寝取られて、肉○○となっていた妻がタイムリープしてきた……らしい

ぱぴっぷ

別れ、そして再会

 あはは…… もう…… 生きてる意味、ないよ……


 三ヶ月前に失踪した夫、夏輝なつきの車が海に沈んでいるのが発見されたらしい。


 ただ、本人は見付からず、行方不明のまま…… だが、近くにあった防犯カメラの映像で直前まで夏輝が運転していたのは確認出来たと、警察の人が教えてくれた。


 どうしてこんな事に…… いや、全部私のせいだ。


 あの時、夏輝に助けを求めていたら。

 あの時、すぐに警察に相談していたら。

 あの時…… 私の痴態を見せるような事をしなければ……


 ふと、ベッドのそばにあるテーブルに置かれたくしゃくしゃの一万円札が目に入った。


 夏輝が失踪しても身体を売り続けなければならない私…… 本当にどうしてこんな事に……


 すべての元凶である、あの男はもう姿を現さない…… ただ、あの男から紹介されたという客が、毎日のように私達の家に訪れ私を弄び、私達の思い出が詰まったマイホームを汚していく……


 クタクタになった身体を起こし、ベッドから下りる。

 ふとお腹に視線をやると、以前よりも膨らんできていて、誰が見ても分かるような状態になってきた。


 私をこうしたのは私を弄んできた男達の誰かだろう、正直誰かすら分からないほど…… 


 思い出すだけで悔しさと悲しさで涙が溢れ、でも抗えない欲望に襲われる私の身体に嫌気が差してくる。


 夏輝には許されない事をした。

 最後に見た、夏輝の絶望した表情が頭から離れない。


 夏輝…… ごめんなさい…… ごめんなさい……


 そして私はフラフラと立ち上がり服を着て、くしゃくしゃになった一万円札を握りしめ家を出た。


 途中でタクシーを拾い、夏輝の車が発見されたという現場近くに向かった。


 怪しまれたら困ると現場から離れた場所でタクシーを降り目的地まで歩く。


 もう夜も遅いので誰もいなく、目の前には真っ暗な海…… ここのどこかに夏輝がいるんだろうか。


 そして道路灯を頼りに道を歩いて進むと、一部ガードレールが壊れて無くなり、黄色いテープが貼られている場所を発見した。


 ここ…… よね?


 ガードレールから身を乗り出すように下を覗いてみると、十数メートルはありそうな崖になっていて、すぐそこに海が見える。

 覗き込んだだけで足がすくんでしまいそうな高さがある…… ここから夏輝の車は転落したんだ……


 まだ何も手がかりはないが、警察の人が『発見された場所付近は潮の流れが激しいので捜索が困難だ』と言っていた。

 

 夏輝…… 一目でいいから会いたいよ…… 


 もし会えたら…… 私はどうしたらいいんだろう。

 謝って済むはずがない、それくらいの事を私はした。


 大人数に弄ばれ、訳が分からなくなるくらいに乱れた姿を見せ付けた。

 もう私の事は忘れて欲しいと嫌われるために…… でも、夏輝は最後まで私を『愛してる』と言ってくれた…… 『愛してるから止めてくれ』と。


 そんな夏輝を嘲笑うかのように止まらない私達の姿を見て、それでも夏輝は…… 


咲希さき…… ごめん、気付いてやれなくて…… ごめん』


 何で…… 謝るのは私なのに……


 そんな私達の様子を見て、楽しそうに笑っていたあの男……


 それから夏輝は姿を見せなくなり、私は捜索願を出して……


 馬鹿だよね…… こんなに愛してくれた人を、その想いを踏みにじるように裏切って……


 言い訳すら許されない、たとえきっかけは無理矢理襲われたからだったとしても、最終的に隠す事を選択した私が全て悪い。


 ごめんなさい…… 夏輝、ごめんなさい……


 もし、生まれ変われるのなら…… 今度は間違えないから…… 絶対裏切らないから…… 夏輝、あなただけを愛し、尽くすことを約束するから……


 夏輝…… 今、行くね……



 そして、私は黄色いテープを跨ぎ、来世への希望を胸に一歩を踏み出した。


 水面に打ち付けられた痛みで動かなくなった身体で海の冷たさを感じながら、いつかは会えると信じて流れに身を任せる……


 寒い…… 寒い…… 夏輝…… 会いたいよ…… 夏輝…… ごめんなさい…… 夏輝…… ごめんなさい…… 夏輝……


 寒い……


 寒い……


 寒い……



 …………


 …………


 …………



 熱い……


 熱い……


 …………熱、い?


