家族団らん、そして告白
「……それでね! お姉ちゃんったらさっきまでへなちょこパンチをしていたと思ったら、いきなり凄いパンチを連打し始めたの! 先生も『筋が良い』って褒めてたわ!」
「へぇー、さすが姉妹だね! それで咲希さんもジムに通うんだ」
「んふふっ、そうよ! でも多くても週一回くらいだからヨウもお義兄さんも安心してね!」
仕事から帰ると咲希の妹、唯愛ちゃんと、その旦那さんの陽くん、そして二人の娘の陽愛ちゃんが我が家に遊びに来ていた。
咲希と唯愛ちゃんは昼間ジムに行っていたのは聞いていたし、その後一緒に晩ご飯を食べようと言われていたので唯愛ちゃん達がいるのには驚いてはいないのだが……
陽くんにピッタリとくっつきながら楽しそうに話している唯愛ちゃんを見て、相変わらず仲良しだなと思った。
陽くんも慣れているのか陽愛ちゃんを抱っこしながらニコニコと話を聞いているし……
「あまり咲希さんに無茶させちゃダメだよ? 初心者なんだから」
「分かってるわよ! ……次はサーモンのお寿司がいい? はい、あーん」
「うん…… んっ、ありがとう唯愛」
「あう、あー!」
抱っこして両手が使えない陽くんに、さっきから料理を食べさせている唯愛ちゃん。
そんな両親の姿を見て、手をパタパタさせながら笑っている陽愛ちゃん……
「えへへっ、幸せそう」
「ああ」
唯愛ちゃん達は高校の同級生で、社会人になり再会してからすぐに結婚、そして妊娠、出産と色々早過ぎて、二人は上手くいくのかと心配していたんだが、そんな心配も無駄なくらい二人は幸せに生活しているみたいだ。
「それにしても、まさか咲希が格闘技の才能があったとはね…… ビックリしたよ」
「自分の話だけど自分でもビックリしてるよー、ただ無我夢中にサンドバッグを叩いていただけなんだけどね、えへへっ」
一度、唯愛ちゃんが高校生の時にトレーニングしている様子をチラっと見させてもらったことがあるけど、素人の俺が見てもかなり強そうな動きをしていた、そんな唯愛ちゃんとその先生が褒めるくらいだ、咲希がトレーニングしている姿を見てみたいな。
「今度俺も見学に行っていいかな?」
「えぇっ!? は、恥ずかしいよぉ…… お肉が揺れるし」
毎日のようにあちこち揺らしてるのに? ……主に夜の話だけど。
「それにパンチやキックする時に変な顔してるかもしれないし! やーん、夏輝には見せられないよぉー!」
……ブヒブヒは大丈夫なのかな? たまにヨダレも垂らしてるよ?
「汗だっていっぱいかくし、やっぱり恥ずかしい!」
……汗どころか汁も凄いけどね。
「……あっ! 夏輝、私の頑張ってる姿を想像して笑うの我慢してるでしょ! ひどーい!」
……いや、想像じゃなくて最近の夜の出来事を思い出していただけ。
でも……
「心配しなくても、どんな咲希でも可愛いから大丈夫だよ」
「夏輝……」
ヨダレを垂らそうが、ブヒブヒしようが、勢いよく汁飛ばししようが、サインだらけだろうが、どんな咲希でも愛おしいんだ。
「んふっ、お姉ちゃん達は相変わらずラブラブね!」
「あははっ、そうだね」
……唯愛ちゃん達も人のことは言えないよ?
◇
えへへっ、家族で仲良く食事って幸せだな……
あの頃は唯愛達を呼べるような家じゃなくなって、誰にも言えないからと連絡をあまり取らないようにしていたから…… 思い出しただけで涙が出ちゃいそう。
デリバリーしたオードブルのウインナーを一口食べて、楽しそうにおしゃべりするみんなの様子を眺めていると
「……ところでお姉ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
「……えっ?」
笑顔で陽くんにくっついていた唯愛が、真剣な眼差しで私を見つめてきた。
……陽くんのお腹を撫でているけど。
「お姉ちゃんは…… お姉ちゃん、だよね?」
「えっ…… えへへっ! 唯愛ったら何を言ってるの? 当たり前でしょ?」
……いきなりどうしたの?
「……何かあったんでしょ?」
「…………」
やっぱりずっと一緒に過ごしてきた姉妹だもんね、誤魔化せないか……
「大丈夫よ、たとえ何があってもあたしの大好きなお姉ちゃんに変わりないんだから…… だから何があったか教えて? 困っていたらあたしが助けるから」
「唯愛……」
どうしよう…… 夏輝、私はどうしたらいいかな?
すると、夏輝は何も言わずにテーブルの下で私の手を握り、優しく微笑んでくれた。
その笑顔は『何があっても絶対に咲希の味方だ』と言ってくれているようで、私は思わず涙が溢れそうになった。
あぁん、やだぁ、夏輝ぃ……
今すぐ○○○○を△△△して、□□□で✕✕✕✕したい…… 好きぃ…… 愛してるぅ……
そして……
「唯愛、あのね……」
私は唯愛に未来での私の裏切り、そしてその結果どうなったか、そしてタイムリープしてきたことを、時々言葉が詰まってしまったが説明した。
「お姉ちゃん……」
信じられない話だったと思う。
だけど唯愛は私の話をすべて信じてくれた。
「うぅぅっ! お姉ちゃんが酷い目に合っていたのに…… 未来のあたしは何をしてたの!? ……助けてあげられなくて、ごめんねぇ」
そして、すべての話を聞いた唯愛は泣きながら私を抱き締めてくれた。
「……ぐすっ、それにしても『楠田』って男は許せないわ! ……今はまだ何をしているか分からないみたいだけど、大丈夫よ! お姉ちゃんには絶対に近付かせないから!」
「でも、夏輝も知らないって言ってるし、もしかしたらこのまま何もなく過ごせるかもしれないからどうしていいか分からないの」
「……そうね、でも心配だからあたしの知り合いに相談しておくわ」
「うん、ありがとう……」
唯愛の知り合いって誰だろう?
でも…… 夏輝以外の人に打ち明けられて、相談出来たのは良かったかも。
少しだけ…… 気持ちも楽になった。
「あう、あう!」
「えへへっ、どうしたの陽愛ちゃん?」
「んふふっ、ヒメもおばちゃんが心配なんだもんねー?」
「あう!」
陽愛ちゃん、笑顔で小さな手足をパタパタさせているけど、おばちゃんを励ましてくれているのかな? えへへっ、可愛い……
未来では産むことも出来ずに道連れにした最低でダメなママだったけど、私もいつか、夏輝との子供が欲しいな……
可愛い陽愛ちゃんの姿を見ながら、今度こそは明るい未来になって欲しいと心の中で祈った。
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