第8話 フラグが立ちまくっている件

「シドさん……同じチームになりましたね。頑張りましょう!」


 休み時間。

 さっきの衝撃的なチーム分けの後、アリシアが俺に話かけてきた。


「いや……俺は統率者を辞退するよ」

「えっ? どうしてですか……?」

「クロード王子と争いたくないから」


 俺はモブとして平穏に行きたい。

 準男爵家の三男の俺は、領地を継ぐことができないから、王都で適当な職にでも就いて静に暮らそうと思っていた。

 それにモブキャラのシドは、ステータスもごく平凡だ。

 魔力の量も普通程度。

 まともに考えれば、クロード王子とクラスメイト全員に勝てるわけがない……


「俺、先生に統率者を辞退するって――」

「あら。辞退なんてダメよ!」

「ファルネーゼ……?!」


 ファルネーゼが俺の席にやって来た。

 イジワルそうな、薄笑いを浮かべている。


「何の用だよ……?」

「辞退なんてあたしが絶対に許さないわ。教師に手を回して、辞退を決して認めないように言っておくから」

「なんだと……」

「アンタは惨めに敗北するのよ。大人しくクラスメイト全員にボコられなさい! それから王族に逆らったことを土下座して、【自主退学】するのよ……っ!」


 退学はさすがにマズイ。

 俺はこの世界を怠惰にまったりと生きたいが、貧乏は嫌だ。

 魔法学院を卒業できなれば、間違いなく無職ルートだろう。


「でも……あたしが哀れなアンタを、助けてやってもいいのよ?」


 ドンっと、ファルネーゼが椅子に座る。


「うふふ……ファルネーゼ様もエグイわね」


 と、ファルネーゼの取り巻きたちがクスクスと笑う。


 (何をするつもりだ……?)


 ファルネーゼは靴を脱いで、それから靴下も脱いだ。

 白い素足を、俺に向けてくる。


「なんだよ。それ……?」

「舐めなさい」

「何を?」

「決まってるじゃない! あたしの足よ!」

「な、なんだって……?!」


 俺は自分の耳を疑った。


「ファルネーゼ様、いくらなんでもそんなこと――」


 アリシアが苦言を呈するが、


「平民はすっこんでなさい……っ!」


 ファルネーゼが怒鳴る。


 たしかにファルネーゼは、原作でも性格悪いキャラだった。 

 だが、ここまで酷いことはしなかったはず……


「犬のように足を舐めなさい。足をきれいに舐めて、あたしのペットになることを誓えば、クロード王子にとりなしてあげるわ」


 ファルネーゼは足の指を、くいっと動かす。

 爪もつやつやで、すごくきれいな足だ。

 かなり手入れしているようで。

 うん。足の美しさは認めよう。

 だが――足を舐めるなんて、そんなことはできない。


「グランディ! さっさと舐めろよ!」

「ファルネーゼ様のペットになれるなんて、名誉じゃない?」

「この犬があああっ! 舐めろ!」

 取り巻きたちが煽ってくる。


 俺を嘲笑うように見るファルネーゼ。


 (前世の女上司とそっくりだな……)


 足を舐めろとまでは言わなかったが、気に入らない部下をいじめ倒していた。

 口調とか雰囲気が、妙に前世の上司と似てるんだよな……


 (思い出したらまたイライラしてきた……)


「舐めない」

「はあ? 今、なんて――」

「俺は、お前の足を舐めない」

「いいの? クラスメイト全員にボコられても?」

「……要は、クロード王子に勝てばいいんだろ」

「アンタみたいなモブが勝てるわけ……」

「もしそのモブが勝ったら、お前は何をしてくれる?」

「あ、あたしに要求するわけ……?」


 俺の毅然とした態度に、ファルネーゼが少し焦る。


 (どうやら想定外の反応だったみたいだな)


 クロード王子に追い詰めれた俺を攻撃すれば、簡単に服従すると思ったんだろう。

 前世でブラック企業の社畜だった俺だ。

 立場が上の人間に追い込まれることは、慣れている。

 ファルネーゼの好きにはさせない――


「侯爵令嬢様が、準男爵令息に賭けで負けるんだ。お前は何を賭けるつもりだ?」

「ちょ、調子に乗るんじゃないわよ……っ! 侯爵令嬢のあたしが、底辺貴族に負けるわけないじゃない! 絶対にあり得ないけど、もしも負けたら――何でもするわ!」

「ほう……何でもか?」

「そうよ! 何でもしてやるわ! 裸で踊ってもいいわよ……っ!」

「その言葉、二言はないな?」

「しつこいわね! 本当に何でもしてやるわよ!」


 ファルネーゼが啖呵を切った。

 怒りで俺の頭は、フル回転する。

 勝算は……ないわけじゃない。

 アリシアの魔力と、俺の原作知識があれば――


「……あとで揉めたくないから、もう一度、確認する。本当に、本当に、何でもするんだな?」

「何度も聞かないで! そんなに疑うなら、誓約魔法をしてやるわ!」


 他のクラスメイトたちが見ている前だ。

 ファルネーゼも、もうあとには引けないのだろう。

 侯爵令嬢としての高すぎるプライドが、それを許さないのだ。


「わかった。誓約魔法をしよう」


 俺はファルネーゼと拳を合わせる。

 それから目を閉じた。


「「誓約魔法――ゼイウス!」」


 俺とファルネーゼの手に、誓約の刻印が刻まれた。


「これでアンタは退学決定よ……っ! ふふふ!」


 ファルネーゼが笑う。 


「さあ。それはどうかな……?」



————————————————————————

【あとがき】


フラグを立てたファルネーゼは……


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