 …………熱い! 






「熱ぅぅぅーい!!!」


 あまりの身体の熱さにガバッと身体を起こすと


「咲希!? だ、大丈夫? 凄いうなされてたからビックリしたよ」


 目の前には会いたくて会いたくて仕方がなかった…… 夏輝がいた。


 心配そうな顔で私を見る夏輝…… あれ? ここって…… 自宅のベッド!? 私、夏輝の後を追って海に飛び込んだはずなのに……


「咲希、凄いうなされていたぞ? 病院で点滴して貰ったから少しは楽になると思うけど、四十度近く熱があるんだから、まだ横になって休んでた方がいいよ?」


 ……えっ? 何でそんな普通に接してくれるの? 私、夏輝に酷いことをしたんだよ?


「酷いこと? ……あっ! 冷蔵庫にあった俺の分のプリンを食べたこと? ……別にそれくらいで怒らないよ、はははっ」


 いや、プリンなんて可愛いものじゃなくて、私…… 一年以上も夏輝を裏切って、色んな男の人達と不倫を…… 思い出の詰まったこの家も散々汚して……


「へっ!? ふ、不倫!? ……一年? 咲希の実家にいる時もしてたのか? ……しかも引っ越したばかりの新居なのに散々汚してって、いつの間に!? ……新築だからまだ綺麗だぞ?」


 ……えっ? いや、私達、この家に住んでもう三年は経ってるよ? ……あれっ? そう言えばベッドがまだ…… この大きさ、セミダブルよね?


 密着したいからこれくらいで良いって買ったはいいけど、色々するのに狭すぎるからってすぐに買い換えてダブルベッドにしたはず…… えっ?


 しかも実家って…… 結婚して、新居が建つまでの間の半年くらい、私の実家に住ませてもらってたけど、いつの話?


「逆にいつ不倫してたんだ? 実家にいる時は散々お義母さんに『ゴロゴロしてないで少しは出掛けなさい!』って言われても頑なに出歩かないで、一日中ゴロゴロしてたのに、外出してたらお義母さんにあんな小言を言われなくて済んだんじゃないか?」


 うっ! ……だってゴロゴロしていたかったんだもん! あの時は『これからは二人暮らしだし、子供が出来たら忙しくなって大変だから、実家にいる間は両親に甘えよう』って、夏輝と出かける以外は全てお母さん任せにして、毎日ゴロゴロとお菓子食べたり…… はぅっ! このお腹のプニプニ具合…… 実家から出た時と同じくらいだわ! ……あれ? 私、誰の子か分からない子を妊娠して…… えっ? プニプニだけど引っ込んでる!


「お腹をさすって…… お腹減ったのか? お粥は作ってあるけど食べる?」


 そう言われてみればお腹が空いているような気が…… って、そうじゃなくて! えっ!? えっ!? どうなってるの!?


 あっ、カレンダーが…… えっ? 2024!? えっ、今は2027年のはず…… 夢? いや、夢じゃない…… よね?


「はははっ、まだ熱でボーッとしてるんじゃないか? ほら、横になった方がいいよ…… 咲希?」


 うっ…… うぅっ!! よく分からないけど、汚される前に戻れたの? 夏輝だけしか知らない、綺麗な姿に……


 うぅぅ…… ありがとう…… 


 何が起こったか分からない。


 でも…… 大きく道を踏み外す前に戻れたみたい…… ありがとうございます…… ありがとうございます…… 


 ぐすっ…… 今度は絶対間違えない……


 夏輝だけの私でいるために、最悪な未来を回避しないと!!


 とりあえずその前に……


 うわぁぁぁーん!! 夏輝ぃぃぃー!! 夏輝ぃ、夏輝ぃ、夏輝ぃぃ…… 


「さ、咲希? お、おい、痛っ、抱き締める力が強いって!」


 夏輝、好きぃ! 好き! 愛してる! 愛してるからぁぁっ!


「わ、分かったって! 俺も愛してるから!」


 あぁ、夏輝がいる…… どうしてこうなったか分からないけど、今は…… 今だけはただ、私が唯一愛する人を抱き締め、温もりを感じたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る