第13話 これでグランディを虐殺できるわ ファルネーゼ視点
【ファルネーゼ視点】
「で……グランディたちの動きは?」
あたしは寮の部屋で、獣人奴隷の報告を聞く。
アリシアとグランディの部屋に、盗聴魔法を仕掛けた。
あたしが負けるなんて100%あり得ないけど、念のため保険をかけておいたのだ。
「どうやらこの学院の地下にあるダンジョンに潜るそうです」
「えっ? この学院の地下にダンジョンが……?」
学院の地下にダンジョンがあるなんて驚きだ。
(どうしてグランディがそんなこと知っているのかしら……)
すごく気になるところだけど――グランディには確信があるみたいだ。
「ダンジョンのボスは、アンデッド・キングです。そしてアンデッド・キングを倒すために聖水が大量に必要なようです」
「潜ったことのないダンジョンのボスを知っている……?」
ますます、グランディがわからない。
いったいどこでその情報を知ったのか……
そう。まるで最初から全部知っているみたいに。
「……まあいいわ。とにかくグランディのやることは邪魔してやるんだから。あいつに監視をつけて、王都中の聖水を買い占めなさい」
「かしこまりました。お嬢様……」
獣人奴隷は姿を消した。
お父様が買ってくれた優秀な獣人奴隷。
本当の名前は忘れたけど、あたしはテキトーに「ティム」と呼んでいる。
黒い犬耳と、鋭い黄色の目――
あたしが命令すれば、人だって躊躇なく殺す。
「ふう。あとはグランディがダンジョンに潜る現場を押さえて、獣人奴隷に襲わせればいい……」
獣人奴隷によれば、学院の中央講堂にある、聖女像の下にダンジョンの入口があるらしい。
(罠でも仕掛けようかしら……)
召喚魔法のトラップがいいかもしれない。
グランディがダンジョンの入口にやってきたら、Aランクモンスターが召喚される。
「これでグランディを虐殺できるわ……」
グランディは追い詰められて、わたしに許しを請うことになる。
それであたしの足を犬のように丁寧に舐めさせて、あたしの奴隷にするのだ。
「グランディ……待ってなさい。あたしの犬にしてやるわ……っ!」
★
【シド視点】
「……ありがとう。ハルク。これは謝礼だ」
ここは学院近くの森――
俺はティム――本当の名前は「ハルク」に銀貨を渡す。
「グランディ様……わたしを本当の名で呼んでくれるのはあなただけです」
「ああ。人間にとって、名前は大事だからな」
獣人は奴隷に堕とされる時に、名前を奪われる。
ティムの場合は、「ハルク」という本当の名前を奪われていた。
「……本当にいいのか? ファルネーゼを裏切っても?」
「ええ。あんなゴミクズクソ女――失礼。あんな横暴な主人に仕えることはできません」
「そうか……。協力に感謝するよ」
ハルクには、ファルネーゼに「偽情報」を流してもらった。
実はダンジョンは、学院の地下にはない。
学院の近くにある、黒き森【ブラック・フォレスト】にある。
つまり、ファルネーゼのトラップは空振りということだ。
「わたしはグランディ様に、忠誠を誓います」
ハルクは俺に深々と頭を下げて、臣下の礼をとる。
「ありがとう。今後も頼むよ」
「はっ! ではまた!」
ハルクは姿を消した……
ハルクはファルネーゼの獣人奴隷で、ファルネーゼにボロ雑巾のごとくこき使われる。
実は原作の設定では、ハルクは誇り高い獣人族の貴族だった。
だが人間族との戦争に負けて、奴隷の身分に堕ちる。
だから自分たち獣人族を奴隷にした、人間族の貴族を恨んでいた。
「すごいです……よくハルクさんを味方にできましたね……」
隠れていたアリシアが姿を現した。
「名前を取り戻してやったからな」
ハルクはファルネーゼに忘却魔法をかけられて、本当の名前を奪われていた。
獣人族にとって、名前は神から与えられるものだとされる。
一番、大切にしているものだ。
本当の名前を記憶から消し去る――つまりファルネーゼは、ハルクから一番大切なものを奪っていたのだ。
だから俺は、ハルクの一番大切なものを取り戻してあげた。
ファルネーゼの近くにいる、ハルクを味方につけるために……
(ただ本当の名前を教えただけなのだが)
「でも……どうしてシドさんは、ハルクさんの名前を知っていたのです?」
もちろん原作をプレイしていからだ。
だが……さすがに本当のことは言えない。
(どうやって誤魔化そうか……?)
