第4話 配達先での受け答え

 配達中、昼食はコンビニでさっとおにぎりやパンなどを買って車内で済ませることが多い。弁当屋で出来上がりを待っている時間がない。食堂へ入るなど夢のまた夢。

 たまに妻が弁当を作ってくれることがあるが、幸之介が小学校へ入って給食になって以来、こちらの方もほとんどなくなっている。

 今日はおかかのおにぎりとハムサンドをペットボトルのお茶で流し込む。

 個人宅に比べ、会社や店舗への配達では、荷物への思い入れを示す人があまりいなくなる。集団になる分、当事者意識が薄くなるのだろうか。発注したその人が応対に出ることがあまりないせいか。

 製粉会社へ行き、受付の女性に荷物を渡すと、 

「お待ち下さい」

と言われ、女性はハンコを持って来るためか、事務所の方へ行ってしまった。

 その場でサインしてくれても良いのだが、と思い、これも会社のルールなのか、と黙って待っている。もう一人の受付の女性は黙ってチンと座っている。変な間ができてしまう。

 家庭でも相手がハンコを探している時にこんな瞬間があるが、特に会社への配達ではこうした間ができやすい。

 受付の女性も素知らぬ顔をしているが、僕の方も視線が不自然に合ったりして気まずくなることを避けるため、荷札と住所を見比べて再度確認したり、用もないのにスマートフォンをいじくったりしてどうにかやり過ごす。

 夕方からは再び住宅街へ入る。再配達が続く。ネット通販で頼んだ物が多い。

「暑くなってきましたね」

など、季節の話題を振ってこられる時がある。

「そうですねえ」

と微笑を顔に張り付けて返しておく。

 暑い寒いの季節感や天気の話題は、どの人も同じように感じることが多いので格好の話題だ、とはよく言うが配達をしていて自分からそんな話を持ち掛けることはなく相手方から言われて受け答えするばかりになっている。

 それでも、それなりに相手も同じように感じるだろうと思われる答えを返しておく。「でも朝晩は冷えますね」

とか 

「ちょっとムシッとしますね」

など、あまり外れないことを言わなくてはならない。

 暑さ寒さが普段の配達の効率に大きく影響を及ぼす季節なら

「暑くてたまりません」

などと実感を込めて返すことができるが、今ぐらいの中途半端な気候、天候だと、ちょっと難しい。

「そうですねえ」

で終わってはあまりにも無粋で、

「これからまた暑くなりますね」

などと軽く返しておくことにする。


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