第24話 シャルロッテに呼び出される

「俺が外交官か……」


 あのクロード王子との決闘から3日後——

 国王から外交官を任されてしまう。

 俺は寮のベッドでゴロゴロしながら、

 

 (正直、めんどくさいわ……)


 モブの俺はモブらしく、あまり目立たないように生きたいわけで。

 それに原作に設定では、外交官をやるのは攻略対象のクロード王子だ。

 完全に攻略対象の役割を取ってしまっている……


 (あくまで怠惰に、まったりやっていきたい……)


 同じ準男爵の令嬢――いや、平民の女の子でいいから嫁さんを1人もらう。

 それから2人で、田舎の領地でスローライフを送りたい。

 これぞ、モブ人生だ。


 ――ガラっ!


「シドさん……っ! これを見てください……っ!」


 アリシアが俺の部屋に入って来る。


 (ていうか、部屋に鍵をかけていたはずなのに……?)


 しばらく寝ようと思って、部屋に鍵をかけていたのだが。


「アリシア……どうしたの?」

「シドさんが学院新聞に載っているんです」


 アリシアが学院新聞を俺に渡す。

 毎月発行されている学院新聞。

 今月の学院のニュースを伝える新聞だ。


「えーと……【準男爵令息のグランディが、イキりまくっていたクロード王子殿下に勝利!】って、おいおい……」


 王族相手に「イキりまくっていた」とか、書いちゃっていいのか……。


「あと、ここも読んでください……っ! すっごくおもしろいですよ!」


 アリシアが、新聞の裏面を指さす。


「なになに……【侯爵令嬢のファルネーゼ、グランディの下僕に決定! ざまぁwww】って……酷いな」

「あたし、めちゃくちゃ笑ってしまいましたよ!」

「そ、そうか……」


 学院新聞に【ざまぁwww】なんて書いて大丈夫なのか……

 この学院の新聞部が心配になるな。


「さすがにファルネーゼが可哀想というか……」

「えっ? 全然そんなことないですよ~~っ!」


 侯爵令嬢としてプライドの高いファルネーゼが、格下の準男爵令嬢の下僕になる。

 ファルネーゼにとって、これ以上の屈辱はないだろう。

 それにファルネーゼは悪役令嬢として、学院生のヘイトを稼ぎまくっていた。


 (周囲から【ざまぁwww】と思われるのも仕方ないか……)


「でも……ファルネーゼ様をシドさんの側に置くのはちょっと……」


 アリシアが不安そうな表情をする。


「たしかに、ファルネーゼがいつも近くにいるのは、めんどくさいかも……」


 いろいろ口うるさそうだしな、ファルネーゼ。


「いえ、そういう意味じゃなくて……」

「えっ? じゃあどういう意味――」


 アリシアの顔がなぜか赤くなって、


「と、とにかく! シドさんの側にいるのは、わたしですからね……っ!」


 ――コンコン。


 部屋のドアをノックする音がする。


「今度は誰だろう……?」


 俺がドアを開けると、


「お休み中、失礼します。グランディ様にお話しがあります……」


 ドアの外に立っていたのは、メイドさんだった。


「わたくしは、第1王女シャルロッテ様のメイド、アンナ・シャドウネスです」

「シャドウネス……」


 アンナ・シャドウネスは、第1王女のシャルロッテの腹心の部下だ。

 シャドウネスは、たしか王家に仕える暗殺者一族。

 そして第1王女シャルロッテは、クロード王子√で主人公アリシアに嫉妬するキャラだ。

 クロード王子はアリシアと婚約するが、2人の婚約に反対しまくるのがシャルロッテ。

 つまり、どちらかと言うと、原作でシャルロッテは「ヘイトキャラ」だ。


「明日、午後6時に王宮に来てください。姫様がグランディ様とお話したいそうです」


 (こんなイベント、原作にはなかったぞ……)


