第5話 なぜかクロード王子が来た
俺がクッキーを手にした時——
——コンコン!
ドアを叩く音がする。
「いったい誰かしら……?」
ガチャ……っ!
アリシアが部屋のドアを開けた。
「アリシア……大丈夫か?」
クロード王子が入って来た。
「……クロード殿下。どうしたんですか?」
突然の訪問に、アリシアは目を丸くしている。
「いや、その……わたしもグランディに礼をしたくてな。ケーキを持って来たのだ。ははは……」
クロード王子の手には、ケーキがあった。
「シドさんにお礼……ですか?」
アリシアは怪訝な顔をする。
「わたしの大切なアリシアを助けてくれたのだ。だからグランディにはちゃんと礼をせねばと思ってな……」
「そうですか……」
納得しない顔をするアリシア。
そんなアリシアの顔を見て、クロード王子が焦っている。
(いったいなんだこれは……?)
原作にこんなイベントはなかった。
いや、似たようなイベントはある。
アリシアが熱で寝込んだ時に、攻略対象たちが看病に来るイベントがあったっけ……
とりあえず、ヒロインの部屋に来るのはそれぐらいだ。
「グランディ。改めて礼を言おう。アリシアを助けてくれて感謝する」
クロード王子は頭を下げる。
「いえいえ。たいしたことは……」
「謙虚なヤツだな。おっ! このクッキーは……?」
クロード王子がクッキーを触った。
「あっ! それはシドさんのために作ったクッキーで」
「アリシアの手作りクッキーか! 美味しそうだな」
クロード王子はさりげなく、俺とアリシアの間に立つ。
まるで俺をアリシアから遮るみたいに。
クロード王子がクッキーを手に取る。
「殿下。そのクッキーはシドさんのために作ったものです! ですからクッキーを置いて——」
「かなり美味そうだ。パクっ!」
クロード王子は、クッキーを食べた。
「で、殿下……っ!」
アリシアがとても驚く。
「甘いクッキーだな……アリシアはお菓子作りが上手いよ。ははは…………」
クロード殿下の目が虚になる。
身体がふらつき始めて、椅子に座った。
「な、なんだこれは……? 急に眠くなってきたぞ。うううう……スースー」
クロードは座ったまま眠り始めた。
(急に爆睡した……? )
「大丈夫ですか? クロード殿下」
俺はクロードの肩を揺らすが、クロードの身体がピクリとも動かない。
「何が起こったんだ……?」
さっきまで普通に起きていた人間が、急に寝てしまうなんて異常だ。
「……治癒魔法を使いますね」
アリシアはクロードの頭に手を当てて、治癒魔法の詠唱をする。
「…………俺はいったい何を?」
「お疲れのようですね。今日はもう休まれた方が」
「そうだな。すまない……」
クロードの足はふらついている。
「俺、送って行きましょうか?」
俺はクロードに肩を貸す。
「グランディ。ありがとう」
俺はクロードを肩に抱いて、アリシアの部屋を出る。
「…………ちっ!」
(……!)
部屋の中から声が聞こえたような。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます