第19話 焦燥に駆られる大臣


 「おのれ! 調子に乗ったガキが!」


 蓮が英雄に宣戦布告をしたことで、松本大臣は焦燥に駆られていた。


「よりにもよって英雄の名を使って売名しおって! おかげでネットで英雄の真偽が話題になって今朝にはテレビのニュースまでやられる始末だ! いくらなんでも黙みなどできん!」


 ニュースの方は圧力をかけて黙らせたが、ネットの方は口封じに蓮を殺したなどとよくない風評が広まっている。

 黙るにはあまりにもイメージが悪いし、大臣として露出することが多いのでたとえ黙ったとしても鎮火することはない。

 ここで対応を誤れば大臣を下されることも十分あり得る。


「クソがあ! 愚息がコスプレ娘を魔人と勘違いしなければ、安藤を使いいくらでも捏造できたものを! どこまでも私の足を引っ張る出来損ないだ!」


 取らぬ狸の皮算用をしつつ、秘密を守り、尚且つ最高難度のA級ダンジョンのボスを倒せるほどの実力のある候補を探る。

 だがそんなものは一人も見つからなかった。


「ふざけるな! 誰もおらんではないか!」


 怒号をあげて、激怒した松本が机に拳を振り下ろす。

 チラリと縁を切った英雄の次点で強いと言われる神童を抱える企業──メサイヤが脳裏に浮かぶことが彼の怒りに拍車をかけていた。

 メサイヤの手を借りる──メサイヤとの関係を改善するということは、松本が頭を下げねばならないということだからだ。

 たとえ想像だけだとしても真の上級国民であるという自負を持つ彼にとって、下級国民に頭を下げるなどという行為を選択肢のうちに浮かべることは耐え難い屈辱だった。


「おのれ! おのれ! おのれ!」


 もはやこのまま黙っていても英雄のメッキが剥がれるのは確定。

 だがメサイヤの手を借りることなど絶対にできない。

 ほぼ失敗するとしても映像を捏造して、一かバチか掛けるしか松本には選択肢は残されていなかった。



──ー


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