過去(未来)での罪の告白

 夏輝と結婚してもうすぐ二年目。

 たまに些細な喧嘩をするくらいで、夫婦関係は良好、幸せな毎日を送っていた。


 普段、夏輝が仕事に行っている時は家事をしたり、在宅ワークをして家計は足しになるようアルバイトなどをして過ごしていた。


 休日はたまに二人でデートに行ったり、家でまったりと過ごしたり、夏輝との生活は充実した毎日だった。


 そんなある日、夏輝の会社から連絡が来て

『旦那さんが会社で今日中に必要な書類を家に忘れたと言っている、自分がたまたま近くにいるから旦那さんの代わりにその書類を受け取りに行く』と言われた。


 最初、なぜ夏輝から連絡が来ないのかと思って、夏輝に連絡をしようとしたら

『今日必要な書類を忘れた、上司が取りに行く』と夏輝の会社用の携帯からメッセージが入っていたので、私は信じてしまった。


 これが悪夢の始まり……


 二十分後くらいにインターホンがなって、モニターを見てみるとスーツを着た男が立っていて


『旦那さんの上司の楠田くすだです、書類を受け取りに来ました』


 夏輝から連絡もあったし私は何も怪しまずに玄関を開けてしまった。


 その時、会社で必要だと言われていた書類が探しても見つからなくて、玄関で待たせるのは悪いと思って家に上がってもらい、お茶を出してリビングで待っててもらったんだけど、結局書類は見つからなくて…… 楠田が夏輝に連絡をして聞いてみるって電話をしていたけど


『旦那さん、今日取引先に行く予定だったから、まだ電話に出られないのかもしれない、確か予定ではもうそろそろ終わるから少し待ってみましょう』って言われて、世間話をしながら夏輝の折り返しの電話を待っていた。


 そして、自分の分もお茶を用意して…… すると楠田の携帯に着信があって


『寝室の棚の引き出しの中にあるらしい』って、でも言われた通りに探しても無くて、再び楠田は電話をして


 知らない人、しかも男性と二人きりだし嫌だなぁと思いつつ、少し喉が乾いたから自分で用意したお茶を飲んだら……


『あ、あれ? ……あっ』


 急にフラフラってして、身体に力が入らなくなって…… 


『ふふっ、やっと効いてきたか……』


 そして気付いたら…… 寝室のベッドで楠田に……


 身体に力が入らないから抵抗も出来なくて、ただただ泣き叫びながら必死に逃げようとしたんだけど…… 駄目だった。


 そして、終わった後に写真を撮られて、それから後で知ったけど動画も撮影されていたの……


『旦那に知られたくなかったら…… 分かるよな?』


 結局、書類も嘘、夏輝からの連絡や着信も、ただ私を弄ぶためだけに楠田が自作自演でやっていた事で、私はすっかり騙されてしまった。


 こんな事を絶対に夏輝に知られたくない、知られたら離婚になってしまう、と怖くなった私は楠田の言いなりになって、何度も何度も夏輝を裏切り……


 そして楠田に弄ばれるようになって半年ぐらい過ぎた頃……


『咲希、今日はコイツらも相手だ』


 楠田が部下や知り合い、楠田の取引先の人達を私達の家に勝手に連れて来て、時にはお金で売られたりと…… 代わる代わる色んな人に私は弄ばれた。


 その時期、夏輝は急遽一年間の出張を会社から頼まれ家には居らず、私は誰にも助けを求められずに、大切なマイホームを楠田達に好き勝手使われて、休む暇もなく奉仕をさせられ……


 そんな生活が続き、一ヶ月も経たないうちに私の心は壊れてしまったのかもしれない。


 もう全てがどうでもよくなって……


 そして、一年間という約束だったはずの出張から、予定より早く戻って来るようにと会社から言われた夏輝が、私弄ばれている最中に家に帰ってきて…… 私の罪をすべてを知られてしまった。


 夏輝を巻き込みたくなかった私は、夏輝に嫌われるように…… 何人もの男達に弄ばれる姿をわざと見せ付けた。


 それでも夏輝は『愛してる』って言ってくれて、最終的に夏輝は楠田の仲間達に連れて行かれ、その日から帰って来ることはなかった。


 その後も楠田に紹介されたという人達が私達の家に訪れては……


 気付いた時にはお腹が膨らんできて、警察に捜索願を出してはいたんだけど、でも夏輝は帰って来なくて…… 


 最後は夏輝の運転していた車が海に転落したと警察から連絡が来て、私もその現場に一人で行って…… 人生を終わらせるつもりで海に身を投げた……


 …………


「そして気が付いたら何故か過去に戻ってきていたの」



 ◇



 時折声を詰まらせながらも話を続けた咲希。

 そして最後には涙を流しながら俺に何度も頭を下げていた。


 ……正直信じられない。

 まず『楠田』という男は俺の会社には居ない。

 聞いたこともないし、咲希の話に出てきた出張にも行っていない。

 咲希の話が本当だとしても、色々と期間と辻褄が合わさすぎる。


 一度だけ不倫してしまった…… それを隠すために盛大な嘘をついている、という可能性も無くはないが、だとしても少なくとも俺には今の咲希が嘘をついているようには見えなかった。


 もし全て本当の話だったとしたら…… 咲希は本当に未来から過去へと戻って来たということか?


 こういうのなんて言うんだっけ? タイムリープ、だったか? ……そんな事、本当にあるのかよ。


「うぅっ…… 黙っていてごめんなさい…… いっぱい傷付けて…… 裏切ってごめんなさい……」


 いや、それは今ここにいる俺じゃなくて、咲希の言う通りなら『未来の俺』に対して謝っているんだよな?


 俺に謝られても…… ピンとこない。


「なぁ、今、浮気している、とかではないんだよな?」


「浮気なんてしてない! 私は夏輝だけで良かったの! 今いる私の身体は…… 夏輝だけしか知らないよ!?」


 ……俺はどうしたらいいんだ? 別に怒ってもいないし、咲希が居てくれるならそれでいいんだけど。


 ただ、風邪を引く前の咲希はもういないと思うと…… 少し悲しいかな。


 マイペースで、ちょっとワガママで、恥ずかしがり屋で、でも精一杯愛してくれた咲希はもう……


「夏輝ぃ…… ごめんなさい……」


 今の咲希は心に深い傷を負って、ボロボロだけど必死に俺に愛を伝えてくれている。


 どっちも咲希…… うん、咲希なんだよな!

 愛する人が傷付いてボロボロなんだ、旦那である俺が守って癒してあげないと!


「大丈夫だよ咲希、俺はどんなことがあっても咲希を愛してる…… また酷い目に合わないように全力で守るから、ずっと一緒に居て欲しい」


 泣きじゃくる咲希を抱き締めてそう言うと、更に咲希は号泣しながら抱き着いてきた。


「私も! ……私も、ずっと夏輝と居たい! お願いします、ずっと一緒に居てぇぇぇっ!」


 そして俺達は、新たな関係になろうとも夫婦として共に歩いて行くことを誓い合った。

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