第6話 アイツを絶対に許さない……! ファルネーゼ視点

【ファルネーゼ視点】


「シド・フォン・グランディ……絶対に許さないわ」


 あたしはファルネーゼ・フォン・ハンシュタイン。

 侯爵令嬢だ。

 社交パーティーの後、あたしは寮の部屋で怒りに震えていた。


「アイツを退学に追い込んでやるわ……っ!」


 あたしを「ゴミ」だと言った。

 許せるわけがない。


 ……初めてだった。

 あたしに真剣に刃向かってきたのは。

 上の爵位に公爵があるけど、公爵は王族の親戚がなれる。

 つまり、王族を除く貴族の中では最高位だ。

 小さい頃からあたしは、人を従えていた。

 領土は貴族の中で一番大きいし、屋敷はすごく広いし、使用人はたくさんいる。

 エルフや獣人の奴隷だって持っている。

 それに、あたしはすごくかわいい。

 間違いなくかわいい美少女。

 しかも、成績は常にトップだった。

 誰もがあたしを称賛してきた。


 なのに――


 「準男爵ごときがあたしに逆らうなんて……」


 貴族の底辺のくせに……っ! 


 (あたしを罵ったことを、後悔させてやるわ)


「紅茶! 早くしなさいっ!」

「はい……っ! お嬢様!」


 獣人奴隷のセリスを呼びつける。


「まったくグズな犬ね……さっさとしなさいよ!」

「す、すみません……」


 セリスはあたしが子どもの頃から専属の奴隷だ。

 白い犬耳と、もふもふの尻尾がスカートから覗ける。

 見た目は(あたしほどじゃないけど)かわいい。

 だけど、犬は厳しくしつけないといけない。


「ふう……アンタは昔からバカなんだから」

「はい……お嬢様……」


 しおらしく、頭を下げるセリス。

 あたしが長い時間をかけて「わからせて」きたから、セリスは従順だ。

 あたしの命令なら、どんなことでもする。

 ウンコを喰えと言えば、たぶん喰うだろう。


 (あ、いいこと思いついた……っ!)


 震えながら怯えるセリスを見て、あたしは気づいた。


「グランディをあたしの犬にすればいいんだわ」


 ただ退学にするだけじゃ、気が済まない。

 グランディを……あたしを犬にしよう。

 あたしの奴隷にするのだ。


「紅茶がぬるい……っ!」

「きゃああああっ! 熱い!」


 セリスにカップを投げつける。 

 熱い紅茶をセリスにぶちまけてやった。

 いつもならセリスをいじめたらスッキリするのに、心が晴れない。


 ――今までこんなことなかった。

 みんなあたしに服従してきた。

 アイツだけが、あたしにキレてきた。


 (誰かにキレれたのは初めてだ……)


 お父様にもお母様にも、叱られたことなかった。

 生まれて初めての経験……

 ちょっとドキドキしたりなんて――あり得ない。


 (絶対に許さないんだからね! グランディ……っ!)



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