第11話 バカ王子を倒す作戦会議

「さて、どうしようかな……?」


 学院の授業が終わった後、俺はアリシアの部屋に誘われた。

 1週間後に、【統率者の決闘】が行われる。

 その作戦会議を行うとのことだ。

 もしクロード王子に負けたら、学院を退学になってしまう……

 はっきり言って、かなりヤバい状況だ。


「紅茶を入れました。あとクッキーも」


 アリシアが紅茶とクッキーを出してくれた。

 俺はカップの紅茶を飲む。


「ありがとう。おいしいよ」

「ふふ。ありがとうございます!」


 (こんなことしてる場合じゃないのに……)


 ニコニコ笑うアリシアを見て、俺の緊張が解けていく。

 紅茶のリラックス効果か、なんだか暖かい気持ちになってくる。


「……やっぱり、あそこに行くしかないか」

「解決策があるんですね! さすがシドさん……っ!」


 アリシアが手を叩いて喜ぶ。 

 もともとこうなったのはアリシアが俺を推薦したせいだが、こんなに笑顔で喜ばれると俺は悪い気はしなかった。


「それで、あそこって言うのはどこですか?」


 キラキラした目で、俺の顔を覗き込むアリシア。

 俺が言う「あそこ」とは――ダンジョンのことだ。

 実は、この学院の地下にダンジョンがある。

 原作では、物語の後半に入ることになるダンジョンだ。

 そして学院ダンジョンには、主人公専用装備である【聖なる杖】が眠っている。

 聖なる杖は、主人公――つまり聖女であるアリシアだけが装備できる。

 味方全体のステータスを強化できる【軍勢魔法】の効果がついている。

 これがかなりのチート効果で、レベルが低くても聖なる杖のバフがあれば、終盤の敵相手でも無双できる。

 ただし、問題は――ダンジョンボスのアンデット・キングを倒さないといけないことだ。  

 強さはAランクであり、厄介なゾンビ系のモンスター。

 だが……勝てないことはない。

 策はちゃんとある。

 あるアイテムを「大量」に使えば――


「アリシア。この学院の地下に、ダンジョンがある。そこを攻略したいと思う」

「えっ? 学院の下にダンジョンが……?!」


 アリシアがひどく驚く。

 無理もない反応だ。

 原作のシナリオでは、後半になってやっと入れるダンジョンだからだ。

 この学院は、もともとは初代聖女【ジャンヌ・ダルク】が設立した学校。

 魔王が復活した時に備えて、聖女の資質がある者に武器を残した。

 それが聖なる杖と言うわけだ。

 この情報は、ジャンヌを女神として祭る【聖女教会】の大司祭に教えてもらう。 

 しかもこの情報は、聖女教会に敵対する邪教徒たちを倒した報酬だ。

 だから物語の序盤では当然、アリシアも攻略対象たちも知らない。


「アリシア……結界魔法は使えるか?」

「使えます。持続時間は短いですが……」

「よかった。使えるならそれで十分だ」


 HPも防御力も低い俺たちがアンデット・キングの攻撃を受ければ、100%ワンパンであの世逝きだ。

 だから俺の策には、結界魔法は必須だ。


「あと、貯金はいくらある?」

「貯金ですか……?」


 アリシアが怪訝な顔をする。


「ああ。実はアイテムをたくさん買う必要があって」

「何を買うのです?」

「聖水だ」


 アンデット・キングはゾンビ系のモンスター。

 弱点は聖属性魔法だ。

 アリシアは聖属性魔法を使えるが、まだアンデット・キングを仕留められる威力がない。

 要するに、火力不足だ。

 だが、聖水をアンデット・キングにぶっかければ、ダメージを加算できる。


 (なるべく多く聖水を買いたい。何が起こるかわからないからな……)


 他のモンスターとのエンカウントを避けつつ、なんとかアンデット・キングのところまでたどり着く。

 もしアンデット・キングを倒せれば、経験値も大量に入って一気にレベルアップもできる。


「二人のお金で、できるだけ多く聖水を買おう」

「わかりました……あたし、勝つためなら何でもします!」


 ふんすっと、アリシアがガッツポーズする。


「うん。絶対に勝とう」


 正直、勝てる可能性は低いと言わざるを得ない。

 冷静に考えれば、準男爵令息が王子殿下に勝てるわけがない。

 貴族の爵位は魔力の強さで決まっているからだ。

 もし賭けをするなら、誰でもクロード王子に賭けるだろう。

 しかし、薄い可能性だけど勝機はある。


「やるだけやってみよう……っ!」

「はい! シドさん! 2人の共同作業、すっごおおおく嬉しいです! 幸せです!」


 アリシアがぴょんぴょん跳ねる。


「共同作業……?」


 この絶望的状況に、ふさわしくない言葉だ。

 まるで恋人同士の男女が使うような言葉だし……


「はい! シドさんとあたしの、初めての共同作業です! 一緒にバカ王子をボコりましょう!」


 「初めての」をやたら強調して言うアリシア。


 (いろいろ違和感があるけど、まあいいか……)


「おう……!」


 ★


【アリシア視点】

 

 あたしの部屋で「作戦会議」をした後、シドさんは男子寮へ帰った。

 あたしは泊っていくように言ったんだけど、シドさんは顔を真っ赤にして断った。


「シドさんとなら同じベッドで寝てもいいのに……」


 もちろんそれ以上のことも、あたしはとっくにOKだ。


 (シドさんと、初めての共同作業だ……)


 シドさんと2人でダンジョン攻略できるなんて、すごく嬉しい。

 もし死ぬことになったとしても、シドさんと死ねるなら本望だ。


「作戦会議のシドさん……本当にカッコよかったな」


 学院の地下にダンジョンがあることも、アンデット・キングに聖水が有効なことも、シドさんは知っていた。

 シドさんはきっと、実力を隠していたに違いない。

 人知れず、影で努力するタイプだ。


 (あたしの見込んだ通りだ……)


 ファルネーゼ様に言い返す姿を見た時、「この人には何かある!」とピンっと来た。

 普通の人にはない、特別なものを持っていると――

 まるで別の世界から来た人のような気がする……


「さすがにそれはないか」


 うん。まさか異世界から来たなんて、そんなことないよね……っ!

 あり得ない、あり得ない。


 (そろそろお風呂入ろう……)


 バカ王子に触れられたところをよく洗わないといけない。


 (すっごく気持ち悪かった……)


 シドさん以外の男性に触れられるなんて、絶対に無理。

 バカ王子の「汚れ」をお風呂でしっかり落とさなくちゃ……っ!


「……シドさん。あたしが命に代えても、勝利に導きます!」


 シドさんへの忠誠を、あたしは固く誓うのだった。

 


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