第16話 わたしは完璧な王子なのに……! クロード視点
【クロード王子視点】
「父上……いえ、国王陛下。ご機嫌うるわしく」
ここは王宮の、謁見の間だ。
今日、わたしは父上である国王陛下に呼び出された。
なぜか父上の表情が険しい……
(何もやらかしていないはずだが……)
「クロード、我が息子よ。今日、お前を呼びしたのは、他でもない。例の【決闘】の件だ」
ギロリと、父上がわたしを睨む。
(えっ? もしかして怒っている……?)
「……グランディとの決闘のこと、ですか?」
「そうだ。なぜ準男爵令息ごときと、決闘などするのだ?」
「それは……グランディが身の程知らずにも、【統率者】に立候補したからで――」
一瞬、間があった後……
「バッカもおおおおおおおおんっ!」
父上が王笏を床に投げつけた。
「ひい……!」
ついビビってしまうわたし。
父上はキレ出したら止まらないのだ。
「……我が王家の家訓はなんだ?」
「えっ? 【王族たる者、常に強者であれ】ですか……?」
「違う! それじゃないほうだ!」
(それ以外に家訓ってなかったような……?)
ときどき父上は理不尽だ。
父上は弱小国であったこの国を建て直した。
自分たちと同じ弱小国に侵攻して、海外領土を増やした。
その好戦的な性格から、【獅子王】の異名を持つ。
だから昔からいる重臣たちも、父上には誰も逆らえない。
(マジで何かわからないだが……)
父上の言う「王家の家訓」は、次々新しいものが作られる。
だから数が多すぎて覚えられないのだ。
「……わ、わかりません」
「バッカもおおおおおおおおおおおおおんっ!」
「ひい……っ!」
父上がまたブチキレる。
「はあはあ……このバカ息子が。本当にわからぬのか?」
「はい。わかりません……」
「それは……【王族たる者、戦わずして勝つ】だ!」
(そんな家訓、聞いたことないのだが……)
父上の中で、また新しい家訓が誕生したらしい。
「戦わずして勝つのが、戦争の基本だ。そんなこともわからぬとは……この無能王子がぁ!」
(クソ……っ! わたしは完璧な王子のはずなのに……!)
グランディのせいで、わたしが父上にキレられるとは――
なんと理不尽なのか!
「す、すみません……父上」
王子のわたしは、頭を下げる。
重臣たちもいる前で、屈辱的すぎる……
だが、いずれわたしが王座につく。
わたしは王位継承権第1位だ。
他に将来の王座を脅かす者はいない。
我が妹のシャルロッテは王位継承権第2位だが、本人は女王になるつもりがない。
「王座はお兄様に譲りますから」
いつもそう言ってくれている。
(うんうん。なんて良い妹なんだ……っ!)
それに比べて我が父上は――
「おい! 聞いておるのか! 無能王子!」
さっきからわたしを「無能王子」と連呼する父上。
周りの重臣たちも呆れている……
(ふう。我が父上ながら、息子の有能さに気づかないとは愚かな……)
わたしは父上にバレないように、心の中でため息をつく。
「はい……父上」
「当然、決闘に勝つことはできるのだろうな?」
「もちろんです」
わたしは父上に即答する。
これは確信を持って言える。
わたしは――グランディに勝つ。
ゆるぎない真実。絶対の自信。
どれだけ父上に問い詰められても、決して崩れることはない。
「えらい自信ではないか。さて、その根拠はどこにある?」
「根拠、ですか……?」
父上が意地悪な笑みを浮かべる。
(まったく醜悪な国王だ……)
わざわざ【わかりきっていること】を尋ねてくるなど――父上も性格が悪い。
「さあ、お前が準男爵令息に勝てる、という根拠は何だ?」
「それは……わたしが、王子だからです!」
自分が【王子】であること。これ以外の根拠がどこにある?
正しすぎる、完璧な回答だ。
だがしかし。
「バッカもおおおおおおおおおおんっ!!」
「?!」
父上の怒りが爆発する。
しかも、さっきより激しく。
顔が鬼のように真っ赤になって……!
(ど、どうしてだ……?)
「お前が【王子】であることなど、お前が勝つ根拠にならん!」
「しかし……わたしは王族です。魔力は準男爵令息の数倍上……負けることなどあるはずは――」
はあ、やれやれ……と、父上が呆れた表情になる。
「たしかに確率としては、お前が勝つ可能性が高い。だが、戦(いくさ)に絶対はない。その準男爵令息は、お前に勝つための策を打っているに違いない」
「しかし……グランディに策などあるはず――」
「バカもん! グランディとやらは、お前の慢心を突いてくる。何か仕組んでいる。お前は、グランディの策にどう対抗するつもりだ?」
「お言葉ですが、グランディにはどうせ何もできません……。あいつに味方する学院生などいませんし、わたしには魔術師長と騎士団長がついています。グランディは、すでに詰んでいます」
「……なるほど。お前は王子だというのに、戦いに際して無策なのか……。どうやら育て方を間違えたらしい」
父上は天を仰いだ。
(ぐ……っ! いくら何でも、実の息子に対して言いすぎじゃないか……?)
「まあいい。お前が何もせずともグランディに勝てるというのなら、その言葉を信じよう。だが、万が一、王子であるお前が準男爵令息に負けることがあれば――」
「はい。わかっています」
わたしを王位継承者から外す、ということだろう。
「わかっているのなら、それでよい。王族が負けるなど、恥もいいところだ。貴族たちの笑い者になる。王子のお前が負けることは、絶対に許されない」
「絶対に勝ちます」
わたしは強く断言する。
自分が負ける未来など、全然想像できないからだ。
「父上、お兄様は勝ちますわ。準男爵令息ごときに、王子であるお兄様が負けるわけないですもの」
横からずっと黙っていたシャルロッテが、口を開いた。
いつも絶対に父上に口答えなどしない妹だ。
(兄の味方をしてくれるなんて……なんて優しい妹なんだ!)
健気にも応援してくれるシャルロッテを見て、目頭が熱くなってしまう。
「シャルロッテがそこまで言うなら、わたしもクロードの勝利を信じよう。決闘はわたしも見に行くから、そのつもりでな」
「はい……! 必ずや、王族らしい華麗な勝利をご覧に入れましょう!」
★
【シャルロッテ視点】
「お兄様はたぶんグランディに負けるわ……」
あたしは独り言をつぶやく。
王宮のあたしの部屋。
あたしは紅茶を飲みながら、窓の外を眺めていた。
「姫様がそう思うのなら、きっとクロード殿下は……」
メイドのアンナが、あたしの独り言を拾ってくれた。
「そうね。でも、お兄様の勝敗よりも面白いのは――」
「あら。また姫様の悪い癖ですね?」
ふふと、アンナが微笑を浮かべる。
「違うわよ。ただ、圧倒的に不利な戦いを挑むなんて、どんな秘策があるんだろうと思って。あたしの将来の、参考になるとね」
「では、グランディ様を調査すればいいですか?」
「さすがあたしのメイド。察しがいいじゃない」
「わたしは姫様の【剣】ですから」
アンナはあたしのメイドであり、参謀でもある。
実は暗殺者一族――ネクロス家の娘。アンナ・ネクロス。
あたしが一番信頼している人間だ。
「もしもグランディ様がクロード殿下に勝てば、姫様が王位に近づきます」
「そんなことはたぶんないけど、もしもの時は……」
あたしは小さな声で言う。
「グランディ様を、姫様の味方にするのですね」
「そうよ。有能な人材はこちら側に引き込まないとね」
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