第6話 参観の日に見たかたつむり
配達を終え、営業所での伝票整理に移る。代引き金の精算もする。
配達員それぞれがパソコンに向かって座っているが、右隣りの席に座った斎藤が話し掛けてくる。年齢は僕より四、五歳若く、経験年数は三ヶ月違いで僕の方が早い。
比較的よく話す同僚だが、愚痴が多く、いつも僕に対して毎日の配達で感じたストレスをぶつけるように喋ってくる。放っておくと一人で喋っているので、聞き流すだけで良いから楽ではある。
不在者配達の指定のタイミングが悪いとか、いるのに出て来ないとか、荷物を受け取る態度がぞんざいとか、彼が感じているようなストレスは僕にもよく分かる。配達員なら誰もが必ず感じるものだろう。あるいは、どんな職業にも同じようなことはあるだろう。
彼の愚痴の幅は広がって行き
「あー、何でこんな仕事やってるんだろう」と仕事そのものに対する卑下、悲観にまで発展する。
ここ数年、宅配業者に対する顧客からの要望がエスカレートし、時間指定配達が増え再配達の要求もひっきりなしだが、最近は土日に配達を休む会社とか再配達の必要をなくすため宅配ボックスが売り出されるなど、変化もみられる。この会社にはまだ波及していないが、徐々に仕事の環境も変わって行くのだろう。
やがて車も自動運転になり、配達員もロボットになる時代が来るのだろうか。確かに物を受け渡すだけの仕事なので、ロボットで事足りる。ロボットだと配達間違いもないのだろうし、無愛想で相手を怒らせたりすることもない。
僕達配達員は失職するが、限られた人員のみが配達業務や配達区域全体の管理とか付随サービスの開発・企画など関連業務へ回されることになるのだろう。
参観の日は雨だった。
校舎の下駄箱の上に靴を乗せようとすると、かたつむりがいた。止まっているようだが、よく見ると、ゆっくりゆっくりと少しずつ動いている。
幸之介はかたつむりが好きで、梅雨に近いこの時期、家の軒先にかたつむりの姿を見つけると、じっと眺めていたりする。
かたつむりは人類の発生よりもっと昔、五億年ほど前から生息していて、ひたすらのんんびり生きている、と言われる。外部からの攻撃に対しては、固い殻に閉じこもることと嫌な臭いや粘液を出すというあまりに消極的な手段で身を守っている。
ちょうど幸之介の下駄箱の上にいるので、どけたりせず、そのままにしておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます