咲希の様子がおかしい!!

 目覚めた咲希の様子がおかしい……

 どこが? と聞かれたら答えに困るのだが、とにかく様子がおかしいんだ。


 昨日体調を崩し、みるみる熱が上がって大変だと仕事中に咲希から連絡があり、慌てて仕事を早退して自宅に帰り、咲希を病院へと連れて行った。


 診察の結果、どうやら流行り病とかではなくただの風邪で、点滴を打って薬をもらって帰宅した。

 風邪だと聞いて安心したのだが、ベッドで寝ながら高熱でうなされ、意識朦朧としている咲希を見ているのはとても心配だった。


 しばらくうなされながら俺の名前を呼び続ける咲希の手を握りながら見守っていると、突然咲希が『熱い』と叫びながら飛び起きた。

 そしてベッドの横に座っていた俺の姿を発見した咲希は、俺に抱き着いてわんわんと泣き出した。 


 怖い夢でも見たのかと、背中を擦りながら宥めていたのだが……


『酷い事をした』『一年以上不貞をしていた』『二年以上住んだ新居を汚した』など言い始めて……


 だけど言っている事がおかしい…… だって俺達が結婚したのが二年ちょっと前、同棲中に二人で貯めたお金で結婚して少し経ってからマイホームを建てるために工事を依頼した。

 その間の半年くらい咲希の実家で俺達はお世話なっていて、新居が完成して引っ越してきたのは五ヶ月前くらいだ。


 一年以上不貞をしていたなら、いつ出かけていたんだ? 実家で散々『ずっと家でゴロゴロしてないで、買い物くらい手伝いなさい!』って怒られても『新婚なんだからいいでしょ!』と訳の分からない反論をして、頑なにゴロゴロするのを止めなかったのに……


 おかげでちょっと太って…… いや、ムチムチして…… なかなか痩せないって自分のお腹の肉を摘まんでショックを受けていたじゃないか。


 お義母さんもたまに俺と咲希が外出して家に居ない時は大喜びしていたし、咲希が一人で出掛けていたら俺に報告してたと思うから、不貞をする暇は無かったんじゃないか?


 しかも新居に引っ越してからは余程マイホームが手に入ったのが嬉しかったのか、毎日用がなくても連絡してきて、一緒に住んでいるのに新居の写真を俺に送ってきたりしていたし、疑われるような事はしていなかったと思う。


 とりあえず咲希はカレンダーの日付を見て驚いていたり、寝室やリビングを見ては少し涙ぐんでいたりと、相当怖い夢を見たんだと俺は思っていた。


 だけど、風呂から上がってきた咲希に、半分襲われたような状態で、一週間ぶりの夫婦のイチャイチャをしたのだが……



 咲希の様子がおかしい! 


 いつもなら部屋を暗くしないと恥ずかしいと言うのに、明るいリビングで、しかもソファーの上で致してしまった。


 その後、終わりかと思ったらベッドに行きラウンド2……

 まず、今まで受けたことのないコンボを画面端で決められているような感覚で、ついこの間までガチャガチャプレイだった咲希が、いきなりプロゲーマー級になって対戦を仕掛けてきたというか…… とにかく、凄かった……


 そしてファイナルラウンドは、とにかく咲希が望むままがむしゃらに戦い、両者引き分けで終わり…… それで満足したのか咲希は俺に抱き着いたまま寝てしまった。


 垂れ目で童顔、ぷっくりとした唇と白い肌。

 肩まで伸ばした少し癖でウェーブがかった黒い髪、そしてスレンダーな身体に形の良い『C』に、プリンとしたバケツプリン……


 どこからどう見ても咲希…… だけど咲希じゃないような…… でも、咲希なんだよなぁ……


 幸せそうに眠る顔を見つめながら、今まで経験したことのない激しいバトルを思い出し、俺は混乱しつつも疲れからか、気が付いたら咲希に抱き着かれたまま眠ってしまった。



 …………

 …………



 …………んっ、もう朝か?


「ふへへ…… 幸せ……」


 目を覚ますと目の前には咲希の顔があった。

 どうやら俺の寝顔を見ていたようだが……


「……どこを握ってるんだ?」


「えっ? ……満足美味しいん棒?」


 何で疑問形なんだよ! その前に満足美味しいん棒って何!?


「だってぇ…… 美味しいし、満足するんだよ? この一本があれば」


 ……本当に咲希なんだろうか? ……恥じらいがあった咲希はどこへ行った!


「咲希…… なんだよな?」


「夏輝だってそう思うよね…… あのね、その事で話があるの…… 信じてもらえないだろうけど、聞いてくれる? ……正直に話しておかないとこれからもずっと一緒に居られない気がしてたの」


 そう言っている咲希の顔は思い悩んでいる表情をしていた、何か言いづらいことのようだけど、とりあえず話を聞いてみないことには咲希の変わりようも含め何も分からない。


 分からないんだけど……


「分かった、ちゃんと咲希の話を聞く…… だから離してくれないかな?」


 いつまで触ってるんですか!? 今の咲希も怪しいが手つきも怪しい! 動かさないで!


「話さないといけないのに、離せないの! だって…… 凄いんだもん」


 話が凄いの!? 凄いから話せないって…… どんな話なんだ!? ちょっ、離して! 


「離したくない! 離すと辛そうだから…… 離さない方がスッキリするよ?」


 いや、俺的には自分の中で溜めておかないで話した方がスッキリすると思うんだけど……


「えっ!? 離さない方がスッキリするでしょ? 離したら溜まって逆に辛いと思うよ?」


 話したら溜まる、だから話さない? 話しがあると言ったのは咲希の方なのに…… ああ、もう色々分からなくなってきた! げ、限界……  離して!


「離さないから…… いいよ?」


 結局、どっちなのぉぉぉぉーっ!?



 …………

 …………



「えへへ……」


 結局離してくれなかった…… 朝からなんてことを…… おい咲希! どこに行くんだ!? 布団の中に隠れてもダメだぞ? 俺は少し怒ってるんだから…… はぅっ!


「…………んふっ」


 えっ? えっ? 布団の中では一体何が起こって…… ひゃっ! ……い、今はダメだって…… 聞いてる咲希ちゃん? ダメだって…… はぅっ! 


 ………… 


「……ふぅー! 暑かったぁ、んふふっ、これでスッキリと話が出来るね!」


 清掃業務を終えたのかまた元の位置に戻ってきた咲希は、今度こそ真剣な顔をして俺に伝えたかったことを話し始めた。


 ……離さないまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る