第5話 刃物を何か所か身体にぶっ刺してから焼却炉に放り込みます

「ひ、ひ、ひぃ~~っ! あ、あなた、わ、私になにかえっちなことしましたか?」


 毛布を抱き寄せるようにして体を隠し、顔を真っ青にする女の子。猫耳がピーンと立っている。


「してないしてないしてない! ってかお前が俺の毛布に潜り込んできたんじゃないか!」

「猫化しているあいだに私がそんなことを……? で、でもでも私は裸で、あなたも裸で……?」


 言い合いしている中にも、


「三崎さーん? 大丈夫ですかあ? もしかしてモンスターに襲われている? この玄関蹴破けやぶっていいですか?」

「あー今行きます、だめだめ、玄関壊さないで! 今行きますから!」


 冗談じゃない、ここは貸家なんだぞ、玄関を蹴破けやぶられたら敷金が返ってこないどころの話じゃない、修繕費をいくらとられることやら。

 俺はとりあえずその辺にあったジャージを身に着け、慌てて玄関を開ける。

 するとそこには若い女と地味なおじさんの二人組。

 二人ともきっちりとしたスーツを着た、いかにもお役所からきた、って感じの人だ。


「あ、どうも、私市役所の田中耕一と申します」


 おじさんがそう言って名刺を差し出し、若い女の方も、


「私は小針浜こばりはま鈴子すずこです」

「は、はあ……」


 俺は名刺を受け取る。


「さて三崎さん、ですよね?」


 小針浜こばりはまさんがそう尋ねてくる。


「はい」

「ええと、市に設置してあるモンスター感知装置が反応しまして。どうも、ここにモンスターがいるみたいなんです。モンスター飼育の登録もされていませんし、ダンジョンから逃げてきたモンスターがここにいるかもしれません。なにか、知っていること、ありますか?」 

「あー……えーと……」


 うーん、これなんて答えるのが正解なんだろうなあ……とちょっと考え込んでしまった。


「三崎さん?」

「あーうん、えっとですねー」


 と、そこに素っ裸に毛布を体に巻いただけの女の子が飛び出てきた。


「話はおわってないですよ! 猫化した私に変なことを……ん? にゃにゃ?」


 と、その瞬間おじさんと小針浜こばりはまさんが同時に腰から銃を抜いた。

 銃、といってもここは日本だ。

 ダンジョンができあがったとはいえ、地上ではもちろん銃の携帯なんて警察と自衛官以外は禁止だ。

 ので、銃の形をした拘束道具なのだ。

 引き金を引くとネバネバの丈夫な網が発射されて相手を拘束する。

 一応これも許可を得た公務員だけが持てる道具ではある。


「ま、待って待って待ってください!」


 俺は叫ぶ。


「にゃにゃ? なんですか、にゃにゃにゃあ?」

「動くな! 撃つぞ! 手を上げろ!」


 小針浜こばりはまさんの大声に、女の子は思わず両手をあげた。

 身にまとっていた毛布がはらりと床に落ちて、未成熟な少女の裸体が露わになる。


「ひぃぃ~~~? な、なんなんですぅ~~~? わけわからんにゃにゃにゃ~‼」



     ★☆★



「……う。この畳、最後に掃除機かけたの、いつですか?」


 小針浜こばりはまさんが顔をしかめて言う。

 答えを言うと、半年前だ。

 俺のボロ家の居間。

 ちっちゃなローテーブルを囲んで俺とワーキャットの女の子、おじさんと小針浜こばりはまさんが座っている。


「つまり、ダンジョンの出入り口の近くでこの子を拾った、と。三崎さん、テイマー登録はしていないんですよね? テイマー登録のない者がダンジョンの中から故意にモンスターを地上に連れてきたとなると違法ですが、地上で拾った証拠はありますか?」

「ええ、動画撮っています」

「データのコピーをください」


 その前に一応四人で動画を確認する。

 確かに、子猫がカラスに襲われて俺が石を投げて助ける場面が映っていた。

 助かった、この動画がなかったらあやうく逮捕だったかもしれんぜ。


「にゃにゃ……やっぱり助けてくれたんですね……命の恩人にゃ……」


 ほうっとため息をつくワーキャット少女。


「ふむう、なるほど、これを見ると確かに地上でモンスターを拾得していますね。ダンジョン特別法およびモンスターの駆除と保護に関する法律と合わせても、今のところただちに違法行為となる行為は見つかりませんでした」