「……どんなお話ですか?」


 アンナはチラリと、アリシアのことを見て、


「ここでは話せません。姫様はグランディだけに直接、お話したいことがあるのです」


 つまり、アリシアがいるからここでは話せない、ということらしい。

 どうやら秘密の話があるみたいだ。


 (これは断れる雰囲気じゃないな……)


「……わかりました。行きましょう」

「ありがとうございます。明日、お迎えに行きます」


 アンナは、深々と俺に頭を下げた。


 (知らないうちに面倒事に巻き込まれたみたいだ……)


 ★


「来ていただいてありがとうございます。グランディさんとお会いできるの、すごおおおおおおおおおおおおく楽しみにしてました……っ!」


 俺はアンナに連れられて、王宮に連れて行かれた。

 第1王女シャルロッテ――原作では、主人公アリシアと攻略対象クロード王子の仲を邪魔するキャラだ。

 重度のブラコンで、アリシアに嫉妬しまくるわけだ。


「さあ……召し上がってください! グランディさん!」


 すげえ豪華か食事が並んでいる。


 (いったい俺みたいなモブに何の用だろう……?)


 ところで。


「はい! いただきますわ! シャルロッテ様……っ!」


 なぜかファルネーゼも着いてきてわけで。


「どうしてファルネーゼもいるんだよ……?」

「ファルネーゼ様は、グランディ様の【下僕】です。仕方なく連れてきました」


 アンナが淡々と答える。

 原作では、ファルネーゼはシャルロッテと仲がいい。

 一緒になってアリシアをいじめるキャラのはずだが――


「あ、この食事はグランディさんのために用意したものです。【下僕】の方は触れないでください」

「え……っ?」


 ファルネーゼが絶句する。


「でも……あたしは侯爵令嬢ですよ? 王族の方とも交流がありまして……」

「今はグランディさんの【下僕】さんでしょう? グランディさんの【おまけ】ですから、イヤイヤですがお呼びしたのです」

「そ、そんな……っ!」


 めちゃくちゃショックな顔をするファルネーゼ。

 泣きそうになっている……


 (ちょっとかわいそうかもしれない)


 原作のキャラ設定では、ファルネーゼは王族のシャルロッテと仲がいいのを自慢していた。

 自分のバックには第1王女のシャルロッテがついていると言って、イキりまくる。

 それでプレイヤーのヘイトを稼いでいたのだが……


 (完全に原作の設定が崩壊している……)


「下僕さんのことは置いておいて……実は今日、グランディさんを呼んだのは、グランディさんにわたしの味方になってほしいのです」

「味方……?」

「ええ。クロードお兄様がグランディさんに負けた今、王位継承者はわたしと、エドモント公爵の2人になりました」


 エドモント公爵――この乙女ゲームの黒幕キャラだ。

 裏で魔王と手を組み、王位を狙っているキャラだ。

 原作ではクロード√で、最後にラスボスとしてアリシアと対決するのだが……


「エドモント公爵は、冒険者ギルド【栄光の剣】を買収しました。これからエドモント公爵は、わたしに暗殺者を差し向けてくるでしょう。そこで――」


 ガタっと、シャルロッテは椅子から立ち上がる。


「圧倒的に不利な状況から、逆転勝利を収めたグランディさんの強さ……ぜひわたしの護衛になっていただきたいのです!」

「なるほど……」


 エドモント公爵は、Sランク冒険者ギルドを手に入れた。

 だから高ランクの冒険者を自分の好きなように操れる。


 (原作の展開に介入したくないな……)


「すみません。お断り――」

「ありがとうございます……っ! 引き受けてくださるなんて、さすがグランディさん!」

「いや、そうじゃなくて――」

「すっごおおおおく強いグランディさんに守ってもらえるなんて、あたしはとっても嬉しいですわ!」


 (こ、断れない……!)


「グランディ様、一緒に姫様を守りましょう。これからよろしくお願いします(もう諦めてください)」


 ポンっと、アンナが俺の肩を叩いた。


「グランディ、やったじゃない。シャルロッテ様の護衛になれたのよ!」


 ファルネーゼも喜ぶ。


 (外堀を埋められてしまった……)



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