第19話 王族に完勝してしまう
「ファイアボール……っ! ファイアボール!」
フェルド魔術師長が、ファイアボールを連打する。
――どおおおおおおんっ!
(やっぱり全然効いてないな……)
俺は何度も炎に包まれるが、ノーダメージで。
「すまん。もう【不死鳥の杖】を使ってくれないか?」
俺はフェルド魔術師長が地面に突き刺した、不死鳥の杖を指さす。
不死鳥の杖を使えば、フェルド魔術師長は最強の炎属性魔法【ヘルファイア】が使える。
Sランクモンスターでも、瞬殺できる攻撃魔法だ。
このゲームの炎属性魔法では、一番火力がある。
だが、ヘルファイアは不死鳥の杖を装備しないと使えないわけで。
それに、別の問題もあって――
「ぐ……き、貴様の指図など受けない!」
「いや、こっちも反撃するからさ。不死鳥の杖を装備してもらわないと……」
不死鳥の杖は、魔法防御力も強化する。
アリシアの【聖なる杖】のバフ効果で、俺はチート級の魔力を得た。
(お前が死ぬからだよ……! いいから早く装備してくれ~~っ!)
いくら決闘とは言え、相手を殺すのは良くない。
一応、決闘相手を殺しても罪に問われないが、後味が悪い。
「お、俺が準男爵ごときの命令を受けるか! 俺は公爵だ! 貴様の魔法で死ぬわけがないだろう……っ!」
頑なに俺の助言を受け入れないフェルド魔術師長。
(うーむ。どうしたものか……)
「シドさん。フェルドさんが装備を拒否しています。さっさとヤッちゃいましょう♪」
ニコニコ笑うアリシア。
「……それもそうだな。魔力を少しくれ。本当に、少しでいいから」
今よりほんの少し、魔力をもらえればフェルド魔術師長を倒せる。
本当に、今より少しだけ強化されたらいい。
「わかりました。――魔力供給!」
アリシアが聖なる杖を軽く振ると、俺は青白い光に包まれる。
「はい! すこーしだけ、魔力を足しておきました♪」
「ありがとな」
「クソ! 俺を無視するな……っ! ファイアボール! ファイアボール!」
どんどんファイアボールが俺に当たりまくるが……やっぱり全然効かない。
俺はフェルドに近づいていく。
「く、来るな! 来るな……っ!」
ファイアボールを撃ちまくるフェルド魔術師長。
(早く不死鳥の杖を使ってくれ~~っ!)
決闘相手は公爵と王族だ。
いくら生死を賭けた決闘であるとはいえ、あまりお偉いさんをボコりすぎるとマズイ。
あとで俺の実家に、迷惑がかかるかもしれない。
最近知ったのだが、シドくんには妹がいるみたいだ。
俺がクロード王子たちを一方的にボコれば、弱小貴族のグランディ家は潰されるかも……
「ギリギリの戦いをして、ラッキーで勝てた」
これが俺の理想なわけだが――
「くう~~…っ! し、仕方ない……。準男爵にコイツを使うのはムカつくが」
フェルド魔術師長が、不死鳥の杖を握る。
(やった……! これでギリギリの戦いができる!)
不死鳥の杖の力で、フェルド魔術師長の魔力が上がる。
それで「ギリギリの戦い」ができる……!
「死ね! ヘルファイア……!」
最強の炎属性魔法――ヘルファイアが放たれる。
黒い巨大な炎。
不死鳥の杖から、俺に向かって真っ直ぐ。
(さすがに手で防ぐか……)
これまでのファイアボールみたいに、ノーガードはまずいだろう。
俺が右手で顔を覆うと、
――しゅん。
ヘルファイアが、消えた……!?
「な……っ! 俺のヘルファイアが、跡形もなく……」
フェルド魔術師長が驚く。
(これはいったい……?)
そして消えたと同時に――
ヘルファイアが、俺の左手から……出てきた!
「な、な、な、なんで……? あああああああああああああああああああ!」
直撃する、ヘルファイア。
フェルド魔術師長が、吹っ飛んでいく。
宙に舞って、落ちる。
「がはああああぁ……」
【噓でしょ……! フェルド様が負けるなんて……】
【あり得ない、絶対にあり得ないだろ……】
【あたしのフェルド様があああああああぁ! グランディ死ねえええええっ!】
フェルドファンの令嬢から、悲鳴が上がる。
「いったいどうして……?」
俺自身もわからない。
突然、ヘルファイアが俺の手から……?