 おお、よかったぜ。

 俺はそんなに法律に詳しくないからな。

 小針浜さんは言葉を続ける。


「……言っておきますけど、今国会で議論中で、多分半年後だったら法改正で違法になると思います。モンスターを勝手に家に連れ帰るなんて、非常識にもほどがあります」

「はあ……すみません……」


「で、一度地上で拾得したモンスターは、ダンジョン内に返すことを禁止されています」


「どうしてです?」


「ブラックバスと同じですよ、せっかく駆除するチャンスなのにダンジョンに返したら繁殖して増えちゃうかもしれないでしょう。モンスターは害獣みたいなものですから」


 なるほどなあ。


「ただし、テイマーとして使役するために連れていく分にはかまいません。ちなみにダンジョン外、つまり地上でモンスターを駆除するのには、戦闘になる可能性があり近隣住民に危害が及ぶ可能性があるので禁止です」

「はあ」


「つまり、三崎さん、あなたがとれる選択肢は二つ。このモンスターを私たちにあずけ、市役所が責任をもって駆除するか、あなたがテイマーとしての登録を行ってあなたの責任においてこのモンスターを所有・管理するか。二つにひとつです」


 冷たい表情で淡々と話す小針浜こばりはまさん。

 おじさんの方もウンウンとうなずいてこう言い始めた。


「まあ、私どもといたしましては我々に預けてもらって、こちらで処分させていただきたいんですがねえ……。いま議論されている法律改正後はその一択となるはずですし……どうです、そのモンスター、いま拘束して我々が持って帰っても構いませんかねえ?」


「課長もこう言ってますし、三崎さん、処分する方向でお願いします」


 小針浜こばりはまさんがそう言って頭を下げる。


「ええと、あのー。処分となると、どんな感じで、その……この子……モンスター? を処分することになるんですか?」

「モンスターは毒耐性のあるものも多いので、基本的には拘束した状態で生きたまま焼却炉で焼き殺すことになります」


「にゃにゃ!? ひぃぃい‼ え、やだ、ごめんなさい、許してください」


 ワーキャット少女はおびえた表情でそう言う。

 ちなみに今は俺のシャツとトランクスを履かせている。


「こんな、人間の言葉をしゃべれるのに……焼却処分!?」

「言葉を話せるモンスターに情をかけたせいで騙され裏切られ、いままで世界で何百人もの犠牲者が出ています。当然です」


「でも……」


 小針浜こばりはまさんは冷徹に続ける。


「で、焼却処分でいいですか? すごいですよ、摂氏一〇〇〇℃の業火に焼かれるんです、モンスターですから人間ほど簡単には死にませんうふふふふ、それなりに苦しんで苦しんで苦しんで痛くて熱くて生まれたことを後悔しながら死ぬことになんですふふふふふふふふいやあその悲鳴の心地よさといったらあはははは」


「ふにゃあぁぁぁ~~やだぁ~~~~」


「ちなみに確実に死なせるため、その前に刃物を何か所か身体にぶっ刺してから焼却炉に放り込みますから、運が良ければ刃物で死ねます。死ねなかったら血まみれになりながら焼かれますあはははうふふふふ」


「あばばばばば」


 もう女の子は話しを聞いただけで失神寸前だ。

 わざわざなんでそんな言い方をするのかは謎だけど。


「小針浜君……君がモンスターにあんまりよい感情を持っていないのは知っているけれど、もう少し言葉を選びなさい……」


 おじさん課長も思わず口を挟む。

 あまりにも残酷な話だし、それを聞いたら俺としてもはいそうですかと渡すわけにはいかない。

 なにせ、池に放り込むのも躊躇したのに、それを刃物で突き刺してから生きたまま焼却炉とか、そんなのは……。

 かわいそうすぎるだろ?


「で、三崎さん、そういうわけですからこのモンスターをお引き渡しください。テイマー登録して管理するってのも可能ですけど、半年後なら違法になる行為ですからね」

「今は?」

「今なら合法ですけど」

「じゃあ、俺が責任をもって管理します!」


 俺はそう宣言したのだった。

 小針浜こばりはまさんは少し眉をすがめて、


「では、テイム可能なモンスターかどうか、今ここで試験をさせていただきます」


 と言った。

 

 あれ、俺詳しくはしらんけど、でも動画でみたことある。

 この試験って確か、モンスターをいじくりまわす奴だよな……? 腹とか、股とか敏感なところを人間に触られても怒らないかと見る試験だぞ。


 モンスター……この女の子を?

 いじくりまわす!?

 あれあれあれ、それって超えっちなことになるのではっ!?


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