第28話 噴射音
俺の魔法発動と同時に、レッドドラゴンの頭部がスパアンッ! という小気味よい音をたてて水平方向に真っ二つに割れた。
レッドドラゴンは断末魔の声をあげることもできずにその場に死体となって倒れた。
〈瞬殺で草〉
〈なにその能力〉
〈猫吸うと強くなるの?〉
〈冗談みたいだけどレッドドラゴンを倒しちまったぞ〉
〈最高レベルの探索者じゃねえかなんか絵面があれだけど〉
〈あれ、今このダンジョン内ってマナが使えないんだよな?〉
〈猫吸いするとマナが使えるようになるんか、アホな能力だな〉
……なぜミャロを吸うとマナが使えるようになるのか?
そんなことは今考えてもしょうがない。
ここはテロ組織が入り込んでいるダンジョンだ。
長居する理由はない。
「とっとと脱出するぞ、ミャロ、いったん人間に戻れ……」
ポムッと音をたてて人間に戻るミャロ。
猫になった時に地面に落ちたバスタオルを素早く拾って身体に巻いている。
「見ちゃだめにゃですよ?」
「ああ、あっち向いてるよ……それ着たらすぐにこのダンジョンから抜け出そう」
「にゃにゃ……そうしたいにゃですが、向こうからまたなにかくるにゃですよ?」
「……敵か?」
「なんか、すごいオーラを感じるにゃ……」
「すごいオーラ……? まさか、レッドドラゴン並みとか言わねえよな?」
「その、レッドドラゴン並みのオーラにゃですよ……」
くそ、次から次へと!
俺は身構えてそいつが来るのを待ち受ける。
だがその必要もなかった。
そいつはいきなり俺の目の前に現れたのだ。
まずは黒い球体が出現し、もやもやとした空気の揺れとともに、それはだんだんと大きくなっていく。
そして、ゆっくりと四肢のある、だが人間で獣でもない、おぞましい何かの形となっていく――。
「あ、あ、あ、やばいにゃです……これ、やばいにゃです……レッドドラゴンどころじゃない、ベルゼビュートにゃです……」
ベルゼビュート。
別名、ベルゼブブ。
聖書にも悪魔的な存在として描写されているその存在は、ハエの王としても知られる。
この世でもっとも邪悪で強大な――異星人だ。
その放つ魔法は人間の理解を超えた破壊力を持ち、その上物理攻撃はその魔法障壁によってすべてはじかれ、魔法による攻撃に対する耐性もモンスタートップクラスに高い。
ダンジョン内で出会った探索者の死亡率はじつに100%と言われている。
そんな破壊神ともいえる災厄クラスのモンスターに、俺たちは出会ってしまったのだ。
ミャロを吸うことでヒーラーである俺がどこまで戦えるか――だが、やるしかない。
「
まずは障壁を作り出し、
「ミャロ!」
俺はミャロを抱き寄せた。
「悪いがまた猫に戻ってくれ」
「にゃにゃ……なかなか難しいのにゃですよ……」
と言いながらも再び子猫となるミャロ、俺はその身体を鼻に押し付けようとした瞬間だった。
俺から見て、ベルゼビュートを挟んだ向こう側。
そちらから、何かが飛んできたのだ。
何かだって?
いや、俺の視力はとらえていた、その姿を。
長さ一メートルほどの、円筒形。
そいつが、ブシュウゥゥゥゥッ! という噴射音とともに、こちらへと飛んでくる。
これと似たものを、俺はなにかの動画でみたことがある。
携行型対戦車ミサイル――ジャベリンだ!
まじか、どういうことだ、なんでダンジョン内でジャベリンが飛んでくるんだ、そんなことを考えている暇はない、俺はミャロを鼻先におしつけたまま地面に伏せ、さらに叫んだ。
「
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