第3話 「緘黙」の原因は?

 ネット注文した翌日、何冊かの緘黙に関する本が届いた。宅配だと、速い。

「あなたも読んで」と頼まれ、目を通してみた。

 緘黙のはっきりした診断基準があるわけではないが、小学校低学年の間は仲の良い特定の友達の後ろをついて行く形でみんなとの遊びにもどうにか参加しているが、いつも黙っているので次第に誰からも相手にされなくなり一人ぼっちになって行き、学年が上がるごとに学校生活がつらくなるケースが多いと言う。

 幸之介も参観の時目にする様子では、遊ぶ時は必ず指図役のような友達がいて、その子に付き従っているようなところがある。

 その子が鬼ごっこをしようと言ったらするという調子で、自分から積極的にこんな遊びをしようと提案したり、また自分から友達に声を掛けて誘うことはないようで、指図役の友達が別の子と遊んでいたらそこへは入って行けず、一人でいることを選んでいるようだ。

 何か規制でもされているように自分と自分の行動範囲を限定していて、広がらない。

 緘黙になる原因は育て方や環境からではなく、脳の働きが原因であることや、もっと喋れ、などという声掛けや励ましは逆効果になってしまうことも書かれていた。よく理解できる。

 僕も子供の頃から元気がないと回りから言われ、大人になっても口数が少なく、無口だねえ、とか、おとなしいね、もっと喋ったら?何か喋って、などと言われると、ますます話すことができなくなった。

 喋れなくなるわけは、そうした言葉を受けることで、自分では普通にしているつもりなのに、相手にとっては物足りず、面白くない印象を与えていることを知って少なからずショックを覚えると同時に、普段通りの自分ではダメなのだと思い、相手に合わせた自分を作らなくては、と焦り、その瞬間から本来の自分のペースを見失ってしまうからだ。

 結果、それまでよりも無口の症状がひどくなってしまう。

 「あなたに似たのかな?」

との妻の言葉が、グサリと突き刺さる。

 何も言い返せず、卑屈な感じで妻の顔を覗き込む。妻はため息をつきながら目を逸らす。僕の方が背が高いが、妻を見上げているような感覚がある。

 結婚するまでは、僕の優しいところに妻は魅かれたようだった。ほとんど妻の方から近付いてきた。僕は配達の仕事に就いて間もなく、貯金もなかったが、あれよあれよと結婚を決めていた。プロポーズの言葉を言った記憶がない。妻も、言われていない、と後々になって、言う。

 優しいのではなく自信がないだけだと分かるのに、時間は掛からなかった。

 幸之介が生まれる時の仕事の調整や家族旅行の日程や行き先を決める時や互いの実家への行き来の時など、ありとあらゆる僕の行動に妻が苛立ちを見せることが多くなった。

 今回の幸之介の心配事への対応も、妻が率先して調べ物をして、僕が懸命に付いて行っている感じがある。妻が言うように、今回のことは僕からの遺伝である気もする。妻に緘黙や無口の傾向はないからだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る