第15話 シドさんは好きな子いるのかな? アリシア視点

【アリシア視点】


「あと少しでボスですね……っ!」


 コクリと、シドさんがうなずく。

 あたしたちはダンジョンのボスフロアの近くまで来た。

 雑魚モンスターのゴブリン・ゾンビを狩りながら、少しずつレベルを上げる。

 それで魔力を上げて、結界魔法の持続時間を伸ばした。

 でもそんなことより、あたしが気になるのは――


 (あたしの胸を見てくれたかしら……?)


 上手く手をつないで、上手くコケたつもりだ。

 ……いや、ちょっとわざとらしかったかもしれない。


 (ファルネーゼ様には、絶対に負けないんだから……っ!)


 ファルネーゼ様は、シドさんに興味を持っている。

 100%間違いない。

 シドさんを嫌っているように見せながら、実はシドさんのことを――

 これは乙女の勘だ。

 たぶんファルネーゼ様は、自分に立ち向かってくるシドさんに、特別な感情を抱いた。

 だからシドさんを、自分の物にしたいのだ。


 (シドさんは……あたしが手に入れる)


 あたしがファルネーゼ様に勝っているところは、「ここ」だ。

 自分の胸をあたしは触る。

 ここは絶対に勝っている自信がある。

 これは乙女の戦いだ。

 もっと胸をシドさんに近づけないといけない。

 それと……もっともっとシドさんにあたしをアピールしないと!

 あと、賭けにシドさんが勝ったら、ファルネーゼ様には「土下座」してもらおう。

 そのために、ファルネーゼ様の外堀をどんどん埋めなきゃいけない。


 (絶対に逃がさないわ……っ!)


 ファルネーゼ様が誓約を破れないようにするためには……

 誓約の代償をとても大きくすればいい。

 たしかにシドさんの言う通り、誓約は破ることができる。

 でもその時は、代償を支払わないといけない。

 そして代償は、こちら(シド)が設定できる。

 ファルネーゼ様に課す代償を、あたしはコッソリいじっておいた。

 絶対に失うわけにはいかないものを、代償にしておいた。


 それは――爵位だ。

 ファルネーゼ様にとって一番大事なものは、「公爵令嬢」という地位。

 シドさんは100万ゴールドを代償にしていたけど、ファルネーゼ様は爵位を大切にしている。

 今まで侯爵令嬢の地位を振りかざして、人をいじめてきた。

 だが、侯爵令嬢の地位を失えば、取り巻きの人たちも離れていくだろう。


 (絶対に裸で踊ってもらうんだから……っ!)


 何があっても、シドさんをファルネーゼ様に勝たせる。

 そして、恋もあたしが勝つんだ……っ!


 (シドさんは今、好きな女の子いるのかな……?)


 すごく聞きたいけど、怖くて聞けない……

 もしもシドさんに他に好きな子がいたとしても、あたしは大丈夫。

 すごく、すごく辛いけど……

 あたしは二番目でも構わない。

 シドさんだけが、あたしを助けてくれた。

 だからあたしはシドをずっと側で守り続けたい――


 ★


【シド視点】


「あれがアンデッド・キング……っ!」


 一言で言うと、でかいゾンビだ。

 背中に大きな剣をしょっている。

 ボスフロアに足を踏み入れた俺たち(シド、アリシア)は、アンデッド・キングの様子を伺っていた。

 アンデッド・キングは、まだ俺たちの存在に気づいていなかった。

 後ろの台座に、【聖なる杖】が見える。


「よし。ふいをつけるぞ」

「はい! やってしまいましょう!」


 やけにやる気満々のアリシア。

 負けそうな戦いのはずなのに、アリシアがいると勝てる気がしてきた。


「ふふふ……愚かな人間よ。我はもう気づいているぞ」


 ドンっ! 

 アンデッド・キングは飛び上がって、俺たちの目の前に来た。


「きゃあああああっ! シドさん助けて……っ!」


 アリシアが俺に抱き着く。

 ふにょん!


 (背中に柔らかいものが……!)


 ていうかアンデッド・キングってしゃべるんだな。

 ゲームだと特に会話なく、戦闘が開始したから、アンデッド・キングがしゃべって少しびっくりだ。


「むむ……貴様ら、レベルが低すぎるぞ。我と戦うには雑魚すぎるのではないか?」


 うん。ずばり正解だ。

 シナリオ後半のダンジョンだから。

 低レベルクリアとか縛りプレイでもしない限り、俺たちのレベルじゃ来ない。


 (しかも乙女ゲーで縛りプレイなんて誰もしないし……)


 だがこのゲーム、乙女ゲ―でありながら、戦闘システムはかなり本格的だ。

 きちんとレベルを上げて、装備を整えないとボスを倒せないようになっている。

 だからアンデッド・キングさんが驚くのは、ゲーム的に正しい態度だ。


「ふっふっふ! 我の養分となれい……!」


 アンデッド・キングはいかにも悪役っぽく笑って、でかい剣を振り上げる。


「死ねっ! 死狼剣……!」


 でかい剣を振り下ろす――

 死狼剣は、アンデッド・キングの必殺技。

 今の俺たちが喰らえば即死だ。


 だがしかし。


「ぐ……がはァ!!」


 アンデッド・キングの足が崩れる。


「な……なんだ?! いったい何が起こって……?」


 動揺するアンデッド・キング。

 顔はゾンビだから表情はわからないが。


「やりましたね! シドさん!」


 アリシアがすげえ喜ぶ。


「ああ。引かってくれてよかった」

「貴様ら……何をした?」


 さっきのアリシアの悲鳴は演技。

 隙をついて、足元に聖水を撒いておいた。

 聖水がアンデッド・キングの足を溶かしたのだ。


 あとは、少し離れたところから――


「聖水を投げまくる!」

「ぎゃああああああああああああ!!」


 (ヤバい……ちょっと楽しいんだが)


 無抵抗のアンデッド・キングに、聖水をぶつけまくる俺たち。

 これじゃ、どっちが悪役かわからないな……


「があああああァ……」


 アンデッド・キングは倒れた。


【レベルアップしました!】

【レベルアップしました!】

【レベルアップしました!】


 鳴りやまない、レベルアップ音。


 (すげえ気持ちいい……!)


「やった! すごくレベルが上がりますね……っ!」


 またアリシアが俺に抱き着く。

 ふにょん! ふにょん!

 さっきよりも強く、アリシアの胸が俺に当たりまくる……!


 (やっぱりアリシアの胸はでかいな)


 俺はアリシアの胸の豊かさを実感するのだった。


「かなりレベルアップできたな」


 まだ序盤でスライムを倒しているような段階なのに、後半のダンジョンボスを倒した。

 あり得ない量の経験値が入ったから、だいぶ強くなった。


「よし。あとは聖なる杖をゲットしようか」

「はい!」


 俺たちは聖なる杖のある台座に近づく。

 聖なる杖は主人公専用アイテムだ。

 装備すれば、味方全員の魔力を大幅に強化できる。


「これでクロード王子をボッコボコにできますね……!」


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