第32話 復讐を果たす元英雄


「生きていると思いましたよ。英雄」


 山崎は愉悦に浸っているのか拍手をする。

 今は若返っているため姿が違うはずだが、なぜか見破られている。


「魔力で見分けたな。貴様。魔人か?」


「おお、惜しいな。お嬢さん。私は魔人と人間のハーフだ」


 ホムラが指摘すると山崎は否定した。

 魔力が漏れ出していない状態でずっと地上にいた山崎が魔人というのもおかしな話だが、山崎が魔人と人間のハーフというのもおかしい。

 ダンジョンが世界に出現してまだ12年ほど経っていないのだ。

 逆算しても40前後の山崎の年齢とは一致しないし、暴走状態だった魔族と懇意になれるとは思えない。


「あんた、頭は大丈夫か?」


「ここの人間の君にはわからないかもしれないね。魔人のお嬢さんはわかっただろう」


「この世界と統合する前に人と交わって追放された娘がおったな。その腹の中の赤子か、貴様」


「確か少ない数だけど複数人居たんだろ。そういう魔人は。お嬢さんが言っている女と同じどうかはわからないが経緯は合ってるよ。全くあのクズのせいで酷い目にあった。幼少の頃に人間に捕まってそれ以来魔法の実験体にされて、挙句の果てにはほぼ即死するとい言われる世界間転移の実験に使われてこの世界まで島流しだ。百回殺しても消えない恨みだ」


「あんたが何者かどうかなんて俺たちにとってはどうでもいい。自分語りはもういいから、あんたと繋がりがあった松本大臣の居場所について教えてくれ」


 どうでもいい情報の羅列に辟易したので催促すると、山崎は青筋を浮かべてこちらを指差した。


「年長者のよく聞くべきだ。そうすればわずかに君の寿命も伸びだというのだがね。私の魔力タンクになるまでの時間を噛み締めるがいいさ。松本やれ」


 言葉で合図されると松本と呼ばれた化け物がこちらに向けて、突っ込んできた。


「彼は私に無礼な態度をとったからな。苦痛を伴う形で私に従順な存在になってもらった。先ほど君たちを囲んでいた人造魔人の改造に加えて、強力なモンスターの体組織をいくつも取り込んでいる。英雄である君でさえも小指で捻ることができるだろう」


 突き出される拳を避けると拳によって生じる風圧で吹っ飛ばされ、壁を突き抜けた。

 最高階から屋外に放り出され、虚空で踊る。

 松本大臣がこの化け物だというのなら運がいい。

 探す手間が省けたのだから。


「グオオおオオオオオオオオ!」


 松本が咆哮を上げながら、追撃をかけようとしたので、身体強化を全開にする。

 腕を強化する魔力が漏れ出して鎧のような形を取ると、松本を殴りつける。


「ぎゃああああああ!」


 松本は悲鳴をあげて飛んでいったので、空気を踏み台にしてジャンプして追いかける。


「モロに当てて、体が崩壊しなかった奴は初めてだ。身体強化がかかった状態でどう拷問しようか悩んでたから助かるよ」


 魔法を使ったのか、途中で空中で体勢を立て直したのでそのままゴリ押しで殴りつける。


「グアアアアあああああ!」


 松本は床を突き抜けて階下に落ちていく。


「ふ、ふざけるな! なぜ英雄を殺したら鎧の魔人──ベルセルクが出てくるんだ! お前は英雄に殺されたはずだ! しかもなんで英雄を殺したそいつを圧倒している!」


 近くで大声を上がって喧しいなと思うと、ホムラに攻撃しようとしていたのか黒炎の球を周囲に幾つも浮かべる山崎が喚く姿が見えた。


「戦えるのか。じゃあ死んでくれ」


「え? なんで英雄の声──」


 手刀を空中で切り、山崎に向けて衝撃波を発生させると、そのまま山崎の頭が切断される。


「お、おい!」


 山崎が死んだことを確認して松本を追って、階下に向かう。

 微かにホムラの声が聞こえたが、今の俺には松本の拷問する方が大事だったのでそのまま、松本が開けた穴を追っていく。


「うわああ! ベルセルクだ!」「鎧の魔人だ!」


 途中で遭遇した社員が騒ぐが無視して穴を通り抜けていく。

 自分が魔人ベルセルクなどと呼ばれていたことは知らなかった。

 ともに行動していた人たちがモンスターから逃げるための囮に妹を犠牲にしようとしてから、当時は人との関わりを極限まで制限していたが、魔人側だと思われていたとは。


「これも全部あんたのせいだよ」


 しばらくすると四肢がありえない方向に曲がった松本を見つけたので、持ち上げて顔面を殴る。


「おぼあああ!!」


 松本は血反吐を大量に吐いて、気を失ったのか、だらりと脱力する。


「あ、アニキ……」


 聞き慣れた声に顔を向けると、檻に閉じ込められた輝利哉が檻の隅で震えてこっちを見ていた。

 頭に魔人の角を生やしているところを見ると捕まって実験台にされていたらしい。


「許してくれ! 俺は拷問されててもずっと親父に怒らせたらダメだって言ってたんだ! どうか俺だけは!」


 松本をぶつけて、輝利哉の檻を破壊する。


「いやだ! いやだ!! いやだああああああ!!!」


 角に必死に逃げようとする輝利哉を持ち上げて頭を握りつぶした。


「お前の行動が伴わなくて妹が傷ついたなら俺にはお前を許す理由がないだろう」


 輝利哉を始末してから松本を見ると、「ああ」と呻き声を上げながら、腕を再生させて必死に逃げようとしていた。


「生きたまま燃やされるのは一番苦しい。お前には拷問で妹と同じ苦しみ以上のものを味わってほしいから本当は燃やしたいが、ホムラの魔法で身体強化が高すぎるお前を燃やすのは無理だ。だから俺が想像できる中で一番痛苦を与えられる方法でお前を拷問しよう。今からお前の体を地面を使って擦りおろす」


「ああアアアアア!!」


 松本を壁に向けて投げて屋外に放り出すと、そのまま空中で掴んで、地面に押し付けると走る。


「グアアアアああああアアアアア!!」


 松本が慟哭を挙げてのを聞きつつ首まですり潰すと、体が再生するのを待つ。


「一回では終わらない。俺が十分だと思う限り擦りおろし続ける」


「ああ! ああアアアアア!」


 絶望したような悲鳴を松本が挙げると再び松本を擦りおろす。


「ああああああああ!」


 それから五十回ほど続けると松本が叫び声を上げなくなった──完全に壊れたため殺した。


 ────


「お兄ちゃん、ダンジョンに行きたい!」


 あのあと、ホムラがメサイヤから回収した万能の霊薬──ネクタルと若返りの秘薬を使った結果、妹が12年前当時の状態で植物状態から回復した。

 ホムラと俺はお互いに目的を果たしたため別れ、各々の生活に戻ることにした。

 俺は死んだことになったため、松本の手から逃れるために整形して隠れていただのと関係各所に説明したり、ダンジョン協会に復職する準備なりとここ最近は忙しかった。

 今日は久しぶりに何もない日だった。


「じゃあ、始まりの祠に行こうか」


 家族ともに何気ない休日を過ごす。

 2度と訪れないと思っていた日々が俺に戻ってきた。

 くだらない英雄という名声などではなく、本当に欲しかったものをやっと手に入れた。



 完



────


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偽物の英雄を立てるために英雄の荷物持ちだと詐称させられた元英雄、ダンジョン協会員として過ごしていたところ暗殺されそうになったのでダンジョン配信で真実を暴露したいと思います   竜頭蛇 @ryutouhebi

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