第26話 ファルネーゼ、メイドになる

「そろそろ学園祭だな……」


 授業後、アルノルトが俺に話しかけてきた。

 アルノルトは、親友(設定の)キャラだ。


 (学園祭イベントか……)

 学園祭イベント――ルーナ・クロニクルでは、かなり重要なイベントだ。


「で、俺たちは何をする?」

「そうだな……」


 学園祭で店をやれば、金を稼げる。

 最底辺貴族のグランディ準男爵家は――当然貧乏だ。

 領地にはまだ妹がいて、学院の学費を稼ぐ必要がある……らしい。

 グランディ家からの手紙に、そんなことが書いてあった。


 (金を稼がないといけないな……)


「……あれをやるか」

「あれって何だよ?」


 アルノルトは、不安そうな顔で俺に聞く。


「ふっふっふ。いいものだよ」

「なんだかヤバそうだな……」

 

 ★


「なによ……っ! この格好は……っ!」

「ふふ。シドさん! わたしかわいいですか?」


 学園祭当日――

 俺の学園祭の出し物は、メイド喫茶だ!

 教室を借りて、そこでメイド喫茶を開くことに。


「ファルネーゼ様もアリシアちゃんも、すげえかわいいな……っ!」


 アルノルトが言う。


「そうだな。アリシアはかわいいと思う」

「ちょ……っ! あたしはかわいくないわけ!」


 ファルネーゼがキレてくる。


 ファルネーゼもアリシアも、フリフリのメイド服を着ている。

 ファルネーゼはめっちゃくちゃ嫌がっていたが、アリシアはノリノリだ。


「ここがグランディのメイド喫茶ね」


 令嬢が3人、店に入ってきた。


「きゃははは! ファルネーゼ様、惨めねえwww」

「準男爵令息の下僕よ、ゲ・ボ・ク!」

「下僕落ちざまぁですわw」

 

 この女たちは……たしかファルネーゼの(元)取り巻きの令嬢たちだ。

 ファルネーゼが俺との賭けに負けて、俺の下僕になったから、手のひらをクルッと返したようで。


「あんたたち、何しにきたの?」


 ファルネーゼは毅然とした態度だ。

 落ちぶれても、さすがは侯爵令嬢。


 (めんどくさいから関わらないでおこう……)


「……ここがグランディさんのお店ですか」


 (元)取り巻きたちの後ろから、女の子が入ってきた。

 きれいな金髪の女の子だ。

 かなり身分の高そうな令嬢に見える。


 (どこかで見たことあるような……?)


「ファルネーゼ様がぁ、どこまで堕ちたのか見に来たんですぅぅw」

 

 元取り巻きの1人が、ファルネーゼを挑発する。


「はぁ……あんたたち、本当に暇人ね。ゴミ同士固まってどっか行きなさい」

「な、なんですってぇ……っ!」


 睨み合う元取り巻きたちと、ファルネーゼだが、


「騒がしいですね。わたしはグランディさんとお話したいので、あなたたちは出て行ってくださるかしら?」


 金髪の女の子が、にこりと笑いながら言う。

 俺に用があるらしいが。


「何よアンタ! アンタが出て行きなさいよ!」


 元取り巻きたちが、金髪の女の子が取り囲んで——


「も、も、もしかして……」


 ファルネーゼが、ワナワナと身体を振るわせる。

 気の強いファルネーゼが怯えるとは……


「あたしたちが先に来たのよ! アンタが出て行きなさい!」

「嫌だと言ったら?」

「力づくでやるわ」


 元取り巻きの一人がパチンと指を鳴らすと、獣人の男が入ってくる。

 おそらく元取り巻きの奴隷だろう。


「や、やめなさい。この方は——」


 ファルネーゼの顔が、どんどん青ざめていく。


「あら。ファルネーゼさん。お久しぶりね」


 元取り巻きを無視して、金髪の女の子がファルネーゼに挨拶する。

 どうやら2人は知り合いみたいだ。


「はい……シャルロッテ殿下」

「殿下、なんてやめてくださいよ。わたしとファルネーゼさんの仲じゃないですか。シャルロッテ、でいいですよ!」


 (シャルロッテ殿下……そっか。クロード王子の妹か)


 たしか王様の近くにいたっけ……

 あまり興味がないから、すっかり忘れていた。


「はぁ? シャルロッテ殿下が、こんなところに来るわけないじゃない!」

「バカ……! シャルロッテ殿下になんて口を……」

「もういいわ。ファルネーゼと一緒にやってしまいなさい」

「うがぁぁ!」


 獣人の男がシャルロッテ殿下に襲いかかる。


 学園から借りている教室で喧嘩騒ぎを起こせば、間違いなくメイド喫茶は閉鎖。

 さらに王族を傷つけたとなれば、退学とか重い処分を受けるだろう。

 俺はメイド喫茶の責任者だから絶対に処分されるな……


 (仕方ない。ここは助かけるか)


「やめろ」


 俺は獣人の男の腕を掴んだ。

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