それぞれの『その後』

 その後、食事が終わってからもしばらく色々と話をしていたが、陽愛ちゃんが眠くなったのかぐずり始めたので、食事会はお開きとなった。


 唯愛達が帰宅するのを玄関で見送り、片付けをした後は……


「唯愛ちゃん達に話して良かったの?」


「うん、どうせ隠していてもきっと唯愛には私が今までと少し違うって分かるだろうし、いつかはバレちゃうから…… 私の秘密を話せてスッキリしたよ」


「そっか……」


 えへへっ…… 話した内容は未来の話で、今の唯愛達には関係のない話だけど、唯愛に隠し事をしているみたいで苦しかったから聞いてもらえて良かった。


 それよりも……


「それじゃあ流すねー?」


「ああ……」


 今は夏輝の身体を綺麗にするのが先。

 しっかりと隅々まで手洗いで優しく洗った夏輝の身体をシャワーで流して…… えへっ。


「あっ、もう綺麗になったからそんなに擦らないで!」


 清潔にしておかないとダメだよ? ここは。

 あっ、ピンとして洗いやすくなってきた…… えへへっ。


「さ、咲希……」


 …………


『自分で汚したんだ、ちゃんと綺麗にしろ』


『咲希ちゃん、ずいぶん慣れてきたんじゃないか? ふひっ!』


 …………


「咲希?」


「……あっ、ごめん、えへへっ」


 ふとした瞬間に蘇る裏切り続けていた頃の記憶。

 忘れたいのに忘れることが出来ない、地獄のような日々……


「咲希」


「あっ……」


 私の様子が変なのに気が付いたのか、背中を向けていた夏輝は振り向いて、優しく抱き締めてくれた。


「大丈夫、俺が絶対に守るから」


「夏輝ぃ……」


 ああ…… 夏輝に抱き締めてもらうと安心して、不安な気持ちも和らいでいく。


 やっぱり私には夏輝しかいないんだ。


「えへへっ、を思い出して少し怖くなっちゃっただけだから、もう大丈夫だよ」


「そっか…… でも無理はしちゃダメだぞ?」


「うん」


 えへへっ…… 愛する人と肌で触れ合うとどうしてこんなに幸せなのかな?

 ずーっとこのまま抱き合っていたい……


「咲希……」


 ガッチリして逞しい、男の人の身体……


「あの、咲希?」


 でも先はプニプニしてる…… 


「……聞いてる?」


 そして握ると思わずヨシヨシしてあげたくなるくらい…… 


「ま、またか?」


 そして、ヨシヨシしてあげると寂しそうにポロリと一筋の涙を流して…… あぁん、すべてを包み込んであげたい!


「……あっ!」


 えへへっ…… 



 ◇



「咲希、大丈夫? はい、水だよ」


「うぅっ…… 夏輝、ごめんねぇ……」


 ついつい長風呂になり、咲希がちょっとのぼせてしまった。


 ソファーに座りぐったりしている咲希に冷たい水を持ってくると、咲希はコップに入った水を一気に飲み干した。


「ぷはぁー! ありがとう夏輝」


 エアコンの温度も少し下げたし大丈夫だと思うけど……


「大丈夫そうになったらすぐに服を着るんだぞ?」


「はーい、えへへっ」


 ぽんぽーんな咲希が笑顔で返事をしたが…… もう少し足は閉じた方がいいよ? まる見えだから。


「もう…… 夏輝はエッチなんだから!」


 ……いや、咲希ちゃんには敵わないよ。

 

「夏輝も座ったら? お仕事で疲れてるでしょ?」


 うん…… 仕事よりもお風呂の方が疲れたかな。

 

「夏輝ぃ」


 でも、二人きりになるとこうして甘えてくる咲希が可愛いから、多少疲れようが癒されるんだけどね。


「えへへっ、今日もサインしてね?」


 サイン、ねぇ…… また『夏輝専用入場口』とか、『○○○○』とか『✕✕✕✕✕』なんかを書いてくれって言われるんだろうなぁ…… 


「ああ、寝る前にな」


「うん! いつもありがとね!」


 熱でうなされて目覚めたあの日から比べるとかなり元気になってきた咲希。


 ちょっと困った頼み事をしてくる時が多くなってしまったが、それでも咲希が幸せそうに笑っている姿が見られるのは嬉しいな。



 ◇



「兄貴」


「ケンか…… 電話で俺に相談があるとか言ってたが、一体どうしたんだ?」


「実は前に俺の邪魔をした、あの『ブタ』の家族に良さそうな女がいたんだよ、だから少し遊んでみようかと思っているんだけど、兄貴に相談してからにしようと思ってさ、実際にはまだ見てないけど、春日が写真を見せてくれたんだ、これなんだけど……」


「ほう、なかなか良い女じゃないか、しかも…… こういう女は脅せば簡単に堕ちそうだな」


「だろ? だから兄貴にも少し手伝って欲しいんだ」


「別に構わないが、下手すると俺も『鬼島』に目を付けられてしまうから派手には動けないぞ?」


「それは大丈夫、ただこの女の旦那と関わりを持ちたいんだ、春日にあの会社を紹介したくらいなんだから、誰か裏から手を回せる奴がいるんだろ?」


「……分かった、ただ条件がある」


「…………」


「堕ちたら俺にも遊ばせろ『次の商品はまだか』と客がうるさいんだ」


「ははっ、それくらい構わないよ、俺はただ…… 俺に恥をかかせたあの大倉ブタに仕返しがしたいだけだからな」


 

 ◇



『もしもし…… こんな時間に珍しいわね、唯愛ちゃん』


「急に電話してごめんなさい、ちょっと相談があって…… あたしのお姉ちゃんの事なんですけど」


『お姉さん?』


「ちょっと心配な事があって、店長…… じゃなくて亜梨沙ありささんの知り合いの、あの探偵さんとお話しがしたいんですけど……」



 ◇



 ブ、ブヒィィィー!! ………はぁっ、はぁっ


「咲希……」


 ブヒッ…… ふぅぅ……


「…………」


 お、お掃除しなきゃ……


 えへへっ。



 ◇



 ヒィィィー! ……はぁっ、はぁっ


「夏輝ぃ……」


 うっ……


 俺も体力を付けるためにジムに行こうかな。

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