迫り来る未来

「うぅ…… 早く帰って来てね?」


「そんなに遅くはならないと思うけど、不安だったら唯愛ちゃんに来てもらったら? 俺も連絡しておくからさ」


「うーん…… 陽愛ちゃんもいるし、あまり迷惑かけられないから大人しく家で待ってる……」


「ごめんな、なるべく早く帰るから」


「ううん、お仕事だもん、しかたないよ、いってらっしゃい、お仕事頑張ってね」


 涙目になりながら、俺が出勤するギリギリまで抱き着いてきたり、キスをしてくる咲希。

 

 今日は部下である春日くんに、営業として声をかけてきた、新しい取引先になるかもしれないという会社の社員さんと、説明会を兼ねた食事会が開かれる事になっている。


 当然仕事が終わってからなので帰りも遅くなる、その事を咲希に伝えた結果がこれだ。


 それで昨日の夜はいつもより咲希の甘えっぷりが凄くて、ついつい二ラウンド目まで突入しちゃったりしたから…… ちょっと寝不足気味だ。


 今日は酒を飲むつもりもないし、商品の話を聞くだけだから大丈夫だとは思うが…… はぁっ、早く帰れるといいな。


「夏輝ぃ…… 頑張ってね?」


 それよりも帰って来てからすんなり寝かせてもらえるかな? めちゃくちゃ身体を撫で回されているけど。


「うん、じゃあいってくるよ」


 玄関先でいつも以上に寂しそうに小さく手を振る咲希を見て、俺は後ろ髪が引かれる思いをしながら出勤した。



 ◇



 お仕事なんだから仕方ない。

 頭では分かっているけど…… あぁん、やっぱり寂しい!!


 夏輝が仕事で遅くなるのは過去に戻って来てから初めてじゃないかな? 

 この家を建てていた時に忙しくて出張とかでいなかったり、帰宅が遅くなったりと大変そうな時期はあった。


 だけど、あの頃はまだ実家に住んでいて、ママも家にいたし、唯愛もまだ実家暮らしだったから一人で寂しい思いをすることはなかった。


 だから…… うぅっ、不安だよぉ……


 唯愛に一応報告しとこっかなぁ? ……ううん、夜遅くなるだけだし、唯愛だって家事と育児で忙しいんだからやめておこう。


 そして私は唯愛に送ろうとした書きかけのメッセージを削除して、気を紛らわせるために家事を始めた。


 ジムは明日…… 今度は何を着ていこうかな? 着ていくといってもポゥさんジャージしかないんだけどね。


 そろそろおでかけ用の可愛い服も欲しいなぁ、露出が少ないのを選ぶとなると、好みな物だと限られてしまうしなぁ……


 そうだ! 夏輝が今度休みの時、ショッピングに付き合ってもらおう!


 ジムに通い始めてから外に出る機会も多くなったし、少し遠くまで出かけて、リハビリがてら夏輝とデートをして…… えへへっ!


 もしそれで体調が悪くなったりしなければ、ちょっと広いベッドがあって休憩出来るホテルに立ち寄ったりなんかしちゃったり…… あぁん! 想像しただけでヨダレが!


 はぁ、夏輝ぃ…… 


 こんなちょっぴりエッチになっちゃった私を見捨てずに、変わらず愛してくれて…… ありがとう。


 

 ◇



 仕事が終わり、社長と共にタクシーで、顔合わせを兼ねた食事会の会場である、居酒屋『虎屋』に向かっていた。


「剣持くん、付き合わせて悪いね、本当なら社長である私だけが行けば済む話なんだが……」


「あははっ、ちょっと特殊な材料ですからね…… 作業工程の説明も聞かないといけないですし」


 今回新たな建材として紹介されるのは、簡単に言うと外国製の外壁を塗装する材料で、塗る材料の配合や塗り方なんかも作業手順があるみたいで、社長だけではその材料の良さを判断出来そうにないということで、今回俺にも参加して欲しいと頼まれた。


「あとは仕入れ値や工事の値段次第だけど、春日くんの話だと使ってくれるなら仕入れ値も特別に割引してくれるという話なんだが……」


「とりあえず話を聞いてから考えましょう…… あっ、ありがとうございました!」


 社長と話している間に目的地である居酒屋の前に到着した。


『虎屋』に来るのは初めてだな…… 居酒屋といっても完全個室の席しかなく、値段も少しお高めになっているから、庶民が軽く飲むには入りづらいんだよね。


「私も久しぶりに来るよ…… 最近は予約を取らないと入れないくらいの人気店だからね、さすが『鬼島グループ』の系列店だ」


 確か飲食関係を経営する子会社の社長が新たに就任してから業績を伸ばしているとかニュースでやっていたよなぁ…… 鬼島会長の娘だっけ? 凄いやり手なんだな。


「さあ、とりあえず入ろうか」


「はい、そうですね」


 そして店に入り、予約をしていた春日くんの名前を店員さんに告げると席へと案内された。


 案内された個室には既に到着していた春日くんと、その隣には三十代前半くらいの爽やかそうに見える男性が並んで座っていた。


「社長、剣持さん、お疲れ様です」


「初めまして、本日はわざわざ来て下さりありがとうございます」


「よろしくお願いします」


 まずは名刺交換…… 会社名は『カンファー』っていうのか、そして名前は……


「カンファーの鎌瀬かませと申します」


 鎌瀬さんか…… 下の名前はけん…… 


 咲希の事があってから、どうしても初対面の人は警戒してしまう。

 でも確か咲希を酷い目に合わせたのは『楠田』だし、下の名前は『カズ』とか言っていたから…… その他にも色々と咲希を苦しめた人物の名前を言っていたが、その中の誰にも当てはまらない。


 ……とりあえず仕事の話をするだけだし大丈夫だろう。


「社長、まずは乾杯をしてからゆっくり話をしましょう」


 そうだな…… 一応、今日は顔合わせ程度の食事会だ。


 そして俺達も席につき、飲み物を注文してから商品の紹介と説明を受ける事にした。



 ◇



 …………


 一人ぼっちのご飯は寂しいな……

 日中とは違い、夜で暗いし余計に寂しく感じるのかな?


 十九時半…… 夏輝の予想では二、三時間で終わるって言ってたし、今日中には帰って来るよね?


 あぁ、早く夏輝に会いたい!

 そして…… ○○からのベッドへ直行してお帰り✕✕✕、いっぱいぺ○ぺ○してから、お△△△でヨシヨシ、□□□□の?!?!で◎◎◎…… えへへっ!


 今日はセーフティーデーだし、たーっぷり✕✕✕に※※※※しても……


 んっ! ダメよ咲希! ご飯中にを垂らすなんて!


 煩悩退散! 煩悩…… 煩悩……


 ふぅっ、夏輝が帰って来るまでちょっとシャドーボクシングでもして発散した方が良さそう。


 そしてご飯を食べ終わった後、少し休んでから私は、ムラム…… いや、運動不足解消のため、軽く運動をした。

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