第14話 ファルネーゼ様の裸を見たいですか?

「よし。ダンジョンに入るぞ!」

「はい……っ! シドさん!」


 俺とアリシアはブラック・フォレストにある隠しダンジョン――【暗黒の森林】へと入った。

 魔力の強いアリシアを先頭にして、聖水をかける。

 これで雑魚モンスターは寄って来なくなった。


「このまま最短でボスを目指すぞ」

「はい!」


 森の中にあるダンジョンだからか、周囲はすげえ暗かった。

 照明魔法を使いながら、下の階層へ進んでいく。


「暗いですね……はぐれないように、手を繋ぎましょう!」

「えっ? 手を繋ぐのか?」

「そっちのほうが安心だと思って……シドさんはもしかして、あたしと手を繋ぐの嫌ですか?」

「いや、全然嫌じゃないけど……」

「でしたら、しっかり手を繋ぎましょう!」


 「しっかり」という言葉を妙に強調するアリシア。

 俺の気づかないうちに、さっとアリシアが俺の手を握る。


 (すべすべの手だな……)


 照明魔法にアリシアの白いきれいな手が照らされていた。


「シドさんの手……おっきくってあったかいです……」


 アリシアは俺の手をぎゅっと握る。


「なんだかこれ、デートぽっいですね」

「えっ? デート……うわぁ」


 アリシアが石につまずいてこけた。

 手を繋いでいた俺も一緒にこけてしまう。


「…………あっ!」


 俺の顔にすごく柔らかいものが。 

 顔が挟まれてすごく気持ちよくて。


「ご、ごめんなさい! シドさんがあたしの下に……」


 ふにょん、ふにょん!

 アリシアの身体が揺れると、もっと顔に押しつけられて――


「ほ、本当にごめんなさいっ! あたしがドジだから」


 アリシアはやっと俺の身体からどいた。


「いや……大丈夫。ただの事故だし」


 事故でおっぱいに顔を潰されることに。


 (うん。悪くない事故だ……)


「はい。あたしの手に捕まってください」


 アリシアが俺の手をつかんだ。


「ありがとう」


 またアリシアは俺の手をしっかりと握る。


「では……先に進みましょう」

 

 ★


 俺たちは雑魚モンスターをなるべく避けながら、ボスフロアを目指す。

 ただ……雑魚の中でも弱いモンスターは狩って、レベルを少しでも上げる。


「シドさん。ファルネーゼ様は、本当に何でもするのでしょうか……?」


 次のフロアに降りた時、アリシアがふと俺に話しかける。


「どうだろうな……? ファルネーゼのことだから、約束を反故にするからもな」


 俺は自分の左手に刻まれた、【誓約の刻印】を見た。

 一応、ファルネーゼとは誓約魔法【ゼイウス】を結んだ。

 誓約は貴族社会では重んじられるから、誓約を破れば白い目で見られることになる。名誉こそ、貴族の命だからだ。

 だが、誓約自体は破れないわけじゃない。

 99%以上の確率で、ファルネーゼは約束を反故にするだろう。


「酷いですね……何でもするとお約束したのに」

「そうだな。でも、ファルネーゼの性格を考えると、あり得ないことじゃない」


 あのクソ最悪な性格を思うと、約束を破るなんてきっと平気だ。

 だけど……俺としては、ファルネーゼに負けを認めさせればいい。

 ファルネーゼが誓約を破れば、それは結局、俺との賭けに「負けた」ことになる。

 周りのクラスメイトたちが証人だ。

 それに俺も、ファルネーゼの足を舐めずに済む。


「まあ俺は、アイツがこれ以上、アリシアをいじめなくなればそれでいいよ」

「ありがとうございます。シドさんは優しいんですね……。でも、不公平じゃないですか? ファルネーゼ様が賭けに負けても何にもないなんて……!」


 アリシアが唇を噛んだ。


「そう言われると、そうかもしれない」


 俺が負ければファルネーゼの足を舐めることになるが、ファルネーゼが負けても何もない。

 たしかに不公平と言えば、不公平かもしれない。


「ファルネーゼ様は、ご自分で【何でもする】と言ったのです。何かしてもらわないと、不公平ですよ……っ! シドさんが勝ったら、何かしてもらいましょう!」


 ずいっとアリシアが顔を近づけて、俺に力説する。


「そうだな……」


 でも、ファルネーゼにしてもらいたいことなんて、ないしな……


「あっ! たしかファルネーゼ様は、【裸で踊る】と言ってましたね……。だったら、ファルネーゼ様に裸で踊ってもらうのはどうでしょう!」


 ニコニコしながら言うアリシア。


「いや、それはちょっと……」


 ファルネーゼは自分から【裸で踊る】と言っていた。

 だが、女の子を裸にして踊らせるのは、いろいろ問題が……


 (ていうか、女の子のアリシアが言うことか?)


 そして次にアリシアは、すごいことを俺に聞いてきた。


「シドさんは……ファルネーゼ様の裸、見たくないんですか……?」

「えっ?」

「ほら……! ファルネーゼ様って、見た目(だけ)はかわいいですし……す、すみませんっ! あたし、さっきからなんてことを言って……っ!」


 自分で言った後に、アリシアは顔を真っ赤にする。

 ようやく自分がヤバいことを言ってたと、気づいたらしい。


「別に見たくないよ。ファルネーゼの裸なんて……」

「ほ、本当ですか?」

「うん。本当だよ」

「(ほ……っ! よかったあ……)」


 胸をなで下ろすアリシア。


「……何か言ったか?」

「いいえ! 何でもありませんっ!」


 アリシアは「あわわっ!」と慌てる。

 明らかに何かありそうな感じだけど……

 アリシアに【ファルネーゼの裸】について言われたから、いろいろ想像してしまう。


 (ファルネーゼって、おっぱい小さそうだよな……)


「シドさん。今、邪悪なことを想像しませんでしたか?」


 じっと、アリシアが俺を見つめてくる。


「いや、何も想像してないって……」

「ま。あたし、ここはファルネーゼ様に勝ってますから!」


 ふんすっと、アリシアが胸を張る。

 ででんっと、俺の目の前におっぱいが迫ってきて――


「勝ってますよね、勝ってますよね……? シドさん?」


 不安そうな表情で俺に尋ねるアリシア。

 たしかにファルネーゼより全然勝っているな……

 ここはアリシアの大勝利。うん。間違いなく圧勝だ。


「ふむふむ。わかればよろしいです」


 俺は何も言ってないが、雰囲気で納得してくれたらしい。


「こほん……! とにかく、早くボスのところへ向かいましょう!」


 俺たちは、このダンジョンのボス――アンデッド・キングのフロアへ急いだ。


 

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