるはずのスキルが一つも使えない。
くそ、こんなことになるとは……。
とにかく地下一階へ上がるための階段へ全速力で走る。
この状態では戦うどころではない、スキルの使えない人間なんて、モンスターのただのおやつに過ぎない。
とにかく逃げるしかないのだ。
だが……そんな西村達の前に、一匹の巨大なモンスターがたちはだかった。
全長5メートルはあろうかという巨大なムカデのモンスター。
そいつが、その大きさに似つかわしくないほどのスピードで西村たちに襲い掛かってくる。
「やめろーっ! やめてくれっ!」
西村は多香子の身体を盾にして情けない声で叫んだ。
「ちょ、ちょっとリーダー、私を……?」
「うるせぇ! お前は食われてろ! その間に俺が逃げるからなぁ!」
西村は多香子の背中を思い切り蹴った。
「な、う、うそでしょ、ちょっ…………」
ムカデが多香子の身体をその毒爪でとらえようとしたその瞬間――。
ダーーンッ!
という音がダンジョン内に響き渡った。
ムカデの大きな体はその音ともに真っ二つにんって砕け散る。
だがまだ死んでいない、半分になってもその無数にある足を動かして多香子を襲おうとする。
そのムカデに、さらに追撃が入る。
ダーーーンッ! ダーーーンッ!
大音響とともにムカデの身体はバラバラになっていった。
「な、なんだ……いったいなんなんだ……」
西村は薄暗いのダンジョンの奥を凝視する。
これは、魔法の攻撃……ではなかった。
ムカデのモンスターは物理的な攻撃で破壊されたのだ。
ダンジョンの通路からコツコツコツ、と音が聞こえてくる。
そして。
姿を現したのは、一人の女性だった。
派手な化粧に紫色のエクステンション、黒いチュニックワンピースをラフに着こなした、一見ビジュアルバンドのファンをやっている女子みたいな恰好。
「なんだお前は……? 誰だ……?」
西村の問いに、女性は答えた。
「ふふーん。しょせんモンスターなんてのは、ダンジョン内のマナさえなければ現代兵器で倒しちゃえるんだよねー。あんた、探索者?」
「だから! お前はだれだ⁉」
「そろそろニュースになっているはずよ」
「なにが?」
「あら? まだニュースにはなってないのかしら? そろそろだから、ちょっとチェックしてみてよ。正義の団体に拘置所が襲われて無実の罪でとらわれていた勾留中の被疑者の美しいお姫様が無事救出されたって」
その女性の隣に、暗闇からもう一人、人物があらわれた。
そいつはスーツを着ている冴えないツラしたおっさんだった。
だが、似つかわしくないほどでかい銃――対戦車ライフルにも見える――を軽々と担いでいる。
「小針浜君、多分、過激派テロ組織による卑劣な犯行って報道されてると思うよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます