偽物の英雄を立てるために英雄の荷物持ちだと詐称させられた元英雄、ダンジョン協会員として過ごしていたところ暗殺されそうになったのでダンジョン配信で真実を暴露したいと思います
竜頭蛇
第1話 偽りの英雄
十二年前、世界中に突如大量の穴が空いた。
一時その穴の中の空間──ダンジョンからモンスターが地上に溢れ、人類が滅ぶのではないかと危ぶまれる事態になったが、時を流れ今は一般人が配信や素材採取を目的に入ったりするほどカジュアルな場所になっている。
「ホラ吹き、『始めの祠』の一層で配信を行う。許可を下せ」
「申し訳ありません。お父様の松本大臣から輝利哉御坊ちゃまが来られた時は否認するようにと言われてますので」
「何? パパがそんなことを? 本当なんだな、安藤」
「本当です」
「まあ今日は引いてやるとするか。おい、またくだらないホラを吹くんじゃないぞ」
終業1時間前に来たブラックリスト──松本輝利哉の応対をして、ダンジョン協会員である俺──安藤蓮は残りの残件の消化に入る。
ダンジョン内で新資源発見などはなかったので、定時までに消化できるはずだ。
「あの人、ほんと毎日来ますね。あれが本当に世界を救った英雄なんですか? 全然見えないですけど」
「もう世界を救って十年経ってるんだ。英雄だって変わるよ。外回りお疲れ様、伊勢田さん」
外で関係業者と打ち合わせをしてきた伊勢田さんが輝利哉に対して文句を言いながら戻ってきた。
彼女は輝利哉を毛嫌いしているので、一度目撃したら基本的に気が済むまで悪口のオンパレードになる。
残件を消化しつつ話を聞くことにするか。
「いくら変わったって英雄の残滓くらいは感じるでしょう。いくらあれを見たってそんなところ皆無ですよ。それに何より、モンスター氾濫の元凶の最強最悪のモンスターを倒したはずなのに前初心者向けのF級ダンジョンの一層で雑魚モンスターから逃げてネットニュースになってましたし。今度の大臣がウチに介入してきたのもそのことが原因じゃないですか」
「あー、それはたまたま調子が悪かったんじゃないかな」
「絶好調でダンジョンに入る前に剣の素振りをしてイキリ散らす動画がSNSで出回ってましたよ。何よりもあの人が英雄だったていう事柄に取っ掛りを感じるのは先輩が目立ちたいがために、あの人──英雄のフリをしていたってことです。目立ちたがりって完全に先輩の柄じゃないでしょ。本当のところはどうなんですか?」
「本当のところも何もないよ。噂通りに輝利哉坊ちゃんの荷物持ちをやってただけだよ」
俺は当時のことを松本大臣から口外しないという契約を結んでいるので、はっきりと明言することはできない。
契約を破れば何かしらの報復──俺と俺の家族に危害が加えられることは想像に難くない。
俺の家族は両親はすでに十二年前のモンスター流出の際に死んでおり、今は病で意識のない状態の妹だけしかいない。
身動きのできない妹がいる以上、強制的に結ばされた契約を破る選択は取れない。
「本当ですか? やっぱり信じられないです。本人に直接言うのもあれですけど、先輩仕事できるし、割と無理難題にもさらっと対応しちゃいますから。一番英雄のイメージに近いですよ。それに比べて見てくださいよこれ」
「うん? なんだこれ……」
残件消化中だが、スマホを差し出され、気になり見てみると輝利哉がダンジョンの初心者入門に最適とされる雑魚モンスタ──ゴブリンに敗北し、ぶつぶつと文句を言いながら逃げるだけの魔人の子供を小突き回していた。
動画ではなぜか事なきを得ているが、本来ならば魔人は子供であれ人よりも遥かに大きな魔力と身体能力を備えているので、輝利哉が八つ裂きになってもおかしくはない。
実際に俺が十二年前に出会った魔人は人どころか、目に入るもの全てに破壊の限りを尽くしていた。
松本大臣から輝利哉をダンジョンに出禁するように言われたのは当初は輝利哉がダンジョンで戦闘したことで十年前の真実が露呈することを危惧したからだと思っていたが、単純に魔人の危険性を鑑みたことからだったのかもしれない。
「このダンジョンは今入場規制は掛けてますか?」
「はい。課長が動画をリアルタイムで確認してたみたいで。その場で」
「課長はまた担当者だけにしか伝えなかったんですね。相変わらず秘密主義というか、報告嫌いというか」
会社が会社なら大問題だと思うが、ここ──ダンジョン協会東京支部ではなんだかんだでうまく回っているとので問題にはされていない。
いつか大変なことになる気がしないでもないが、上司のやり方に異を唱えても諍いの種になるだけで現状は変えられないのでしょうがない。
社会人ならば長いものに巻かれるのが一番良いだろう。
「私も直談判したんですけどね。課長怒ったりはしないんですけど、頑固ですから」
「もう少し現場の声も聞いてくれれば良いんだけどね」
他愛ない話をしていると定時のチャイムのなる音がなった。
残件も少し前に片付いたところなので、憂なく帰宅できる。
「じゃあ、失礼します。また明日」
──ー
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