第18話 主人公チートが強すぎるんだが

「はっはっは……っ! グランディ。とうとうこの日が来てしまったな! お前がゴミのように敗北する日だ……っ!」


 高笑いするクロード王子。

 ここは第3教練場。

 学院の放課後、学院生と教員たちが集まった。


【グランディ! さっさと死ね!】

【ボコられるの楽しみすぎる~~っ!】

【ゴミ・クズ・カス!】


 俺とアリシアを罵倒しまくる学院生たち。

 完全なアウェイだ……

 誰一人、俺たちを応援していないわけで。

 相手はクロード王子、フェルド魔術師長、ユリウス騎士団長の3人。

 対して、こちらは俺とアリシアの2人だ。


「グランディ。今、ここで土下座しろ。土下座すれば、許してやってもいいぞ」

「シドさん……」


 アリシアが心配そうに俺を見る。

 別に俺は勝っても負けてもどちらでもいい。

 ただ――普通にモブとしての人生を送りたいだけだ。

 だが……いろいろあって負けるわけにいかなくなった。

 それはもちろん――


「グランディ! 早く殿下に負けなさいよね! あたしの足をぺろぺろするの…っ!」


 ファルネーゼが俺に向かって叫ぶ。


 (あいつ。【ぺろぺろ】とか自分で言って、恥ずかしくないのか……?)


 どれだけ自分の足を舐めてほしいのか。


【グランディ! ファルネーゼ様の足をちゃんと舐めろよ!】

【そうよ! あたしもファルネーゼの足舐めたいわ!】

【すげえ羨ましい……!】


 この学院の貴族は、変態しかいなのか……


 (はあ……)


 俺はため息をついた。


「シドさん! 頑張りましょうね!」


 ぎゅっと強く、アリシアが俺の手を握る。

 弾けるような、いい笑顔で。

 まるでこれから楽しいことでもするような――


「では……クロード殿下、対、グランディ準男爵令息の決闘を始めます――」


 審判を務める教員が、右手を振り上げる。


「グランディ。手加減してやるよ……」


 フェルド魔術師長が、【不死鳥の杖】を取り出す。

 歴代の学院魔術師長に与えられる、魔力を増大させる魔道具だ。


「ふ……っ! グランディ。瞬殺する」


 ユリウス騎士団長が、【王者の剣】を鞘から抜く。


「クロード。お前は何もしなくていい。俺とユリウスがいれば、グランディごとき簡単に倒せる」


 フェルドが俺を鼻で笑いながら言う。


「フェルドの言う通りだ。わざわざ王族のクロードが出なくても大丈夫だ」


 メガネを上げながら、クールに言うユリウス。


「そうだな。2人に任せよう」


 クロード王子は腕を組んで、後ろに下がる。


「――決闘、開始!」


 決闘がスタートした。


「ふふ……グランディ。かかってこいよ! 最初の一発ぐらい、殴らせてやるよ……っ!」


 フェルド魔術師長が、俺をあざ笑う。

 それから不死鳥の杖を、地面に突き刺した。


 (えらく余裕があるんだな……)


「よし……あれを使うか」

「はい……! シドさん!」


 アリシアはアイテムボックスから、【聖なる杖】を取り出す。


「はっはっは……! なんだそりゃ……? どこの安物の杖だ? そんなもので俺に勝てるとでも?」


 聖なる杖を見て、高笑いするフェルド。


 (そうか! クロードたちは聖なる杖を知らないんだ……)


 聖なる杖は、シナリオの終盤で手に入る、主人公専用武器。

 だからクロードたちは、聖なる杖の存在さえ知らないわけで。


「いいのか? 不死鳥の杖を持たなくて?」


 俺は一応、フェルド魔術師長に聞いてみる。

 不死鳥の杖は、フェルド魔術師長の専用装備。

 装備すれば、魔法攻撃力と魔法防御力を強化できる。

 もちろん、聖なる杖の魔力強化効果には全然及ばないが……


「はあ? 準男爵ごとき雑魚に、杖の強化なんて要らねえんだよ!」


 アリシアは主人公だ。

 アリシアはプレイヤーから、「公式チート」と呼ばれる。

 それは、聖なる杖を装備できるのが、アリシアしかいないからだ。

 聖なる杖を装備したアリシアは、ラスボス以外はワンパンで倒すほど強化される。

 しかも、アリシアだけでなく、味方全員が一気に強化されるのだ。

 事実上、聖なる杖をゲットした時点で、このゲームは「終了」する……


「そうか……。本当にいいんだな?」


 最後に、俺はもう一度、フェルド魔術師長に問う。


「見苦しいぞ! グランディ! さっさとかかってこい……っ!」


 フェルド魔術師長はキレる。


 (あまりやりすぎると、俺がいじめるみたいになるし……)


 聖なる杖の力を一度も試していないから、かなり手加減しないと――

 でも手加減って、どうやってやれば……?


「……チっ! もう待てねえ! 死ね! グランディ!」


 俺がいろいろ考えていると、痺れを切らしたフェルド魔術師長が、右手を掲げる。


「焼けろ。ファイアボール!!」


 フェルド魔術師長の右手から、大きな火の玉が放たれる。

 フェルド魔術師長は、このゲームでアリシアの次に魔力が多い。

 魔法の威力は、使い手が有する魔力の量に比例する。

 実際、フェルド魔術師長はゲームでもボス相手に「ダメージソース」となるキャラ。

 迫り来るファイアボール。


「身体強化――【エンフォース】」


 アリシアが俺に身体強化魔法をかけると……


 ――どおおおおおおんっ!


 ファイアボールが俺に直撃する。

 激しい炎に包まれる俺。


「ぎゃははは……! これで俺の勝ちだァ!!」


 だがしかし――


 (!? 全然、熱くない……!)


 痛みさえまったく感じないから、たぶんノーダメージということだろう。ゲーム的に。


 白い煙が少しずつ消えていくと――


「……なっ?! む、無傷だと……?」


 フェルド魔術師長が、驚きの声を上げる。

 俺も驚いた。

 ノーダメージどころか、着ている服さえ燃えてない。

 服にも、身体強化の効果が及んでいるのだろう。


 (さすが公式チートだ……っ!)


【ウソだろ……ノーダメージかよ?】

【あり得ないわ……!】

【準男爵令息のはずなのに?!】


 この世界の爵位は、魔力の強い順になっている。

 準男爵は、最底辺の爵位だ。

 観客の学院生たちが、驚くのも無理はない。


 (どんだけチートなんだよ。主人公……!)


「よかったです……! 全然効いてないみたいで!」


 アリシアが喜ぶ。


「ありがとう。アリシアのおかげだよ」


 実際、主人公チートの力だしな。


「あ、あり得ない……俺の魔法が効かないなんて……」


 フェルド魔術師長は、顔が青ざめている。


「ふふ。じゃあ、シドさん。反撃しちゃいましょうか?」


 アリシアがニコリと笑った。


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