第3話 襲撃を破綻させる元英雄
「おう、兄さん。ちょっと死んでくれねえか」
急に人通りが少なくなってきたと思ったら、バンが道を通せんぼして、バットやメリケンサックで武装した半グレ達が出てきた。
彼らの言葉と人避けの為された状況を考えると、半グレの衝動的な犯行にしてはあまりにもできすぎている。
おそらく松本大臣だろう。
彼以外にこれほどの実行力と俺を襲う理由を持つ人間がいない。
ここまで大それたことをした以上、家にいる妹にも累が及んでいないとも限らない。
家に急がなければいけない。
「死んでやるわけがないだろ。唯一の家族に危険な目に遭ってるかもしれないのに」
「何口ごたえしてんだボ──」
「あ、兄貴──!!」
戦闘に立ってた男がバットを振り落としてきたので、懐に入って顎を殴る。
顎を殴ると脳が揺れるため非常に危険なので余裕がある時であれば絶対にしないが、今は1分1秒でも惜しいので配慮する余裕はない。
「舐めてんじゃ──」「早く囲めバ──」「うああああああ!!」
「これで全員か」
こういうことに慣れているのか、囲んできたので回転蹴りをしてまとめて薙ぎ倒す。
十二年前にもこういう人と人の諍いは絶えなかったが、その経験が平和になった今になってその時の経験が生きるとは案外わからないものだ。
邪魔するものはなくなったので、全力疾走で家に向かう。
──ー
「家を燃やしたのか」
「すいません! 安藤さん! 自分だけで手一杯でまだお嬢さんが中に!」
家に到着すると燃え上がっており、電話をかけながらヘルパーのおばさん──生田さんが近寄ってきた。
「妹を連れ出してきます」
「危険です! 今消防と救急に連絡をしていますから! それにもう家は火の手が回ってて妹さんはもう!」
「あいつは俺に唯一残された家族だ。間に合わないから助けないという選択はできません」
「待って! 安藤さん!」
生田さんを振り切り、家の玄関の中に進んでいくと息を止めて中に入っていく。
家の中は火に塗れており、ひどい状態だ。
こうまでなると煙を吸い込むことだけでも危険だろう。
早く妹──鏡花を連れ出さなければ。
天井から燃え盛る瓦礫が落ちてきて、肌を炙るが気にせずに進む。
十二年前に痛みで足を止めることは死ぬ瞬間に遭遇していたおかげで移動のみは滞りなく行えた。
目的の場所までいくと、火に炙られて肌が爛れてはいたが息をしている鏡花の姿があった。
生きている。
よかった。
鏡花を運ぼうと思うと、後方に大きな音がした。
背後を振り返ると廊下を通せんぼするように大きな燃える瓦礫が落ちてきていたので、両腕で掴んでどかす。
両腕が火傷でボロボロだが鏡花を運ぶことには問題はないはずだ。
近くにあるまだ無事である毛布で鏡花を包むと外に向けて、走っていく。
火勢が強まり、全身を炎で舐められたが、まだ倒れるほとではない。
「鏡花は生きてました」
「安藤さん、酷いやけど! あんた大丈夫かい!」
「俺は鏡花にダンジョンで回復をかけに行きたいと思うので、消防に対する状況説明だけお願いします」
「いやだめだよ、あんた! そんな体で動いたら死んじまうよ!」
外気を肺取り入れると鏡花を抱いたまま、ダンジョン『初めの祠』に向けて走っていく。
ダンジョンの周囲は少なくはあるが魔力が周囲にあるため、魔力による身体強化がかかって多少なりともスピードアップが期待できるはずだ。
──ー
「オラア、見つけたぜ! 死にな!」
ダンジョンの周辺近くになり、魔力が少なくあるが体に満ちるのを感じると対面から先ほど襲撃してきた半グレたちがバンに乗って正面衝突を仕掛けてきた。
「邪魔だ。どいてくれ」
「「「ぎゃああああああ!!」」」
わずかだが強化がかかった手の甲でバンの正面を叩くとバンがひしゃげて、近くの壁にめり込んだ。
半グレの安否よりも鏡花の命の大切なので、放っておいて、先を急ぐ。
ダンジョンの敷地内入るとダンジョンの入り口前で通せんぼするように配置された対モンスター向けの機関銃──35式機関銃を持った自衛隊員の姿を見つけた。
「あやつらは人に擬態にする危険な魔人よ! 早く一斉掃射せんか!」
少し離れた位置で松本大臣が声を張り上げると、自衛隊員たちがこちらに向けて銃口を向け始めた。
もうダンジョンにだいぶ近づいていることもあり、あの程度の攻撃であれば俺自身が傷つかないほどの魔力による身体強化が掛かっているので避けなくてもいい。
鏡花に来るものだけ捌ければいいだろう。
「早い!」「弾丸が弾かれた」「バカな!」
こちらの魔力による体の強化に対して驚く自衛隊のメンツを抜かして一直戦でダンジョンの扉の中に入る。
これで回復魔法を使えるはずだ。
「綺麗に治ったな」
鏡花に回復魔法をかけると火傷が綺麗に消え、少し浅かった呼吸が安らかになったことを確認すると、俺にも回復魔法をかけて回復する。
「綺麗に治ったけど、松本大臣には妹を傷つけた報いを受けさせる必要があるな」
「あ、あの」
俺が妹を傷つけられた私怨から松本大臣に対して報復を検討していると少し離れたところから声が聞こえ、声の主を確認すると魔人の少女だった。
──ー
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