第8話 友達登録する元英雄
「十年ぶりだから油断できないな。近づいてくるやつは捌いていくから遠くの奴を頼む」
「了解した」
周りには正式名はキメラ──俗ではキメライオンと言われているモンスターが部屋中に
ダンジョン協会の報告書通りだ。
不定期に起こるダンジョンの成長で増築とモンスターの強化が起こることや、担当協会員がヒアリングで十分に情報を引き出せないことで報告書と相違することがままあるのだが、今回はそれは回避できたらしい。
A級ダンジョン『覇者の塔』は報告書にあった事故もあったこともあり、今は入る人がほとんどいないのだが、担当者である伊勢田さんが抜かりなく仕事をしてくれていたおかげだ。
「グオオオオオオ!」
こちらが転移した瞬間に走り迫っていたキメラたちの一体に横なぎに拳をぶつける。
纏めて吹っ飛んでいくかと思うと、そのまま体の一部を損壊させつつ他のキメラたちにぶつかり、ピンボールのように飛んでいく。
「ギャアアアああ!」
最終的には致命的な部分である頭が潰れたり、壁にぶつかってキメラが断末魔を上げる。
流石に殴打ではここまで物理法則を無視したことはできない。
「何かやったのか?」
「浮遊魔法の応用だよ。レンが触れたモンスターは浮遊するように細工させてもらった。そちらの方が効率的に狩れると思ってね」
見た目に似合わず、老獪な魔法の使い方をする。
殺戮の王は十二年前の当時二十代後半の見た目をしていたことを考えるとホムラの実際の年は四十近くか。
魔人の老化についてはよくわからないのではっきりしたことは言えないが、人間と老化ペースであった場合、彼女も若返りの秘薬を服用している可能性が高そうだ。
「無論、魔法での迎撃もしっかりやるから安心してくれていい」
弾かれて外側に集められたキメラたちが業火が迸る。
悲鳴を上げる暇もなく灰燼となって消えた。
殺戮の王と遜色のない攻撃魔法のキレだ。
あまり争いは好まないタイプだったので攻撃系統ははっきり言って並の魔人以下だと思っていたが評価を修正した方が良さそうだ。
「安心通り越して頼り甲斐があるよ。大体今ので半分はやれたみたいだ。このまま一気に行こう」
魔法のクールタイムの間にピンボールと業火を免れたキメラたちの元に向かうと、迎え討とうとするキメラたちから離れて、一匹別の方向に行くのが見えた。
迫ってくるキメラたちを回し蹴りで蹴散らして、別行動をした個体を殴打するとちょうどドローンを持った女子高生が佇んでいるのを発見した。
「ダンジョン配信者か。よくこんなとこまで配信しに来るな」
彼女については知っている。
この一年の間、学校が終わるとダンジョン配信をするために協会に申請に来ると話題になっている女子高生配信者の子だ。
確か名前は舞霧要さんだったか。
昨今ダンジョン協会で問題視されている危険ダンジョンに潜ることで話題になろうとする配信者と同じように入って来たのだろうか。
「ごめん、ここは危険だからちょっと安全なところに移動しようか」
「あ!」
キメラが重点的にいるエリアだったので、ひとまず舞霧さんを抱えて、安全地帯であるホムラの元まで跳ぶ。
「え? 魔人? え?」
「事情については後で話すからしばらくホムラの近くにいてくれ」
「は、はい」
魔人であるホムラを見て困惑する彼女に言い置くと、近づいてくるキメラたちを拳で吹き飛ばす。
「早く片をつけた方が良いようだな。そこの少女、私のこれはコスプレだから気にすることはない」
「ダンジョンでコスプレ……。まあでも魔人がこんなところにいるわけないし、それはそうか」
再び業火が舞うとホムラが最もらしいフォローを入れたようで、舞霧さんがひとまず納得したような声を上げる。
今ホムラが言ったことを含めてどうやって事情を説明したものかと思い、拳を繰り出すと最後の一匹を倒し終えた。
「終わったな」
「ありがとうございます!」
戻ると舞霧さんがお礼を言って頭を深く下げてくる。
