第12話 フラグを立てまくる攻略対象たち クロード王子視点

【クロード王子視点】


「サンダーボルト……っ!」


 わたしは右手から雷撃を放つ。


「ぎゃああああっ!」


 ここは学院のグラウンド。

 学院生たちが鍛錬する修練場として使われている。

 今、冒険者ギルドから来た冒険者を倒したところだ。


「さ、さすがクロード王子殿下……! Aランク冒険者を一撃とは――」


 従者がわたしを褒めた。


 もともと王族は、いにしえの勇者の末裔だ。

 だからわたしは勇者専用の魔法である、雷属性魔法が使える。

 鍛錬のために、冒険者ギルドから高ランクの冒険者を学院に連れて来ていた。

 これも未来の王であるわたしのために、現国王――つまりわたしの父上が用意してくれたのだ。

 王たる者、常に強者であらねばならぬ――父上の口癖であり、我が王家の家訓でもある。


「さすがですわ。お兄様……っ!」


 我が妹――リーザロッテ・フォン・ルクスランドが駆け寄ってきた。

 金髪の巻き髪と、ブルーの瞳が麗しい。


 (我が妹ながら……かなりの美少女だ)


 王位継承順位は、2位。

 わたしの王位継承順位は、1位だ。

 わたしにもしものことがあれば、リーザロッテが女王になる。


 (まあこのわたしに、「もしものこと」なんてあり得ないが……)


「お兄様と戦うシド・フォン・グランディ準男爵令息ってどんな方なのかしら……? 準男爵令息でお兄様と戦うなんて――」


 実力至上主義のルクスランド王国では、魔力の強さで爵位が決まる。

 だから強さの順番は、王族が最高であり、準男爵が底辺だ。

 準男爵の下に騎士爵があるが、騎士爵は功績のある平民に与えられる特別な爵位。

 つまり貴族の中では、準男爵が一番弱いことになる。


「まったく無謀なヤツだ。王族のわたしと戦おうなどと……」

「でも……少し興味がありますわ。そんな無謀なことをする人が、どんな人なのか……?」

「いや、リーザロッテが興味を持つようなヤツじゃない。ただの愚か者だ。わたしが瞬殺してやるさ」


 リーザロッテは昔から好奇心旺盛だ。

 珍しいものを見つけては喜ぶ。

 グランディのバカさは珍しいとも言えるが、王族が相手にするレベルのヤツじゃない。

 

「きっと何か、勝算があるんじゃないかしら?」

「勝算だと……?」

「準男爵令息が王子に戦いを挑むのですもの。何かすごい策があるに違いありません」


 (グランディが勝つ策だと……)


 あるはずがない。

 わたしに勝つことなど、1%もないからだ。


「リーザロッテ。グランディが勝つ可能性などないよ。あのバカに策があるはずない」

「そうかしら……?」


 リーザロッテは首を傾げた。


「お兄様……妹として忠告しますわ。グランディさんは、きっと何か隠しています。油断してはいけません」


 リーザロッテが人差し指を立てる。


「ありがとう。気持ちだけ受け取っておこう。だが、わたしがグランディごときに負けることは、絶対にあり得ない。油断もなにも、あの雑魚が勝つ可能性なんて、最初からないのだから」


 わたしはリーザロッテの頭をなでた。

 リーザロッテは優しい性格だ。

 わたしのことを心配してくれているのだろう。


 (気持ちはすごく嬉しいが、グランディに負けるなんてあり得ないからな……)