「上手くいきました!」
アリシアが喜びの声を上げる。
「……? まさか、魔法反射を付与した?」
「さすがシドさんです! あと、威力を2倍にする【倍化】も付与しちゃいましたー!」
「ま、マジかよ……」
俺はフェルド魔術師長に駆け寄る。無事を確かめるために。
「あうぅ……」
立派な魔術師の服はボロボロ。
口をパクパクさせて、気絶している……
(よかった。なんとか生きてるみたいだ)
準男爵令息が、公爵令息を決闘で殺害――なんてことになったらヤバかった。
【グランディのクソ野郎~~っ!】
全学院生から、罵倒される俺。
魔術師長に勝利したのに、まったく褒められていないわけだが……
モブがイケメンをぶっ飛ばしたのだから、しょうがないか。
「!! シドさん! 危ない……っ!」
アリシアが叫ぶ。
「死ね。グランディ」
ユリウス騎士団長が、俺の背後に回る。
【王者の剣】を振り下ろす――が。
――バキンっ!
このゲーム最強の剣が、折れた。
しかも、俺の左手で。
「わ、わ……我が公爵家に代々伝わる剣が……」
と、絶望するユリウス騎士団長に、
(今がチャンスだ……!)
俺は首筋に、軽く手刀を喰らわす。
——ポンっ。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
女の子みたいに叫ぶ、ユリウス騎士団長。
(あれ? すげえ軽くやったはずなのに……)
「がは……」
ユリウス騎士団長は、倒れた。
(さすがに死んでないよな……?)
俺はユリウス騎士団長を覗き込む。
「ひゅーひゅー……!」
うん。呼吸はあるようだ。
ギリギリ生きているらしい。
【きゃあああああ! ユリウス様あああああぁ!!】
【ユリウス様を返してえええ!】
【グランディ! 殺してやるわ……っ!】
ユリウス騎士団長のファンが、悲鳴を上げる。
そして、俺への罵声の数々。
(完全に悪役になってしまった……!)
「グランディ……貴様。よくもわたしの親友を……」
クロード王子が、右手を俺に向ける。
「ライトニングフレア……っ!」
ライトニングフレア――勇者の血を引く王家の者だけが使える、雷属性魔法。
ゲーム本編でも、ボス戦でよく使う魔法だ。
威力が高いし、攻撃範囲も広い。
「はっはっは……! 逃げられんぞ! グランディ!」
鋭い雷撃が俺に迫る。
(ヤバい……これは、アリシアも巻き込まれるぞ!)
俺はアリシアのほうへ走る。
代わりに俺が被弾すれば……!
「……本当に優しいんですね。シドさん。大好きです」
(え……っ?)
ぼぞっと、アリシアが言うと、
「……魔力吸収」
――しゅん。
ライトニングフレアが消える。
(よし……うまく行った!)
「ど、どうしたんだ……っ?」
「ふふ。殿下の魔力を吸収しました。これで魔法はもう使えません」
アリシアが言う。
「なに……?!」
「それから、殿下の魔力をシドさんに与えます」
緑色の光に、包まれる俺。
「では、シドさん。ライトニングフレアを使ってみてください」
「でもなあ……」
使ってしまうと、クロード王子に完勝してしまう。
「シドさん……ちゃんとトドメを刺さないと!」
(トドメって……)
「ライトニングフレア! ライトニングフレア! クソ! 魔法が出ない!」
クロード王子は魔法を発動しようとするが、全然発動しない。
「――グランディ殿。我が息子の負けだ。もう許してもらえないか」
「あなたは……!?」
観戦に来ていた国王陛下が、やって来る。
「力の差は歴然。クロードは敗北した。審判よ。グランディ殿の勝利を宣言せよ」
「父上! わたしは負けていない――」
「愚か者! どう見てもお前の負けだ! 黙っておれ!」
「……勝者、グランディ男爵令息!」
「……いやあああああああああああああああああああああああああ!!」
ファルネーゼが叫んだ。
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