第11話 バンギャ
そこにいたのは、ど派手な恰好をしたバンギャだった。
バンギャってのはビジュアル系バンドのファンの女の子のことで、自身もビジュアル系バンドにお似合いのファッションをしている。
濃いメイクに紫色のリップ。
黒いチュニック、派手なエクステンション、ごついブーツ。
持っているのはバッグではなく、大き目の楽器ケースだ。
本人もなにかバンドかなにかで楽器をやるタイプかもな。
っていうかさ、なんだ、誰だこの人?
「こんにちは。心配になって様子を見に来ちゃいました」
ニッコリと笑ってそういう女性。
化粧が濃すぎて年齢も定かじゃない。
「あの……どなたです?」
聞くと、女性はさらにアハハと笑って、
「昨日会ったばかりじゃないですか。私ですよ、
「小針浜さん!? マジで!?」
昼間にうちに来たときはいかにも役人っぽいグレーのスーツに身を包み、髪は地味にまとめてその上ダサい眼鏡までしてた小針浜さん。
それがこんな感じに変身しちゃうのか……。
なんかこう、女性が雰囲気チェンジをするとドキッとしちゃうよな。
まー、それがバンギャファッションってのはなかなかないと思うけど。
「ふふ、プライベートはいつもこんな格好なんですよ。今日はお気に入りのバンドのライブがあるんで」
「え、今日は平日ですよね、仕事は……?」
「バンドのライブがある日は有給とるに決まってるじゃないですか、あはは」
くそー、ブラック個人事業主のダンジョン探索者には有給というものがないから、うらやましい話ではある。
「ほら、三崎さん、テイマー登録はしていただきましたが、テイマーとしての活動は経験ないですよね? それでちょっと心配になっちゃって……」
「それでわざわざプライベートの時間に?」
いやまて、公務員がそんなことするかあ?
有給取得日にわざわざ市民の家を心配して尋ねてくるなんて……。
んん?
これって個人情報保護法とか守秘義務に違反してね?
公務員が業務上知りえた情報、つまりモンスターをテイムしている俺がここに住んでいるってことをプライベートの時間に利用しちゃだめよな?
あ! そうか! わかった! わかったぞ!
これあれか、小針浜さん、俺に好意を抱いたな!
つまり、ひとめぼれだっ!
それできっとあれだ、仕事にかこつけて俺に会いに来たんだ、そうに違いない!
あーもうしょうがないなー。
そういうことなら、まあこのくらいの法令違反、ちょっと許しちゃおうかなー。
ほんとは駄目なんだぞー。
「あのー、ちょっとお邪魔してワーキャットの様子を見させていただいても大丈夫ですか?」
小針浜さんの問いに俺は即答する。
「あ、もちろんいいですよ、どうぞどうぞ!」
そっかー、おれの初体験はバンギャかー。
うーん、おれ、うまくできるかなあ。
ゴム……ゴムどうする? ないぞ?
……まあ初めての記念だしなくてもいいかー。
あ、その前にミャロをどうしようか?
幸い、俺の借りているこのボロ借家は三部屋あるから、隣の部屋で耳をふさいで毛布かぶっといてもらおう。
いや、モンスターだから気にしなくていいのかな?
犬飼ってる友達が言ってたが、犬の前で普通にエロ動画見ながら自家発電しても犬は興味もないみたいで知らんぷりするとかいってたな。
ミャロも知らんぷりしてくれるかな?
まあいいや、とりあえず家に上がってもらおう。
「どうぞどうぞ」
「おじゃましまーす。あ、ワーキャット、大人しくしてますね。マグカップ持ってますけど……」
「今ホットミルクあげたんです。猫舌だから冷めるのじっと待ってるんですよ」
「あらかわいいですね。でもいくらかわいくても、いかがわしいことはしちゃだめですよ、国際法で禁止されてます」
「え、そうなんですか?」
まあモンスター相手にそんな気はないけど……。
いやまったくないといったらウソにはなるんだが、ちょっとあまりに体型がおこちゃまだからな、ミャロは。
それより、うん、小針浜さんの方がいいカラダしてそう……じゅるり……。
「モンスターとの間で万が一子供ができたらその子の権利について、つまり人権があるのかどうかとか法律的な議論も定まってませんので。ですから生殖行為を行うのは違法です。五年以下の懲役もしくは禁錮、または百万円以下の罰金です」
「じゃあこども作らなきゃいいんですか? 生殖に関係ないエロいことは?」
好奇心で聞いてみると、
「うーん、それは別にただちに違法にはなりませんが、グレーゾーンですからなるべくひかえてほしいんですが……」
そういいながら小針浜さんは楽器ケースを開けた。
中から取り出したサブマシンガンみたいな形をしたものになにかサブマシンガンのマガジンみたいなものをカチン、とはめると、これまたサブマシンガンみたいな何かの銃口を俺に向け、
「まあここで死ぬんだからどうでもいいです」
と言って、俺に向けて引き金を引いた。
タタタタタタン!! という軽い音ともに、弾丸が発射された。
「くそがっ!」
俺は叫び、とっさに足元にあったローテーブルを蹴り上げて立てた。盾代わりだ。ダンジョンで危機察知能力を鍛えられていた俺にだからこそできた芸当。
しかし、もちろんその程度では弾丸は防ぎきれない。
ローテーブルの天板を貫通した9ミリパラベラム弾が俺の体に無数の穴を開けた。
「ぐぅぅぅ……」
おれはうめき声をあげてその場に倒れ込む、激痛とショック、脳みそがバグったのか目の前がピカピカとフラッシュが焚かれているかのようにまぶしく感じる、もう体はピクリとも動かない、小針浜さんは倒れた俺の頭にピタリと銃口を当て、
「今日はライブが待ってるから時間かけらんないんです、ごめんなさいね」
といってトリガーを引いた。
ターン! ターン! という乾いた音が部屋の中に響いた。
―――――――――――――
あとがき
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