【きゃああああ! フェルド魔術師長よ!】

【ユリウス騎士団長もいるわ……っ! イケメン!】

【スリーローズが揃ったわ!】


 修練場にいた令嬢たちが黄色い声を上げる。


 フェルドとユリウスが、修練場へやって来たのだ。

 スリーローズ「3本の薔薇」は、わたし、フェルド、ユリウスの3人を指している。

 3人とも親友であり――いわゆる「イケメン」だ。

 自分でイケメンと言っているが、実際に令嬢たちからそう言われているから仕方ない。


「やっと来たか……冒険者たちはもう来てるぞ」

「すまん。クロード。魔術師団の仕事があって」

「俺もだ。騎士団の仕事で遅れた」

「……まあいい。さっそく戦闘を始めるぞ」


 わたしとフェルドとユリウスは、3人とも幼馴染だ。

 フェルドとユリウスは、公爵令息であり、王族の親戚。

 一緒に王宮で育ったから、お互いにタメ口で話す仲だ。


「フェルドさん、ユリウスさん、久しぶりです!」


 リーザロッテが2人(フェルド、ユリウス)に挨拶する。


「リーザロッテ。しばらく見ないうちにキレイになったな!」


 女たらしのフェルドが、調子のいいことを言って、


「ふっ……! 久しぶりだ」


 クールなユリウスが、塩対応ぎみに言う。

 わたしのチームは、グランディとアリシア以外のクラス全員がメンバーだが、代表して3人(クロード、フェルド、ユリウス)で戦うことにした。

 グランディごとき虫ケラを潰すのに、他のクラスメイトの手を借りる必要はない。

 わたしたち3人の圧倒的な力でグランディを粉砕し、アリシアには降伏を促すのが作戦だ。


「よし。まずはフェルドからだ。Aランク魔術師と戦ってもらう」

「了解!」


 オレンジ色の髪をなびかせて、元気よくフェルドが言う。

 ファルドは賢者の血筋である、アナスタシア公爵家の令息だ。

「紅蓮の魔術師」と呼ばれて、強力な炎属性魔法の使い手。


「やってやるぜ……っ!」


 ファルドが詠唱の準備をする。


「地獄の業火よ……我が敵を焼き尽くせ……っ! ヘルファイア!」

「く……っ! 結界魔法――ミラフォース!」


 ミラフォース――上級結界魔法。

 かなり強力な結界だ。ドラゴンのファイアブレスも防げる。

 Aランク魔術師はそんな結界を張るが――


「ぐわああああああっ!」


 結界を一瞬で焼き尽くし、Aランク魔術師に炎が襲い掛かる……!


「殺すなよ! フェルド!」


 一応わたしが、フェルドに注意する。


「はいはい。クロード。死なない程度にやるよ!」


 修練場に来る冒険者たちは、「死んでもいい」という誓約書にサインしている。

 大抵は罪を犯して、ギルドを追放された「はぐれ冒険者」たちだ。

 だから殺しても構わないのだが……令嬢たちの目がある。

 あまり派手にやりすぎるのは良くない。


「があぁ……」


 燃えながら倒れるAランク魔術師。


「はははっ! 俺の勝ちだな!」


 ファルドが勝利を宣言する。


「ファルドの勝ちだな。その魔術師には、治癒魔法をかけておけ!」


 すぐに治癒魔法をかけてやれば、火傷が少し残る程度で済むだろう。


「次は……ユリウスだな」

「ふ……っ! わたしの番か」


 くいっと、眼鏡を挙げるユリウス。

 紅い長髪が風にたなびく。

 ユリウスは剣聖の血筋である、バルトロン公爵家の令息だ。

 「光速の剣士」と呼ばれて、その剣速が目に見える者はいない。


「はあああああっ!」


 Aランク剣士が、ユリウスに斬りかかるが、


「遅い」

「がはぁ……っ!」


 瞬殺剣――バルトロン公爵家に伝わる秘伝の剣技。

 剣を抜く様さえ見えない、まさに光のごとき速さの剣だ。

 しかも威力も高く、Aランク剣士のミスリルの鎧を切り裂いた。


「……があ」


 Aランク剣士は膝から倒れてしまう。


「俺の勝ちだ……」


 ユリウスが勝利を宣言する。


「よし。その剣士に治癒魔法をかけておけ……!」


 あの剣士は、胸に傷が残る程度で済むだろう。


 (負けた冒険者のケアも怠らないわたし……なんて良い王子なのか!)


 胸中でついつい自画自賛してしまう。

 だが、実際にわたしは完璧な王族と言えるだろう。


【きゃあああ! フェルド様すごいわ!】

【ユリウス様あああ! 素敵です!】

【3人ともイケメンすぎます……!】


 観客の令嬢たちが歓声を上げた。


「やっぱり俺たちって、カッコイイんだな!」


 令嬢たちに手を振るフェルド。


「ふっ! まったくこれだから令嬢たちは……!(一番カッコイイのは俺だ)」


 くいっと眼鏡を直すユリウス。


「そうだな。わたしたちはイケメンだ」


 令嬢たちの嬌声を聞いて、わたしたちは自分が「イケメン」であることを再確認する。


 (わたしたちがグランディに負けるなど、やはりあり得ない)


「3人ともお疲れさまです。あ! 言い忘れてました! グランディさんとの決闘は……お父様も見に来るそうですよ!」


 リーザロッテが言う。


「国王陛下に俺の活躍を見てもらえるのか……! やったぜ!」


 フェルドが喜んでみせる。


「ふふ……国王陛下に我が剣技を披露しよう」


 ユリウスも内心、喜んでいるようだ。


「父上が来るならちょうどいい。わたしたちは王国の未来を担う身だ。わたしたちの活躍を見せて、父上を安心させよう」


「「「おう……!」」」


 わたしたち3人は、勝利を確信するのだった。


「ふふ! でも3人とも、油断だけはしないでね。勝負は何があるかわかりませんから……」



——————————————————

【あとがき】


フラグを立てまくる3人であった……


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