割とダンジョン配信をする人は礼儀や作法を気にしない人が多いというのに珍しい。
一応この子と何度も接触すると配信で衆目に晒される可能性が高いので、さりげなく目的を聞くことにするか。
「どういたしまして。有名配信者に会えるなんて嬉しいよ。ここには配信で来たの?」
「いや、本当はトラップハウスで配信してたんですけど。転移罠でここに」
「それは災難だったね」
トラップハウスか。
あそこはもうすでに全ての罠を網羅しているのかと思ってたが、まだ未確認のがあったのか。
しかも致命的なやつが。
人気配信者ということでネタのためなら危険も厭わないタイプだと思ったが意外に堅実思考のようだ。
「実は私たちも転移罠を踏んでここに飛ばされてな。全く生きた心地がしなかったよ」
「そうなんですか。お二人の凄まじい戦いぷりからして企業所属の冒険者の方かと思ってしまいました」
「企業所属の冒険者は厳しい審査を超えなければならないからね。俺たちは違うよ」
「へえ、なんだか強い人がなることくらいしか知らなかったです。じゃあ今回はなんでダンジョンに?」
ここで話に区切りがつくかと思ったが、聞き返してきたか。
まあ流れ的にそういうパターンもあるのだが。
はてどうしたものか。
安直だが、最近はダンジョン協会で若者が配信目的で申請することが多いし、目的としては配信にするのが一番無難か。
「実は俺たちも配信をやろうと思てって、換金素材の回収して撮影用ドローンを買う金を稼ぐついでに配信予行練習してたんだ」
「そうだ。このコスプレは私の趣味でもあるが、配信をするときの衣装でもあるのだ」
「個人勢で機材のお金を稼ぐところから始めて、動きづらそうなコスプレで配信をしようとするのはすごい気合入ってますね。配信者として名前はなんですか?」
「名前か。そこまではまだ決めてないな」
「名前は大事ですよ。できるなら早めに決めた方がいいです。今ちょうど配信中ですし、今決めちゃいましょう」
名前か。
おそらくここでしか名前は出ないので適当なものでいいと思うが、追われている都合上名前モロはダメだしな。
そうなると俺を連想しやすいものは避けらなきゃならないので、それ以外で何かというとパッと思いつかない。
普遍的なものでありふれたもので行ってみるか。
「そうだな。じゃあ、お兄ちゃんにするか」
「お兄ちゃんですか。チャンネル名もお兄チャンネルで行けるし、いい感じがします。ホムラちゃんはどうですか?」
「ホムラにする。なぜなら私はホムラだからだ」
「本名そのままですか。あ、あんまりおすすめできないかな」
「名が知れ渡ることで何か問題があるように思えんが……」
「本人が問題ないって言うのならまあ大丈夫かな。じゃあお兄ちゃんとホムラちゃんで決定で! 今日は危ないところを助けて頂いてありがとうございました! 助けてくれたお礼に余っている配信機材を譲ったり、アドバイスをさせてもらいたいと思います。二人ともロインの友達登録してもらえますか?」
魔人であることもあり情報リテラシーについて未履修であるホムラのフォローを入れると、ロインの友達登録をすることにする。
今は隠れているし、配信のことも口から出まかせなので連絡先を交換することにさしてメリットもないが、今は彼女のチャンネルで配信中なのであまり彼女にとって失礼なことをして悪目立ちはしない方がいいだろう。
「ホムラはまだスマホを持っていないから、俺だけ交換させてもらうよ」
「そうなんですか。じゃあ、お兄ちゃんお願いします」
スマホとスマホをお互いに至近させると連絡先の交換が完了した。
「帰りなんだけど、上までは上がれるかな?」
「ちょっと無理ですね」
「我々もついていくことにするか、お兄ちゃん」
「そうだな。送りがてらその道の先輩に学ぶことにしよう」
──ー
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