第6話 追っ手を振り切る元英雄


「妹さんはこの中に入れてくれ。背負ったままダンジョンを歩くのはあなたも妹さんも危険だ」


「ああ、頼む」


 妹を背負って移動しようと思うと、空間魔法でいつでも出し入れ自由の空間を作って収納できるということで、ホムラが作った空間に鏡花を入れさせてもらう。


「この中では時間が経過しない。安全を確保できたらここから出して上げることにしよう」


「安全が確保できるまでか。この場所に潜伏していることがバレている限りは半永久的に追っ手が来るからな。振り切る必要があるな」


「何か手があるのか?」


「俺が実際に使ったわけじゃないが、ダンジョン協会でこのダンジョンにA級ダンジョンの深層に転移する転移罠があるという報告書を見た覚えがある」


「A級……。ここで潜伏した時に小耳に挟んだことがある。確か一番難しい区分のダンジョンだったか。人間が把握しているダンジョンがどれほどかはわからないが、警戒はしたほうが良さそうだな」


「A級ダンジョンはイレギュラーが多いからな。身構えてるくらいが一番いいだろう。報告書によるとモンスターだらけの空間ということらしいし」


 進路は決まったので、とりあえず転移罠がある場所である二層に先導しつつ進む。


「ここだ。土魔法で作られた床を壊す必要がある。少し下がってくれ」


 誰も引っかからないように転移罠の穴の上に土魔法で作られた床を叩いて破壊する。

 すると開いた穴の先に怪しく赤く光る転移陣が見えた。


「身体強化だけで魔法を打ち壊すとはな。魔力から手練だとは思っていたが、凄まじいな」


「俺の武器は基本的に魔法じゃなくて素手と剣だからな。その分がこっちに来てるだけだ。攻撃魔法はそっちに頼むことになる。頼んだぞ」


「責任重大だな。今の見る限り全てレンに任せてもいいような気がするが。ああ、少し待ってくれるか」


 早速転移陣に入ろうかと思うとホムラから静止がかかり、彼女は徐に先ほど鏡花を入れた空間から透明な液体の入った瓶を取り出した。


「若返りの秘薬だ。個人差はあるが体を全盛期近くまで若返らせてくれる。万全の状態でA級ダンジョンに挑むためというのもあるが、姿を変えて追っ手から認識されにくく狙いもある。移動する前に飲んでくれ。可能性としては少ないが、追っ手の一派が転移した先にいるということもないではない」


「わかった」


 瓶を飲み干す。

 特に劇的に変わったような気はしないが、腕を動かすと少し軽くなったような気がする。


「若干思ったより若くなったな。見た感じ、歳のころは十七と言ったところか」


 俺には自分の見た目が見えないのでわからないが、ホムラは上から下までこちらを見るとそう言ってくる。

 十七歳だとすると奇しくも十二年前の魔人が地上にでき来た時と同じ年か。

 体の全盛期の判定がどうなのかはわからないが、確かに一番活発に動いていたのはその年だ。


「これで準備は万端だな。行こう」


 最後の下準備も終わったので、A級ダンジョン『覇者の塔』につながっている転移陣に足をつける。



ーーー


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