第4話 憤る大臣


 蓮襲撃時、松本は息子の輝利哉が配信時に魔人と遭遇していた『始めの祠』のダンジョン前に来ていた。

 その目的は無論、魔人を駆除するためだ。


「おい、無能。貴様がここで魔人を見つけたというのは間違いないのだろうな」


「ああ、父さん」


「全く。輝利哉、お前は最低の不良品だ。安藤に対して釘をさせと命令すれば、普通、妹を使って脅迫するものをバカのように毎日ダンジョン協会に行き釘を刺しに行き、ダンジョン配信をして英雄としての功績を風化させないようにしろと言えば、実力のある業者を雇って工夫をすればいいものを、バカ正直に自分の実力を披露して恥を全世界に晒しおって。とてもではないが私とお前と血が繋がっているとは思えん」


 ダンジョンの確認のためにここまで案内させた無能な息子に苦言を呈すと自衛隊のジープがダンジョンの敷地内に入ってきた。


「ふむ。15分前集合か。下級国民であることを考慮すれば及第点といったところか」


 真の上級国民としてのプライドから30分前集合していた松本はそう評価すると、魔人やモンスターを殺すための最新式の装備を携えた自衛官らが降りてくる。

 彼らこそは自衛隊最強の対魔物特殊部隊──オオガミだ。

 十二年前にモンスター流出の際に目覚ましい活躍をしたベテラン自衛官を筆頭に若く有望な自衛官で構成された特殊部隊で、ダンジョンで行われた演習でも最難関であるA級ダンジョンを踏破するほどの実力を示している。


「お待たせして申し訳ありません。松本大臣」


「……。君たちには品位の方は期待していない。この極秘任務だけをしっかりと遂行してくれたまえ。君たちの功績は英雄である松本輝利哉のものになるが変な気は起こすなよ」


「はっ。では早速ダンジョンの方に行きます」


「頼んだぞ。いや待て!」


 オオガミに魔人討伐の催促を終え、踵を返すと、こちらに向けてありえない速度で近づいてくる男の姿が見えた。

 全身の皮膚が焼け爛れているが、ダンジョンの周囲のわずかな魔力でこれほどの身体強化を発動させるのは英雄である奴しかいない。


「しくじりおったな! 簡単な仕事もできんゴミが!」


 殺せなかったことは痛いが、幸いここにはフル装備の対モンスター最強の部隊がいる。

 手負いな上、ダンジョン外で本来の1パーセント以下の身体強化しか使えない奴ならば簡単に落とせるはずだ。

 いくら身体強化の質が優れていようと元手の魔力不足で出力が出せなければ限度があるのだから。


「あやつらは人に擬態する危険な魔人よ! 早く一斉掃射せんか!」


「早い!」「弾丸が弾かれた」「バカな!」


 あまりにも早すぎる応酬のため、松本には何をしたのか認知できず、さらに怒号を飛ばす。


「言い訳はいい! ダンジョンに奴を背後を取られているではないか! 早く撃たんか!」


「ですが、もう姿が──」


「黙れ! この状況でこちらに手を出さずに、ダンジョンに一直線に向かうわけがなかろうが! もういい無能が! 私が撃てと言えば撃つのだ!  私にその機関銃を貸せ!」


「あ」


「うおおおお!!」


 彼の命令に答えないオオガミの隊員たちのおかげで頭に血が上った松本は雄叫びを上げながら、もう蓮が通り過ぎた虚空に向けて機関銃を乱射する。


「先ほどのように目に見えん速度で動いてもこれならば当たるだろう! どうだ! どうだ! どうだ!」


「ダメだ! 父さん! やめるんだ!」


 その狂騒にオオガミの隊員たちが若干引いた目で見つめると、輝利哉が松本を止めに入る。


「さっき見た安藤は──兄貴は妹の鏡花ちゃんを傷つけられてキレていた! これ以上やったら死ぬよりも酷い目に遭う! 元よりあんたに見捨てられて兄貴に保護されていただけの俺が英雄だなんて無理があったんだ!」


「輝利哉!! 貴様ああああ!! 息子が家長である父に指図するとは何事か!! 教育の必要があるようだな!!」


「ぎゃああああああ!」


 機関銃の銃底で輝利哉を苛立ちのままに加減をせずに殴りつける。

 無能に指図されるという行為は松本のプライドを傷つける行為であるため、さらに追加で容赦なく暴力が振るわれる。


「ぎゃあ! ぐあ! ぎゃ! ごへ!」

 

 輝利哉が気絶するまで銃で何度も殴りつけるとやっと怒りを収める。


「ふん。使えんどころか、足を引っ張る不良品が。奴はどこにいった?」


「ダンジョン内に」


 それからオオガミの面々に蓮の居場所を聞き、自分の肉眼でしばらく待っても姿を現さないことを確認していないことを確認するとこれからのことについての算段を立てる。

 できれば確実に止めを刺して死を確認したくはあるが、現状の戦力ではダンジョン内に入り、万全の状態の奴を葬り去るのは現実的じゃない。

 回復魔法にはあれほどの大火傷を治す力を持たないことを考慮すれば、奴がダンジョン内でくたばるのを待つ方がいいだろう。

 地上にいるときよりは魔力の身体強化もあり、少しは長くは持つだろうが、それでもあの重症では長くは持たないはずだ。


「ここで私を殺さずダンジョンにおめおめと逃げることを優先した自分の無能を後悔しながらくたばるがいい。貴様がくたばった後にゆるりと魔人を片付ければ今回の件はそれで終了だ。他愛もない」


 松本はダンジョンを見て、今回思い通りにことが運ばなかったことを思い出し、苦々しげな顔しながらそう吐き捨てるとその場から去った。

 


 ──ー


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