「剣を見たんだ」
「剣ですか……?」
ハルクは腰に剣をつけていた。
「うん。剣の鞘に獣人語で【ハルク】って書いてあったから……たぶん本当の名前はハルクじゃないかって。ハルクは獣人族っぽい名前だし」
「シドさんはすごすぎます……そんな小さなことも見逃さないなんて! 観察が鋭すぎます……っ!」
「ははは……」
ハルクには魔法で名前を見抜いていたと言って納得してもらった。
一応、原作には透視をする魔法――イルパスがある。
それで名前を見抜いたということにしておいた。
もちろん、原作には名前を見抜く効果はないが……
(かなり怪しまれたけど、とにかく味方にできてよかった)
「ファルネーゼ様は聖水を買い占めるみたいですね。どうしましょう……? あたしたちの作戦には聖水は必須なのに――」
アリシアは不安げな表情をする。
「それは大丈夫だ」
「えっ……?」
アリシアが目を丸くする。
「ちゃんと策があるからな――あれだ」
俺は木の陰に空いてあった箱――リサイクルボックスを指さした。
緑色の大きな箱だ。
「これは、リサイクルボックスですよね。2つの魔道具を融合させて、新しい魔道具を作り出す……あっ! まさかこれで?」
「そうだ。リサイクルボックスを使って、聖水を作り出す」
ファルネーゼが聖水を買い占めるのなら、俺たちは聖水を作ればいい。
「でも……聖水を作り出す組み合わせがわかりません」
「大丈夫だ。俺が知っている」
「えっ……! シドさん。それも知ってるんですか……っ!」
「ああ。子どもの頃によくリサイクルボックスで遊んでたから……」
アリシアに言ったことは、もちろん嘘だ。
原作では魔道具の組合せは、ノーヒントだ。
ネットでググらない限り、正しい組合せはわからない。
俺は最速クリアをするために、聖水を大量にリサイクルボックスで作っていたから、組み合わせは覚えている。
聖水には自分より弱いモンスターとエンカウントしない効果があるから、乙女ゲーをさっさと終わらせたかった俺には、必要なアイテムだった。
「で、聖水を作り出す組み合わせは……?」
「ポーションと、毒消し草だ」
どちらもこのゲームのショップで、安く多量に手に入る。
「ここで聖水を作って……あっ! シドさん。学院の聖女像の下に、反魔法を仕掛けませんか?」
「なるほど……それもありだな」
反魔法は、魔法を跳ね返す魔法のことだ。
要するに、魔法版の「パリィ」みたいなもの。
ファルネーゼが強力な魔法トラップを仕掛ければ、魔法トラップの威力を2倍にして反射することができる。
「ファルネーゼ様がAランクのモンスターを召喚するなら、反魔法を使えば……」
「Sランクのモンスターが召喚されることになる……か」
いくら魔力の強いファルネーゼでも、Sランクモンスターが出現したら対処できない。
「Sランクモンスターが突然現れたら、学院は大混乱です。王国騎士団が出動する事態になるでしょう。で、その責任は――ファルネーゼ様にあることになります。もしそうなれば、ハンシュタイン侯爵家は……」
アリシアはニコニコしながら言う。
「すげえヤバいことになるな……。間違いなく」
(うん。想像したくない……)
ファルネーゼは、たぶん破滅するだろう。
「さあ! シドさん! 聖水をたくさん作りましょう♡」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます