妹との外出 『お姉ちゃんの様子がおかしい』
「……お姉ちゃん、大丈夫?」
「う、うん…… 大丈夫だよ! えへへっ」
「それならいいんだけど……」
唯愛と一緒にジムの見学に行くために、私は夏輝以外の人と久しぶりに外出することとなった。
恐怖で少し身体が震えてしまうが、以前よりかはマシになってきている。
過去に戻って来て初めて外に出た時は、過呼吸になりパニックになる寸前だったから…… うん、大丈夫大丈夫!
「それにお姉ちゃん、その格好は何?」
「……ポゥさんジャージにキャップだよ? 可愛いでしょ?」
「ポゥさんは可愛いけど…… お姉ちゃん、ちょっとダサい……」
ダ、ダサ!? な、何を言ってるの!? こんな可愛いのに! 夏輝だっていつも『可愛いよ』って言ってくれるんだよ?
「それはお義兄さんが気を使って…… あっ、こんにちわー」
夏輝が気を使うわけ…… って、あの近所の家の前で玄関先を掃除しているのは…… 町内会長!?
…………
『こんにちわ、剣持さんの奥さん、今日はお出かけですか?』
『……ふひひっ! 初めて見た時から気になっていたんですよ!』
『ほら! 早くしないと旦那さんが帰って来てしまいますよ!』
…………
嫌な記憶が蘇ってきた。
最初は私達夫婦に優しくしてくれていたのに、楠田に唆されてからは毎日のように私達の家に上がり込んで私の身体を…… 六十歳近いのに飽きもせず何度も……
うぅっ! 恐い…… あの時のことが鮮明に……
『……咲希、愛してるよ』
……っ!! そ、そうよ! 今の私はあの時のように弱い私じゃないの! 毎日夏輝のモノだって身体と心に何度も刻まれるように愛されて、しっかりと夏輝直筆のサイン入りなんだから今の私は無敵よ!!
「こんにちわ剣持さん、妹さんとお出かけですか? 仲が良いですねー」
「え、へへっ、は、はい! そうなんですよー」
「いってらっしゃい、気をつけてねー」
「はーい、ありがとうございまーす!」
ふん! アンタみたいな変態、もう近付くことは許さないんだからね! いざとなればボコボコってしちゃうんだから! ……唯愛が。
「……お姉ちゃん?」
「えへへっ、ジム、楽しみだなぁー!」
「…………」
◇
お姉ちゃんの様子がおかしい!
どこがと言われたら上手く答えられないが…… とにかくおかしい!
今も何かに怯えるように周りをキョロキョロしてビクビクしながら歩いているし、さっき会ったお姉ちゃんの住む町内の町内会長にもどこか怯えていたように感じた。
それに…… いつも可愛らしいお洒落な服を好んで着ていたお姉ちゃんが、こんなクソダサコーデで出かけるなんて!
……ポゥさんは可愛いわよ? あたしだって大好きだしグッズもいっぱい持ってる。
でも、全身ポゥさんがあちこちにプリントされている服を着てお出かけしたいと思うだなんて……
やっぱりあたしの勘は当たっていたんじゃないかしら。
お姉ちゃんにきっと何かあったんだろう……
今晩はお義兄さんも含めて食事でもしながら二人の様子を探ろう!
そう思ったあたしはお姉ちゃんに気付かれないようにヨウに連絡を入れることにした。
◇
警戒しながら歩くのは疲れるけど、油断は禁物!
あの近所のスーパーの店長も、よく通っていたコンビニの店員も…… 結果的には良い人じゃなかったから。
…………
『いらっしゃい! 今日はキャベツが安いよ!』
『おら! どうだ、もっと食わしてやるよ!』
『ありがとうございましたー! またお越し下さいませー』
『ははっ! おい『今日もありがとうございました』だろ?』
…………
どこで話を聞いたのか、たびたび私達の家に来ては私を買い、酷いことをいっぱいして……
……忘れたいけど忘れられはしない。
でも、そんな未来にならないように今私は頑張って注意しながら生活しているのよ!
