第23話 首輪をつけられるファルネーゼ ファルネーゼ視点
【ファルネーゼ視点】
「あたしが……グランディの下僕?」
あたしは寮のベッドで寝込んでいた。
決闘のあと、あたしは国王陛下から「グランディの下僕」になるよう命じられた。
下僕――つまり、グランディの命令には絶対服従。
侯爵令嬢のあたしが、貴族最底辺の準男爵令息に、命令される……
「ファルネーゼお嬢様。薬草茶をお持ちしました」
薬草で作ったお茶を、メイドのセリスが持ってきてくれた。
「ふん……っ! そんなもの、要らないわよ!」
あたしは布団を頭から被る。
「しかし、薬草茶をご所望になられたのは、ファルネーゼお嬢様ですよ?」
「……つっ! うるっさいわね……っ! もう飲みたくないのよっ!」
「はあ……そうですか……。とりあえず、テーブルに置いておきますね」
「な、なによ……っ! アンタまでグランディみたいに偉そうに……っ!」
「別に偉そうでも何でもありません。わたくしはただ、仕事をしているだけです」
はあ……と、セリスは大きなため息をつく。
(メイドまであたしを舐め始めたわね……)
「お嬢様、早く起きてください。やることがあります」
「なによやることって……? 今日はあたしはずっと寝てるから……っ!」
「これです!」
セリスがあたしに見せたもの。
それは――鈴のついた、銀の首輪だった。
「く、首輪……? なにするつもりよ……? 頭おかしくなったの??」
「わたくしの頭は極めて正常です。今から、この首輪をお嬢様に装着します」
ばっと、セリスはベッドからあたしを引き剥がした。
「!! アンタ、メイドのくせになにを……」
「国王陛下のご命令です。この【下僕の首輪】を装着するのです」
「……う、ウソでしょ? 【下僕の首輪】って……奴隷がつけるものじゃない……。国王陛下がそんな酷い命令をするわけないじゃない……」
【下僕の首輪】――奴隷がつける魔道具。
装着すれば、契約魔法で【主人】と定めた者に逆らえなくなる。
【下僕】の意思とは関係なく、【主人】の命令にはどんなことでも強制的に従うことになる。
たとえば、【主人】が「死ね」と言えば、【下僕】は死ぬことになる。
もしもグランディが……えっちなことをあたしに命令すれば、それも……
(いや……そんなの、絶対に嫌……っ!!)
「ファルネーゼお嬢様、残念ながらウソではありません。ここに、国王陛下の勅令書があります」
セリスがあたしの目の前に、一枚の羊皮紙をつきつける。
「いやいや……そんなはずないわ。絶対にそんなはず……」
あたしは羊皮紙を手に取る。
(国王陛下の魔法印がついているわ……)
まぎれもなく、国王陛下の勅令書。
つまり、ここに書かれていることは、国王陛下直々の命令なわけで……
「ファルネーゼお嬢様、運命からは逃げられません。【下僕の首輪】をつけてください」
セリスはベッドに上がって、あたしに迫ってくる。
「いや……やめて……。グランディの下僕になるなんて……」
「……これは国王陛下のご命令です。それに、ファルネーゼお嬢様は【誓約】しました。【なんでもする】と……。貴族が【誓約】を破るつもりですか?」
「ぐぬぬ……っ! そ、そういうわけじゃないけど……」
たしかにあたしは、誓約した。
――「賭けに負けたら、なんでもする」と。
だからセリスの言っていることは、正論。
あたしは反論できない……
「でも……わざわざ【下僕の首輪】までつけることないじゃない? ちゃんとグランディの言うことは聞くから……」
「ダメです。勅令書にあります。【ファルネーゼが逃げないように、絶対に絶対に、この首輪をつけるべし!】だそうです。ふふ」
「……なんだかアンタ、楽しそうね」
「いえいえ、そんな滅相もございません。ファルネーゼお嬢様に首輪をつけるなんて、わたくしも心が痛みます……っ!」
と、セリスは神妙な顔をしつつも、目が明らかに笑っている。
あたしに【下僕の首輪】をつけることを、楽しんでいる……
「ウソね。本当は楽しんでるでしょ……っ!」
「本当にイヤなんですよ。今までわたくしをイジメていたファルネーゼお嬢様に犬の首輪をつけるなんて……もう、イヤでイヤでたまらないんですよおぉぉ……っ!」
「どう見ても楽しんでるでしょ……」
今までバカにされていた相手に首輪をつけるのは、やっぱりスカッとするみたいだ。
(セリスからしたら、きっと「ざまぁwww」って感じなのね……)
「さあ……ファルネーゼお嬢様。【下僕の首輪】をつけましょう……。うふふふ……」
「ちょっと! 笑ってるじゃない……。いや……待って! やめてえええええええっ!」
★
「ふふふ……ファルネーゼお嬢様、とっても似合ってますよ♡」
「ううう……なんであたしがこんな目に……」
あたしは鏡の前に立っていた。
銀色の首輪が、しっかりとあたしの首についている。
(これであたしはグランディの下僕なのね……イヤ! 絶対にイヤ!)
「明日からグランディ様の【下僕】として、ずっとグランディ様の側にいることになります」
「え……っ? アイツの側にいないといけないわけ?」
「だってファルネーゼお嬢様は、グランディ様の下僕ですもの。グランディ様の側にいないといけません」
「ずっと、グランディと、一緒にいる……」
想像すると、なんだか胸がドキドキしてきて――
「ファルネーゼお嬢様……?」
セリスがあたしの顔を覗き込んでくる。
「顔が赤いですよ? 熱でもあるのでしょうか……?」
「ち、違うわよ……っ!」
あたしの触れようとしたセリスの手を、振り払う。
「あ……! もしかして……なるほど。そういうことですか……」
セリスがニヤニヤしながら、あたしを見ている。
「な、なによ……その気色悪いニヤついた顔は……?」
「別に~~! なんでもありませんが」
「絶対になんかあるでしょ……っ! はっきり言いなさいよ!」
「……仕方ないですね。ファルネーゼお嬢様、グランディ様の【下僕】になれて、本当は嬉しいんじゃありませんか?」
「な、な、な……なにいってるのかしら……? あたしがクソグランディの【下僕】になりたいわけないじゃない……っ! ば、バカじゃないの……っ!」
あたしはつい叫んでしまう。
その姿を見たセリスは、もっとニヤニヤと笑ってくる。
「ふふ。じゃあ、そういうことにしておきましょう」
「あたしがグランディの【下僕】になりたいわけないじゃない……本当に本当に、あり得ないだからねっ!」
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