夏輝の笑顔を思い出しながら、改めて警戒を怠らないよう気を引き締めながら歩く。
そして歩くこと十五分、私達の実家に近い場所にある、唯愛の通っているジムに到着した。
「先生ー! こんにちわー!」
「んっ! はぁっ! ど、どうだ! まいったか! ……んんっ! そこは卑怯だぞ、
「む、むぐくっ…… ちょっと強過ぎ、ですから…… クレアさん……」
ジムに入ると、リングの上で男性に女性が覆い被さるように組み合っていた。
褐色の肌に派手な金髪でレスリングのユニフォームみたいなのを着た女性…… 何となく雰囲気が唯愛と似ているような気がするけど、顔立ちからして外国の人のようだ。
そしてそんな女性に覆い被さられながらも必死に抵抗しているのが…… ちょっと小柄で幼い顔立ちの男性だった。
黒髪だし日本人だと思うけど…… 中学生くらいに見える。
「先生達…… スパーリングに夢中で気付いてなさそう…… まったく! いつも来れば二人で寝技の練習ばかりしてるんだから! ……おーい! 先生ー? 来ましたよー!」
「ク、クレア、さん! ゆ、唯愛ちゃんが来てますよ!」
「ひぁん! もう、玲央はその技が好きだなぁ…… んっ? おっ、ユアじゃないか! 来ていたのか、気付かなかったよ、わははっ!」
……私達に気付いたから離れて立ち上がるかと思ったのに、クレアさんと呼ばれた女性は玲央と呼ばれた男性に覆い被さったまま笑顔でこちらに手を振ってきた。
「は、離れて…… むぐくっ!」
「んー、まっ! ちゅっ、ちゅっ…… よし、今はこれくらいにしといてやるか! わはははっ! んっ、しょっ、と!」
わぁぁっ! 仰向けの状態から身体を丸めコロンと後ろに回ると見せかけてハンドスプリングでピョーンと立ち上がった! ……すごーい!
「もうユアの練習の時間か…… って、その人がユアの話していたお姉さんか?」
「そうですよ! 隣にいるのがあたしのお姉ちゃんです!」
「は、初めまして! 唯愛の姉の咲希です! 今日は見学させてもらいに来ました、よろしくお願いします!」
「ほぅ…… あまり似てないな! それに格闘技とか興味無さそうだし…… まっ、最近はダイエットや運動不足解消のために通う女性も多いからな」
私は運動不足解消のためにこのジムに通うか迷っているだけで、唯愛みたいに強くなりたいとは思ってないんだよ……
「うちは女性専用のジムだから、気軽に通えると思うぞ!」
「えっ…… でも……」
リングの上でまだ倒れている人…… あの人は?
「ああ、あれは私の旦那で、このジムのオーナーだから安心してくれ!」
「旦那さん!?」
えぇっ!? 中学生じゃないんだ…… もしかして! クレアさんってショタコ……
「……失礼なことを考えてるだろ? 玲央は私の一つ年下なだけで、ああ見えて二十八歳だぞ?」
二十八歳!? 私よりも年上…… ってことはクレアさんも二十九歳……
引き締まった身体に割れた腹筋、なのに唯愛以上のたわわなたわわ。
ガチッとしているのに女性特有の柔らかそうな身体だなんて! 旦那さんも大変だろうなぁ…… 色々。
すると、ジムの奥にあるドアを開けて、元気で小さな男の子がいきなり飛び出してきた。
「母ちゃーん! オヤツ食べていいー?」
「ああ、いいぞー! 母ちゃんはお仕事中だからもう少し家で留守番してろよー?」
「はーい!」
「あれは私達の息子の『ハイジ』だ、もうすぐ小学生になるんだけどヤンチャで大変なんだ、はぁ…… 誰に似たんだか」
見た目は肌の色以外ママそっくりな男の子だったけどね…… クレアさんってママだったんだ。
男性も旦那さんだけみたいだし、夏輝が心配することもなさそう。
「よし! とりあえず唯愛はいつも通り自主練で、咲希は試しに少し動いてみるか!」
えっ…… い、いきなりぃ!?
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